軟らかな剣
トヨムが『大人の階段を一段高くのぼった』訳だが、これが少しだけ良い影響を与えていた。
剛の剣を振るっていた白銀輝夜、あるいは元から軟剣の使い手であったユキさん。
この二人もまた、静かでありながら斬れる剣をつかい始めたのである。
ただ、キョウちゃん♡やナンブ・リュウゾウ、お前たちはダメだ。
筋力に頼りすぎていて、剣の何たるかをまだまだ理解していない。
以前、居合を学ぶに最初のうちは女子の方が進歩が早いと言った。
その理由を女子は腕力に頼らず、素直な剣を振るからだと言ったはずだ。
体力で優る、強くなりたいという願望の強すぎる男子は、ついつい強く激しく剣を扱いがちだからである。
どうだろう? と士郎さんに相談してみる。
「白銀輝夜とユキさんに、そろそろ木刀を与えてみては」
「まだはやくないかい? 確かに二人とも、めっきり良い太刀になってるけどよ?」
「だからこそ、さ。伸びるときは伸びるもんだ、どんどん伸ばしてやらないかい?」
まあ、リュウさんがそういうならと、士郎さんも同意してくれた。
ということで、二人は日本刀卒業。
もしかしたらしばらくの間、ワンショットキルの技術は失われるかもしれないが、それでも二人をもっと伸ばしてみたい。
ちなみにトヨム小隊の三人娘、シャルローネさんにマミさんカエデさんは、まだ木刀を許さない。
この娘たちは剣客ではないからだ。
普通の女の子なのである。
以前シャルローネさんのことは天才と評しているのだが、天真爛漫無邪気な子供として武にいそしんでいるにすぎない。
だから翁も過酷な稽古は課さないのだ。
教わる側が子供の感性で吸い取ってゆくならば、そこは大人がセーブしてやらなければ。
ではトヨムはどうか?
あれは剣士とかサムライとかいうより、生まれながらの戦士なのだ。
教える側も遠慮など要らない。
むしろ環境だけ整えてやれば、勝手に強くなってしまう。
それがトヨムという生き物なのだろう。
ユキさん、白銀輝夜、あるいはセキトリなどはどうか?
正しく打てば正しく響き、悪しく打てば悪しく響くといったところか。
ただしセキトリは力士だ。
その資質を活かした運用こそが、彼の望むところであろう。
ここでナンブ・リュウゾウやキョウちゃん♡に戻る。
なんでそこまで力むかよ、とか、殺気が強すぎるなどの改善点はだしたがしかし、熱心なのは良いことだ。
だから、少しノセてやるとおもしろい。
名曲、燃えよドラゴンのテーマ。
これを流してリュウゾウにヌンチャクを与えてみよう。
するとどうだ、牙門旗を支えて片手ヌンチャク。
稽古相手をバタバタとなぎ倒したではないか。
続いてキョウちゃん♡。
この小説の開始当初、私も使っていた『暴れん坊将軍・大暴れのテーマ』だ。
加齢に、かつ優雅に剣を振るい、これまた稽古相手を斬って斬って斬りまくる。
ようするに、男の子というものはそういう生き物なのであり、彼らは紛れもない男の子なのだということだ。
ぬるい者には熱く接し、熱い者には涼しく接する。
柔なやつには硬く接して、硬いものには柔に接する。
だからといって正しき者に悪事を教えるのは違う。
そういうのは単にお遊びの場だけである。
しかし軽快に戦うキョウちゃん♡に対して、師である士郎さんの目はやはり厳しい。
「動きは軽くなったがよ、それでも粗さが目につくんだよな」
「相変わらずキョウちゃん♡には厳しいですな、士郎先生」
少しまぜっ返すように云う。
「あの戦さっ気がもう少し抜けりゃあ、ちったぁマシになんだがよぉ」
ミスター・戦人が何ほざきやがる。
と思ったが、ふとひらめいてしまう。
「もしや士郎さん、自分の師匠にそれを言われまくりの言われ続けだったのでは……?」
「……………………」
憮然としてしまった。
図星だったようである。
カエルの子はカエルという奴らしい。
「では士郎さんはどうやってそこを脱出したんですかな?」
「本当に脱出できたのは三十路に入ってからかな? だが和解時分でも、親父の剣は違うとは感じていたさ」
要するに士郎さんとしては、キョウちゃん♡に真似っ子して欲しいということだ。
この真似っ子も時には悪く無いものだ。
よく言われる通り『学ぶ』は『真似ぶ』、真似からはじまるものなのだから。
「それをあのバカ、『剣とはこういうもの』なんて勝手に思い込みやがって」
それもまた士郎さんの師匠、すなわち御尊父から三山に言い聞かされた評価なのかもしれない。
熱血漢草薙士郎、その魂はしっかりと受け継がれている。
つまりまだまだ草薙流は残ってゆくということだ。
次世代。
そのために私は『王国の刃』という世界に足を踏み入れた。
では私に後継者は? となるといささか心許ない。
私はまだ無双流の技術を伝えきってはいないのだ。
技は初伝まで。
『王国の刃』における弟子たちには、わざとそこまでしか教えていない。
すべてを無双流で染め上げる訳にはいけない、というのが理由のひとつ。
いまひとつは、やはりここはゲーム……遊びの場なのであって、修業の場ではないからだ。
「おう、誰か『俺にもできそうだな』って奴ぁおらんか?」
緑柳先生が、刀を持つ者たちに訊く。
ちょっとやってみないか、と立ち上がったのは陸奥屋一党抜刀隊の面々だ。
「俺たちもやってみないか?」
口を開いたのは紅の挑戦者、チーム・ジャスティス。
もちろんマヨウンジャーやカツンジャー、さらにはヒナ雄くん率いる『情熱の嵐』も参戦だ。
お相手はチーム『まほろば』の乙女たちから五人を選抜。
「とはいえなにか熱いBGMは無いもんかのう?」
「燃えよドラゴンや暴れん坊将軍ではパターンが決まってしまいますからね」
「ほいじゃあこんなのはどうじゃろ?」
ポンと曲をセレクトしたのはまほろばの金髪お嬢さん、近衛咲夜さんだ。
その曲は……燃え盛る町を背に、行進する軍隊を彷彿とさせるなんとも勇ましい曲調だった。
「ホルスト作曲の『惑星』から、火星をチョイスしてみたんよ」
火星、軍神マーズだったか。
なるほどそれに相応しい曲だ。