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イベント二日目、開幕

 さあ、二日目の戦場だ。もちろん会場へ先んじて入り、自分たちの立ち位置や敵との距離感を計っておく。ウロウロと歩き回ることはできないが、周囲を確認するくらいはできた。私のそばにはカエデさん少し離れてセキトリとマミさん。トヨムとシャルローネさんは人の群れの向こう。


 士郎先生もいる。拳闘士の吶喊組を率いている。背後には抜刀組、力士組、槍組などがいた。まずは彼らを後退させること。そのためには力強いひと押しが必要になる。そのための戦力が私たちトヨム小隊、そして姿の見えない鬼組である。



「みんな、銅鑼と同時に強く当たるぞ。その隙に一党のみんなは後退してくれ」



 トヨムからの通信だ。



「ひとつ強く当たったらカエデさんはシャルローネさんと合流。囮の位置についてくれ」

「わかりました、リュウ先生」



 中空に浮かんだ巨大時計。その針が午後七時を指すまで、あと十秒……五秒……二……一……銅鑼ゴング



「前進! ぶっ飛ばせーーっ!」

「鬼組突撃ーーっ!」



 私たち陸奥屋前衛が力強く当たった。私だけでひと呼吸で三人。士郎先生も同じ数を葬る。そして右からセキトリとマミさんのコンビが、左からはトヨム・シャルローネのペア。そしてユキさんキョウちゃんを先頭とした鬼組の面々が突入してきた。そして吶喊組がグイグイと押して空間を作ってくれる。



「前衛後退、いまのうちだ!」



 士郎先生の号令でまずは吶喊組がさがった。敵も前へ出ようとするが、鬼組若党がそれを許さない。トヨムの拳が早い、西軍の一角を瞬時で消滅させる。空間がまたもやできた。鬼組が後退、そしてシャルローネさんとカエデさんが合流。



「いまのうちだ、囮の位置まで!」

「はい、リュウ先生!」

「どうぞご無事で!」



 ここで私と士郎先生が討って出た。バシバシと敵の防具を吹き飛ばす。西軍の前進が弱くなる。囲まれないように、後退しながらの攻撃だ。



「一丁やるか、リュウ先生?」

「もう少し踏ん張ろう。もうじきカエデさんとシャルローネさんが囮になってくれる」





 しかし敵もさるもの、大きくグンと出てきた。私と士郎先生で木刀を励ましこれを迎撃した。そのことごとくが防具破壊のみ。一撃で防具を破壊された者は後退したが、なにも知らない無傷な者は、恐れ知らずで前に出てきた。さすがに私たちも、ここは頑張らなければならない。バタバタと防具を叩き割る。その繰り返しを、もう二回。急に敵の数が減った。



「旦那! 敵が囮に食いついたぞ! 今のうちにコッチコッチ!」



 トヨムが手を振っている。士郎先生とともに後退した。



「防衛線の構築は!? まだ敵は押して来るぞ!」



 士郎先生の檄に、陸奥屋一党全員で鉄壁を構築した。前衛は鬼組とトヨム小隊、その後段に槍組。吶喊組と抜刀組、力士組が遊撃隊として控えている。そして陣地中央には陸奥屋本店。しかしよく見ると、忍者の姿が見えない。



「どういうことですか、士郎先生?」

「本店から要請がありましてね、別働隊というか、ゲリラ戦に出てもらっていますよ」





 マップを開いてみる。大勢が蠢く広大な戦場で、ただ一点。青い印が光っていた。エリアギリギリのラインを、すでに豪傑格が守る防衛線をくぐり抜け、すでに英雄格に迫っていた。


 ふむ……この作戦は面白い。ゲリラを送り込んで一戦確実に勝利する。誰にも知られず、気づかれぬうちに……。しかしこれが目に見えて、なおかつ私の身に降りかかる作戦を思いついてしまった。背後に、鬼将軍の気配を感じる……。



「リュウ先生、士郎先生……」



 歩く迷惑は静かに口を開いた。



「お二人で敵の陣地を占領するというのはどうであろう?」



 そう、私と士郎先生で出撃、敵の豪傑格以上の陣地を占領。そこに敵の復活兵をおびき寄せることにより、現在防衛中の敵陣地を盤石とする。しかし問題はある。士郎先生が口を開いた。



「総裁……それは、面白いですか?」

「む?」

「はばかりながらこの草薙神党流と柳心無双流。並び立てば勝利は容易いものになりましょう。しかし安易な勝利を求める者が、この陸奥屋にありましょうか?」


「……………………」

「もしも勝ちを求めるならば、奇手は土壇場。それまでは危機を煽る方がよほどスリリングで面白いものかと……」




 鬼将軍の椅子が片付けられた。美人秘書たちは得物を改め始める。



「セバスチャン、敵は勇を鼓して逆転をねらい、この陣地に攻め込んで来たな」

「いずれ劣らぬ勇者でした」



 燕尾服の老執事は恭しく答えた。



「ならばセバスチャン……我々も敵陣へ攻め込まねば、フェアとは言えないな」

「お館さまの思いのままに……」


「陸奥屋一党出陣用意! 現時点をもってこの陣地を放棄、西軍B陣地へと攻め込み、これを強奪する!」

「ラッセーラー!」

「あ〜〜囮役のカエデさんシャルローネさん。鬼将軍がおかしなことを言い出したんで、私たちはこれからB陣地へ攻め込みます。そちらで落ち合いましょう」



 小隊無線で囮役の二人に連絡を取る。「え〜〜っ!?」とか「なんでなんで〜〜!?」という驚きの声が帰ってきたが、決定項は覆らない。



「陸奥屋一党、出撃ーーっ!」



 鬼将軍の号令で、私たちはA陣地を捨ててB陣地へと出撃した。私たちが動き出すと、西軍はA陣地に残っていた東軍勢力と衝突。しかし状況不利と見た東軍勢力はあっという間に陣地を放棄、陸奥屋に追随した。道中の障害は大したものではなく、これまで同様新兵と熟練程度の格付けでしかなかった。しかし、陣地防衛の手の者たちはそうではなかった。


 ユキさんと引き分けた白銀輝夜、トヨムに僅差で敗れた三条葵。さらには長ナタの若者たちに迷走戦隊マヨウンジャーの面々。戦力は充実している。その中のひとりの若者が、顔を輝かせた。



「陸奥屋一党!? ということは、シャルローネさんも!?」



 残念だったな、若者よ。シャルローネさんは囮役で出張中だ。そして案の定、彼女の姿が無いことを知ると、若者は肩を落とした。



「若者よ……ウチで預かっている嫁入り前のお嬢さんに興味があるようだが……なに、怒ってなんかいないさ。ちょいと君には見込みがありそうなんでね、ひとつ稽古でもつけてやろうかと思ってね……」

「あ、トヨム小隊の坂本龍馬さん。それ本当ですか?」

「いやいや旦那、それって稽古の雰囲気じゃないから……。明らかに殺気だから……」



 トヨムはそう言うが、若者というのは素直なものだ。ノコノコと私の前に出てきたではないか。



「お願いします」



 と言って一礼する姿勢も好感が持てる。チーム『情熱の嵐』の面々は興味深そうに私たちを見ている。しかし『トヨム小隊』のメンバーたちは、私から距離を置いていた。



「いざ!」



 ヒナ雄という若者は長ナタを八相に構えた。その刹那、末端から防具を飛ばす。小手ふたつ、スネふたつ。そこで向こうの面々が得物を構えた。遅い!

私はすでにヒナ雄青年の小手を奪っていた。



「領主!」



 青い革鎧の若者が、ヒナ雄青年の襟首を引っ張って後ろへさげる。……残念、撤退にまでは追い込めなかったか。できれば撤退だけでなく、二度とシャルローネさんに興味を持たぬよう、心に傷を入れたかったのだが……。



「待たれよ」



 私と『情熱の嵐』メンバーの間に割って入ってきたのは、剣士白銀輝夜であった。



「リュウ……殿と申されるか。それではまるで弱い者いじめだ。ひとつ私がお相手しよう」

「いや、君の相手は私より、そこの二本差しの悪そうな浪人の方がよかろう。あれは同志ユキの師匠だ」

「ぬ……」



 ユキさんの師匠と紹介されて、白銀輝夜の興味は士郎先生に移った。そして私は私で、こちらに熱い視線を送りつけてくる三条葵に言う。



「そして三条さん。私はトヨムに少し教えている者だ」

「『情熱の嵐』のみなさん、申し訳ありませんが、こちらのおサムライさん。私がお相手します……」



 三条葵はそう言って構えた。白銀輝夜も腰の刀に手をかける。居合のようだ。私と士郎先生は木刀を抜いていた。大サービスである。なにが大サービスかというと、居合というのは刃が鞘の内にある。抜刀の態勢は刃が見える。つまり、抜刀した構えというのは『どこを斬ってくるか?』がわかりやすいのである。


 もちろん剣術というものは、そんな安っぽいものではない。しかし居合にくらべればかなりの大サービスといえる。居合は切っ先が鯉口を離れる瞬間まで、どこを斬ってくるかまったくわからないものだからだ。



「いざ……」



 三条葵、白銀輝夜、ともに厳しい気配を送ってくる。トヨムもユキさんも、こんな殺気を浴びていたのか……。しかし、私の太刀は三条葵の首へ。そして士郎先生の太刀は白銀輝夜を袈裟がけに一撃。若獅子二人は一刀のもとに撤退となった。



「まだまだ若いな」

「今日明日にも追い抜かれる、ということは無さそうだ」



 そう、目録くらいには進んでいよう。しかし免許の腕というにはまだ若い。切紙、目録、免許、印可、総伝。大雑把に言って、古流はそのような段階を踏む。はっきり言ってしまうと、私や士郎先生は総伝に近い。まだまだこのような若造どもには負ける訳にはいかないのだ。それだというのに。



「申し訳ないのだけど、どれだけそちらが強くとも、『はいそうですか』と陣地を明け渡すことはできませんのでね」



 オールバックの優男が、手槍を構えた。『迷走戦隊マヨウンジャー』のリーダーである。そしてそして私が小手を飛ばしたヒナ雄青年も長ナタを構えた。回復ポーションを使ったのだろう。小手の欠損は回復していた。



「その意気や、良し!」




 私も八相に構えた。

 そこからは、正直一瞬であった。若者たちをすべて撤退へ追い込み、私たちはB陣地を占領できた。東軍B陣地を占領していた連中だけあって、不正者など一人もなく、みな堂々の戦いぶりであった。まさに好漢といえよう。


 さあ、今度は右から左から、敵はあちこちから攻めてくるぞ!

もちろん防衛の最前線は、私たち陸奥屋一党。その中でも、私と士郎先生である。東軍新兵格、熟練格の連中も多数陣地に詰めているが、はたしてどれほど役に立つやら。



「リュウ先生! カエデ、帰還しました!」

「同じくシャルローネ! 無事生還です!」

「二人ともお疲れさま、おかげでB陣地を占領できたよ」


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