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その男、ヤハラ・ヒロカズ

暗黒の中にピンスポットのライトが落ちる。

照らし出されたのは、粗末なパイプ椅子。

ライトの中に歩み入り、パイプ椅子に腰掛ける痩身長躯メガネのインテリ面。


言わずと知れた陸奥屋まほろば連合高級参謀のヤハラ・ヒロカズだ。

何気にフルネーム初公開である。

その表情はいつも通り、冷たく硬い。



「ようこそヤハラ高級参謀、まずはくつろいで下さい」



室内に、妙に通る声。

まるで配信者のようだ。



「くつろいでと仰られても、お茶も何も無しではくつろぎようがありませんが。あ、お茶ならアッサムをお願いします。利き茶はまったくできませんが」



人を食った返答だ。

そして男はすでにくつろいでいた。

こんな返答ができるくらいなのだから。



「お茶は出せませんが、ヤハラ高級参謀には少し質疑応答に付き合っていただきます」

「なんなりとどうぞ、ですがスリーサイズ上から三つと陸奥屋まほろば連合の機密事項、ならびに電話番号とメールアドレスはお答えしかねます」

「クッ……なかなかしぶといな、お前……」

「不利になったら話題のすり替えしますけどね?」



ヤハラ高級参謀対オーバーズ(仮定)のやり取り、ここまではヤハラくんの横綱相撲だ。



「ではヤハラ高級参謀、お名前からお願いします」

「本名トム・クルーズ……」

「嘘つけこの」

「嘘つけと言ったから嘘をついただけですが」



本当は嘘つけと言う前に嘘をついたのだから、ヤハラくんの落ち度ではある。

しかしそこをツッコむほど、お嬢さん方は社会経験を積んでいない。



「質問を続けます。貴方とナンブ・リュウゾウとの出会いは?」

「時は元禄十五年、師走の……」

「まあ、このくらいのボケは来るよね」


「もちろん冗談です。あれは高校入学時でしたか、サクラ舞い散る春の日差しの中、誰よりも颯爽と校門をくぐったのがナンブ・リュウゾウでした」

「ということは、入学早々にナンブ・リュウゾウ氏を見初めていたと?」

「はい、一目惚れでした」



ザワつく質問者サイド。

中には息を荒らげる者も出て、落ち着きをうながされる始末。

逆にヤハラくんからの質問。



「良いとは思いませんか? 体力自慢の少年が、奸計に落とされてヒーヒーと良い声で鳴く姿」

「……ゴクリ」

「ぎゃ、逆はあり得ないんでしょうか? 仮に、もしも仮にですよ? ナンブ・リュゾウ氏の横綱相撲で、ありとあらゆる手練手管を突破されるような……」



ヤハラくん、ここでマイクに口を近づけASMRのようなささやき声。



「リバ受け、OK……。逆にすべてを受け入れる器の広さを見せつけてやりますよ。もっとも、リュゾウの方が器のおおきな男ですが」



プロの配信者たちはキャーキャーと黄色い声をあげた。

中には満足度のあまり天に召されるモノも出たほどだ。



「質問を変えます、ヤハラ高級参謀。高校の同期ということは、修学旅行も一緒でしたか?」

「えぇ、おなじクラスのおなじ班で。……あ、お風呂の話ですね?」



察しが良すぎるヤハラくん。

もちろんトークも期待どおりの展開だ。



「ナンブ・リュウゾウときたらそれはもう、男である私の目から見てもほれぼれするモノの持ち主で、同期の中でも群を抜いていましたよ。……筋肉が」

「文字通り隆々としていたんですね……筋肉が」

「血管なども雄々しく浮き上がっていたことでしょう……筋肉が」



ゴクリと喉を鳴らして、待ち構える乙女たち。

高級参謀は勝ち誇ったように答えた。



「ビキビキに血管が浮き上がってましたよ……筋肉が」



しかも、と高級参謀は続ける。



「すごくすごく、大きいんです……筋肉が」

「はにゅ〜〜ん♡」



配信者(仮)のひとりが、至福感に包まれて倒れたようだ。



「あ、お断りしておきますけど本当に筋肉の話をしてますからね。女性が期待する『男の小道具』に関しては、日常と合戦準備ではサイズがまったく異なりますから判断はできません」

「じゃじゃじゃじゃ、じゃあですね。ずばりうかがいますが高級参謀、ナンブ・リュウゾウ氏はウケでしょうか攻めでしょうか?」


「総受けですね、彼は。腕っぷしに自信があろうとも、快楽には勝てません。ましてそんな修業も訓練も積んでいない在校生となれば、少しやさしくされるだけで……」

「されるだけで……ゴクリ……」

「恍惚の放物線でしょうね」(注1



台パンの乱れ打ち。

あるいは歓喜のドラミングとでも言おうか。

はにゅ〜〜んだけでなく、くふぅ〜〜んといった変わり種な黄色い声まで飛び交った。



「あの、ここで気を取り直して。初歩的な質問で恐縮ですが、『男の小道具』というのは普段と戦闘時には、そんなに違うものなんですか?」

「そりゃもう、ジキルとハイドのように……って、表現が古かったですか?」

「ひつじの皮をかぶったオオカミの方がわかりやすいかもです」


「なるほど、温厚な草食動物が獰猛な肉食獣に変身するような。ですが『男の小道具』というのはどちらかと言えば、怒り狂った首長竜、プレシオサウルスのような感じです」

「いやぁ〜〜ん、プレ潮サウルスだなんて、なんだかエッチ〜〜♪」


「誤変換しないでください。これはあくまでも真面目な質疑応答なんですから。ワイ談とか破廉恥トークではありません」

「失礼しました。それでは最後の質問とさせていただきます。近頃そのナンブ・リュウゾウ氏に鬼組のキョウちゃん♡さんが急接近していますが、心穏やかならぬところかとお察しします」

「そこはそれ、キョウちゃん♡くんもイケメン。私としてはオカズが増えたようなもの」


「心が大らかですねぇ」

「むしろ二人がかりでリュウゾウめを、攻めて攻めて攻め抜いて!!」

「はかどります!! それ絶対にはかどりますってば!」

「では私、ヤハラから最後の回答をさせていただきます」

「おや、なんでしょう?」



「全部ウソ♪」



そして軍師は、五月の風のように去って行った。





(注1 『恍惚の放物線』 かつてコミック雑誌レモンピープルで人気を博した破李拳竜氏のデビュー作。作者寿も『撃殺宇宙拳』を所持していた。

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