今回短め更新
さて、ヤハラくんとたっぷり遊んだところで、プロチームの話題だ。
試合に先立ってなすべきことは敵の情勢を知ることであるが、そこは過去戦の資料を漁りカエデさんが戦略を立てていた。
そうなるとほかに知るべきことは『なう』である。
いま現在敵の司令塔がこちらの『W&A』をどのように見ているか。
どのような戦法を取ってくるか、どのように鍛えているか、だ。
それを調べるのが鬼組の忍者であり、その子分とも呼べるワンコ、ニャンコ、たぬきであった。
「ずばり、フォーメーション訓練に取り組んでいたな」
忍者がかたる。
なるほどそうでしょうね、とカエデさん。
「敵はアメフト軍団。戦闘の初手はセットプレーから始めたいでしょうね。それで忍者、セットプレーからの展開は?」
「なかなかに連携が取れてたな、誰も孤立しないようにオール・フォア・ワン、ワン・フォア・オールの典型だ」
「W&Aの闘いに似てるわね」
「そりゃまあ、研究はされてるだろうさ。常勝無敗のプロチームなんだから」
「じゃあどうする?」
「彼我の体力差は大きい、その利点を活かした連携もバッチリ。そんな敵をむこうに回してとなると……」
「ハイ先生!! たぬきは火力の強化を唱えます!」
それに対してカエデさんの答えは『敵の策の裏をかく』、意見が真っ二つに割れた。
「うんうん分かるよたぬき。だけど敵だってこちらが火力のアップデートしてくることは想定済み。それを見越してのセットプレーを取って来ると思うんだ」
「カエデさんはいつもそうです、策略を練るのは正しいでしょうね。ですが考えてみてください、ごちゃごちゃとした作戦じゃたぬきには実行なんてできません!」
「策略無しの腕力なんて無用でしょっ!?」
「火力無しの策略だって無能じゃありませんか!?」
「まままお二人とも、落ち着いて落ち着いて」
割って入ったのは忍者である。
「どちらの御意見もごもっともとは、この私も思うがしかし、ここは上に方針をゆだねてみてはいかがだろう?」
ということで、高級参謀のヤハラくんと参謀長の出雲鏡花を交えての話し合いとなる。
が、しかしここでも脳筋と裏なり青瓢箪の罵り合いとなってしまう。
そこで呼び出されたのが私たち四先生と、W&Aの当事者たちであった。
「そりゃあカエデさんが正しいだろ」
私はたぬきに言った。
その理由は簡単だ。
「カエデさんは作戦立案の責任者だから」
そう、だからこそ彼女の作戦や方針は最優先される。
そしてカエデさんの立てる作戦は、シンプルさが信条。
兵にあれこれ考えさせないのが大変に好評なのである。
「それにね、たぬき。火力の強化に関しては毎日先生方が、稽古で底上げしてくれてるから心配無いんだよ?」
「じゃあ具体的に、どんな作戦を立てるんですか?」
「そのためにも、彼我の戦力比較だね」
ということで調査員『忍者』の出番だ。
「敵はアメフトらしくというか、アメリカ思考というか六人チームの半分、三名を壁に割いている」
ここで過去戦の動画が展示された。
両軍接近、あと少しで間合いというところで頭を低くした三人のタックル。
相手チームの中型大型アバターを吹き飛ばし押し倒している。
そこへ後衛の中型アバター二人、小型アバター一人がトドメを刺しにくる。
「ウチの西遊記戦法に似てるでしょうか?」
たぬきが言うが、それは違う
アメフト組の目的は、まずタックルによるテイク・ダウンで防具の破壊を目指している。
つまり得物によるストライク能力、打撃力に難があるのだ。
それも当然、彼らはアメフトプレイヤーであって、『王国の刃』ではまだ新人に過ぎないのである。
ただしこのタックルによる攻撃、この打撃力に関してはピカイチと褒めておこう。
「ということで、我が軍に二人しかいない大型アバターを、敵は三人も揃えています」
「嫌ですねぇ、モヒカンさんやモンゴリアンさんがやられるところなんて、見たくないですよ?」
たぬきは不安を口にするが、カエデさんは人差し指を横に振る。
「チッチッチッ……たぬき、ここでW&Aのサルサルブタカッパなのよ♪」
「へ? 西遊記にしてはサルが多いですよ?」
「その増えたサルってのが、私。ライ姉さんってことさ」
つまり敵が壁三人でファースト・コンタクトを制しようというのなら、こちらは柔よく剛を制す。
女子四人で対応するということだ。