ファースト・コンタクト
柔よく剛を制す、口で言うのは容易いが実際のところ可能なものかどうか?
たぬきは疑っているようだが、そこはW&A。論より証拠である。
セキトリやダイスケくんを含んだ力士隊六人、対するはプロチームのうち女性四人を全面に押し出しての隊列。
「まずは大型三人で、強く当たらせてもらうぞい」
前衛三人と前衛四人のにらみ合い。
後衛三人の力士はいずれも中型アバターで、プロの後衛はモヒカンにモンゴリアンといった大型選手。
これがハッキヨイとばかりにファースト・コンタクト。
その立ち合うセキトリたちの動きが、一瞬止まった。
目である。
手槍のさくらさん、薙刀のヨーコさん、斬馬刀のライが書店で大男たちの目を狙い、動きを封じたのだ。
そこへヒカルさんが電光石火の抜き付けで、胴をひとつ粉砕。
ガラ空きの腹にさくらさんがひと突き。
ライとヨーコさんがしりぞく。
そこへモンゴリアンの手やりが突きこまれ、蛮刀を振り回すモヒカンが乗り込んだ。
時折目にする、アメリカンフットボールの試合。
あの立ち上がりを見るような思いだ。
よーいドンから各選手が機能的に動き出し、見応えのある連携を生み出す。
こうなるとアメフトというゲームも、ある種の戦闘行為と見ても良さそうだ。
ちなみに余談ではあるが、アメフト選手の中にはシーズン・オフにはプロレスラーとして稼ぐ者もいるそうで、なんとも働き者なことだと思う。
初手、立ち上がり、立ち合い。
様々な呼び方はあろうが、ここはカエデさん戦法が上を行った。
その他の戦法、前衛を女子三人。あるいは大男たちとヒカルさんといった具合に、前衛の攻めに変化を持たせたりもした。
いずれの形をもってしても、プロチームは力士隊の出鼻をくじくことに成功。
アメフト軍団を制圧する自信をつけることができた。
この結果は如何なるものか?
個人個人の火力の高さもあろうが、何よりも連携の深さだと私は思う。
自分にできること、できないこと。
得手とすること不得手とすること。
一人ひとりが自覚をもち、お互いを助け合うという考えの元、ひとつの目標を目指しているからこうした連携が生まれるのだ。
そしてその連携は、アメフト軍団にもある。
しかしここでひとつ、アメフト軍団には無く日本人にはある物を訴えたい。
作家三島由紀夫は言った。
『ナチスのゲシュタポにも、自己尊敬はあった。そして自己責任というものもある。だが日本人だけが有する感覚がある。それは自己犠牲の精神だ』
そう、チームのためにここは自分が損をする、という考え方。
これがアメリカ人にあるかどうかだ。
個人主義という考え方に、自己犠牲ができるものか?
合理主義の中から、自己犠牲を見出すことができるかどうか?
ただし、個人の感覚は個人の自由である。
これを押し付けることなど、あってはならないのだ。
このエピソードが『自己犠牲』により華々しい勝利を飾ることとなっても、読者諸兄はおかしな感化などされてはいけない。
自己犠牲だろうと正義だろうと、それは思想良心の自由なのだから強要はいけない。
さて自己犠牲の精神はそれとして。
やはりW&Aにはそれぞれ得意とする種目がある。
今回はそれが如実にでていた。
モヒカンやモンゴリアンといった大型選手は、やはり一発を持っている。そして力負けしないタフネスだ。
一発というなら、もちろん陸奥屋まほろば連合の一員。六人が六人とも火力はある。
しかし大型の二人は多少無理のある姿勢からでも、強引に一発クリティカルが期待できた。
そしてさくらさんとヨーコさん、この2人は技巧派だ。
開かれた突破口を押し広げてくれる。しかも細かいポイントを奪いながらの戦果拡大なのだ。
大変に頼もしい中堅と言える。
最後にライとヒカルさん、小柄な二人だ。
彼女たちは道化師役、別な言い方をすれば敵の引きつけ役だ。
どちらか一人が生きていれば敵の間をチョロチョロと駆け回り、ポイントを奪いながら「こっちへおいで」をしてくれる。
これは戦況が苦しくなった時に、大変なありがた味を発揮してくれる。
なにしろ数的不利になろうとも、味方の死に帰りまでの間、現場を維持してくれるからだ。
今のところW&Aをそこまで追い込むチームが現れないので、なかなかありがた味が分からない状況なのだが。
「で、忍者。アメフト軍団ではここまでの役割分担はできていたかな?」
私が訊く。
「役割分担そのものはできていた、もちろんそれぞれのジョブも自覚している。問題は個人個人のクオリティって奴だが……ここは雲泥の差でウチに有利だ」
忍者が答えた。
「分かったかい、たぬき。何故カエデさんの考察が正しいのか」
「いえリュウ先生は『カエデさんが責任者だから正しい』としか……」
「たぬき、昨日のことは忘れなさい」
「いえ、ついさっきの事ですから」
歌の歌詞ならばここでダンディーに、聞き分けのないたぬきの頬をビッシビシと張り倒すところだが、最近では歌詞の世界も理解できぬのかDVとか呼ばれてしまうらしい。
連れては行けぬと理由のある男、それでも泣いてすがる女の未練。
そこは情けでは生き延びられない、まさに非情の世界。
ハードボイルドも遠くになってしまったものだ。
私にはハードボイルドの『ハ』の字も無いが。
ヘミングウェイの短編集『男だけの世界』だって、タイトルだけで言葉狩りに遭いそうな昨今ではなかろうか?
ま、私とは縁もゆかりも無いハードボイルドは置いておいてだ。
ビジネスの世界に活きるプロ選手たち、近々のうちに出撃である。
【ヒカルさんチャンネル】
あ〜あ〜あ〜……聞こえますか〜?
イェ〜イこんソナター。オーバーズの腕相撲チャンピオン背筋力は百キロ越えの天野川ソナタです〜♪
何気にフルネーム初公開ですー。
本日は自分のチャンネルを置き去りに、W&Aプロ選手ヒカルさんのチャンネルから実況生中継ですよー♪
株式会社オーバーの山郷社長は、陸奥屋に借金でもあるんでしょうか?
社長命令による、緊急時名前配信ですー♪
まずは実況席からMCマスター・オブ・セレモニーを仰せつかりました、ボク天野川ソナタと解説評論はおなじみのこの方。
「陸奥屋まほろば連合で現場指揮をとっています、下っ端参謀のカエデです」
ややや、いきなりそういうこと言わないの。
そしてゲストにはオーバーズが誇る視聴率女……。
「ヤイ〇ホー!! 磨き抜かれた肌は南海の真珠貝。宇宙海賊戦艦ダンデライオン号艦長……エマ・ストーンよあはぁん♡」
アホの宝島マリナでお送りします。
次回をお楽しみに。