カエデさん対ヤハラくん2
ということで、プロチームの編成は巨漢二人にヨーコさん。
軽量級の二人にさくらさんといった編成。
とりあえずうるさそうなトヨムとアキラくんを、さくらさんチームに丸投げするという戦法だ。
「それじゃあみんな、派手にやってやろうぜ!!」
トヨム小隊長の一声に、力士隊たちは「応っ!!」とこたえた。
両陣営、分かれて整列。
トヨムとアキラくんは、ライとヒカルさんに近い位置にスタンバイ。
開幕の銅鑼、同時にトヨムとアキラくんが突撃した。
一気に両軍の間合いを潰してゆく。
そして力士隊も、仮想アメフト軍団とばかり、怒涛の突撃を見せた。
プロチームも自ら間合いを詰めてゆく。そしてトヨムとアキラくんが接触する刹那。
まずはライが抜いた。
人類の反応速度では対応できないはずの居合だ。
しかしそれをトヨムが潜る。
アキラくんは強烈なブレーキでストップ。
くぐり抜けようとするトヨムに、ライはサイド・アームの脇差しで対抗。
しかしこれもトヨムは躱す。
躱したトヨムの目の前には、すでにヒカルさんしかいなくなっていた。
「なんのっ!!」
ヒカルさんの刀も鞘走る。
居合。
以前にも解説したかもしれないが、居合という武術はどこを斬ってくるか分からない。
いや、左手で鞘を操作することで、変幻自在。
どこにでも致命傷を与えることができる武術なのだ。
しかし万能な術理など存在しない。
それを証明するかのように、トヨムはヒカルさんの柄頭を頭突きで受け止めた。
ヒカルさんの刀は、それ以上抜くことはできない。
はずなのに……。
ヒカルさんは速やかに一歩後退。
その動きに合わせて、『刀から鞘を抜いた』のだ。
抜き付け、トヨムの頭部を狙って。
しかしこれはヒカルさんに対して真横になることで逃れる。
それこそタンクトップをかすめるような見切りで。
「おいヒカル、アタイを舐めるなよ?」
そう言ったか言わないか。
トヨムは肩から体当たり。
W&Aにとっては、理にかなわぬケンカ殺法だ。
しかもよろけたヒカルさんを捕まえて、顔面パンチ顔面パンチ顔面パンチ。
古流柔術の手としては、固め技で敵を動けなくしてからの当て身というものは多数存在している。
柔道をベースとした打撃技のトヨムにとって、こうした応用は得意とするところだ。
ヒカルさん、撤退。
ただ、ヒカルさんを相手にトヨムが奮戦していたとなるとアキラくんがライとさくらさんを相手にしなければならなかった。
戦闘能力を数値化するならば、これは圧倒的不利である。
しかしそこはアキラくん、場数を踏んでいる。
攻撃の欲は一切見せず、ひたすらディフェンス。
フットワークとボディーワークで蝶のように猛攻をいなしていた。
さくらさんとライの得物は、大物に分類される。
つまり小回りや連打には厳しい。
もちろん小手打ち、スネ打ちといった小技は使えるのだが、それでもヒラヒラと逃げ回るアキラくんを仕留めることはできていない。
と、そこへトヨムが登場。
さくらさんの周囲をウロチョロとやかましく動き回る。
そしてもう一方の巨漢対決。
モヒカンとモンゴリアンは大型力士を相手にがっぷり四つ。
しっかり足止めしているのは良いのだが、ヨーコさんを孤立させてしまっている。
中型力士二人、とはいうがヨーコさんに比べればはるかに巨体。
だがヨーコさんは技が確かだった。
的確に小手、スネと打ち込んでヒカルさん撤退のポイント差を埋めていく。
ヒカルさん、復活。
ヤハラくんの指示か、ヨーコさんを襲う中型力士に背後から斬りかかっていった。
中型力士、一名斬死。そして二人目も撤退。
逆転だ。
しかもヨーコさんが稼いでおいた小技のポイントが大きい。
ヨーコさんとヒカルさんはそのまま拮抗する大型力士たちに襲いかかった。
「ヘヘッ、どうするトヨム? 姉ちゃんたちが有利になっちまったぜ?」
「構うもんか、アタイとアキラが健在ならまだまだやれるさ」
トヨムの言うとおりだ。
例え六人掛かりで襲われても、死んだ力士たちがよみがえってくるまでの間、トヨムたちが無傷であれば逆転の芽はある。
それがこの王国の刃というゲームであり、トヨにはそれが可能なのだから。
しかし大型力士撤退、中型力士たちの復活をもって終戦の銅鑼が鳴らされた。
勝敗というのなら、プロチームであるヤハラ軍の勝ちとなるのだが、課題は残されている。
そしてこの一戦はあくまで『プロチームのための練習試合』なのであって、真剣勝負ではないのだ。
そしてもしも真剣勝負というのなら、カエデさんの作戦……いや、メンバー編成の時点で情け容赦ないものを繰り出してくるだろう。
その後、トヨムとアキラくんは白銀輝夜とユキさんに交代。
やはりプロチームは苦戦した。
フィジカル自慢の巨漢の中に、テクニシャンとかスピードスターが紛れ込むと、どうしても調子が狂うようだ。
では調子を狂わせないためにはどうすれば良いか?
カエデさん、お願いします。
「地力の底上げをしましょう」
それが全てだ。
たとえば軽量級のライやヒカルさんならば、攻防技術の向上という部分と一発でビッグポイントを稼げるパワーを。
中量級のさくらさんとヨーコさんは、スピードと当たり負けしないパワー。
ヘヴィ・ウェイトの二人も、機敏な動きと攻防技術を上げておきたい。
要は不得手を無くすような稽古、全体の底上げだ。
それを必要とするほど、フィジカルというものは強い。
現在のところ動画投稿サイトにおいては、様々な達人先生方が精妙な技術を披露されている。
それらをインチキとかデタラメなどとは言わない。
しかしそうした精妙な技術をご破算にしてしまうほど、フィジカルというものは恐ろしいのだ。(注1
ワザは力の中にあり。
それはまったく持って正しい。
正しいのだが力を制する技も存在する。
ただし、その妙義は膨大な時間と労力を費やして得られるものなのだ。
気まぐれで、武術の神さまがそっぽ向いた途端に失われてしまう。
そんな繊細な一面も、武の技術は兼ね備えているのだ。
(注1 『フィジカルというものは恐ろしい』 講道館柔道の創始者嘉納治五郎先生でさえ、素人の力自慢には手を焼いたそうだ。真剣勝負の神さまカール・ゴッチ先生も、素人の力自慢を極めきれなかったという話もある。