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向上心旺盛か欲たかりか?

プロ選手、アマチュアイベントの準備が着々と進行する中、やはり彼女たちもからんできた。

配信団体オーバーズの艦長である。



「ときにリュウ先生? さきほどプロ選手たちに授けていた秘中の一手ですが……」



妙に艶めかしい視線を送ってくるが、残念。

私は彼女の切り抜き動画で知っているのだ、彼女が視聴者リスナーに年齢ネタでイジられていることを。

だから私に艦長の色仕掛けは通用しない。というかそもそも私にはだれの色仕掛けも通じない。



「そーそーリュウ先生、カモメにもアレ教えてくださいよ!!」



カモメさんまで教えを請うてきた。

それを期にオーバーズアイドルさんたちが、我も我もと押し寄せてくる。

基本的にこの講習会は出入り自由、なのに現在では陸奥屋まほろば連合しか受講していない。


とはいえ世界のビッグ・ネームであるオーバーズがこんなに集まってよいものかどうか。



「よっし!! ここはひとつ公平な方法で先生に教えを請うとしようじゃない!」



そう提案したのは、公平という言葉とは一番縁遠いと思われるハツリさんだった。



「良いかなみんな、この中で一番の先輩って、誰?」



それはハツリさんなのだが、そんな不公平をとおすほどオーバーズも甘くない。

「ズルだ」「インチキだ」と罵声を浴びせるのだが、ただ1人カモメさんだけが不敵に笑う。



「フッフッフッ、そう来ると思ってたぜハツリ先輩!! そこはカエデ参謀に鍛え抜かれたこのカモメ、まったく抜かりは無いんだよ! いでよ我らが始祖アイドル、ハッつぁんよりも古参の海ちゃん先輩!」



ボワンという間抜けな爆発音、そして煙がモクモクと立ち昇りひとりのVtuberがあらわれた。



「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン♪ だけどカモメ、私を呼んでどうするの?」



ご存知、メイドのミナミさんがそこにはいた。



「お前ぇじゃねぇ、なんでここに出て来やがった!!」

「だって海先輩、配信中だから……」

「だからといってお前が来たところで、理不尽女王の猛威は止められんだろ?」



混沌とする現場だが、そのとき理不尽女王がミナミさんになにか耳打ちする。

そして両者の間に、何やら合意があったようだ。



「あのねあのね、ハツリちゃんがアタシとイジリイジラレ・コラボしたら退いてくれるって……」



その言葉を聞くや艦長さんは、ミナミさんの両肩をガッシリと掴みしっかり目を見詰めて言い放った。



「ミナミちゃん……あなたの尊い犠牲は、艦長たち三〇秒だけ忘れないわ。いってらっしゃい、女帝を屠るために……」



三〇秒だけかよ、そして生け贄出すのかよオーバーズ。

大した結束、見下げ果てた断決じゃねーか。

そして生きる理不尽は、イジラレ・クイーンを引きずってログアウトしていった。


メイドのミナミさん、きみに幸アレ!




そして話は戻る、というか停滞していて一歩だって前には進んでいない。

プロ選手たちに授けた秘中の一手である。

続々とインしてきたオーバーズが、是非に何卒なにとぞとせがんで来る。


「いや、指導しても構わないけどただただ基本を繰り返すだけだよ? そしてアレは何年もかかる地道な稽古なんだ。それよりも今は手数を増やして一気呵成、それを身につけた方が早いと思うけどね」

「え〜〜そうなんですかー?」

「そう、とある中国武術家は言った。基本が大切なのは分かるけど、ABCのアルファベットを繰り返しても英語は身につかないってね」



もっとも、ABCのアルファベットばかりやって新たな言語を発明するのが、私たち日本人ヘンタイの特徴なのだが。

ま、それはそれとして。



「あちらでみんなを鍛えるために、エンジェル・カエデさんが手ぐすね引いて待ってるから。是非とも参加してあげると良い」



もしかしたら秘中の教えひとつで、シャラランラ〜ン♪と強くなれるかも、という淡い期待があったのだろう。

アイドルさんたちはスポ根漫画もかくやとばかりにシゴかれて、愉快な悲鳴をあげていた。



「いやん、ちょっと待ってカエデちゃん!!」

「その攻めはっ、その攻めはいささか厳しぅござるっ!」

「死んじゃうからっ、そんなことされたら死んじゃうってばアーーッ!!」



もちろんお相手はカエデさんではなく、ネームドプレイヤーたちなのだがしかし。

稽古を申し出たのは君たちなのだ。

私もカエデさんも悪くはない。



「艦長のっ、艦長の保有してるオーバーズ株ぜんぶ譲渡するからっ、許してカエデちゃんお願いーーっ!!」



艦長、お前そんなモノもってたのかよ。

明日から大金持ちだなカエデさん、全部ウソだろうけど……。

おや? ネームドプレイヤーとして紛れ込んでいるセキトリが、怪しい得物を携えているじゃないか。


ちょっと訊いてみよう。



「ほい、こいつは九歯巴きゅうしばとかいう武器らしいんじゃが……」

「選んだのは、カエデさんだね?」

「わかりますかいのぅ?」



分からいでか。

なぜなら九歯巴という武器、どこからどう見ても猪八戒のアレにしか見えないからだ。

シャルローネさんの沙悟浄、セキトリの猪八戒と来て選りにも選ってトヨムが長杖(定寸よりも長め)を携えて立っているのだ。


西遊記か?

西遊記なんだろカエデさん!?

きみ今回は明らかに遊んでるよな!?


うん、おじさん怒らないから正直に言ってごらん?

カエデさんの失敗チョイス日輪楯の時点から、遊ぶ気満々だったんだろ!?

問いただすとカエデをはシレッと答える。



「だって達人先生からすれば、筋育ダルマの群れなんて楽勝ですよね?」(注1



いつからこの娘は、他人の苦労を考慮しない娘になったものか?

師としては恥ずべきばかりである。


だがしかし、カエデさんはシレッと言う。



「え〜〜っ!? リュウ先生、人種の壁を越えられないんですかーーっ!?」



おう、言ってくれたな小娘。

黒人のアメフトプレイヤーだろうがヘヴィ・ウェイトのチャンピオンだろうが、なんでも相手してやるぜ!!


そう決心した私を、士郎さんが指さして笑ってくる。

マンマと策にはまったな、馬鹿野郎が。

そのように笑っているのだがしかし、士郎さん。

アンタもサイを握った時点で私を笑えないんだよ?




(注1 『筋育ダルマ』 筋肉ダルマの誤字なのだが、あながち間違いでもないのでこのまましないでおきます。筋肉は食って育てるものなのだ。

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