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着せ替えマミさんならぬ、武器替えマミさん

ごく単純な攻防だった。

緑柳先生が足払いを仕掛ける、カエデさんがそれを飛び越える。

しかしカエデさんとしては翁のがら空きな頭部を目で捕らえていた。


当然、着地と同時に振り返り一撃を狙うだろう。

しかしそこに隙が生じていた。

片手剣でガードしていた右の脇腹を空けてしまったのだ。


そして翁は軍配は、空いて当然とばかりその隙にあてがわれる。

そこからインパクト無しでフォロースルーのみの打撃。

カエデさんの内臓すべてを撃ち抜いたのだ。


では何故カエデさんは振り返りざまに攻撃を欲張ってしまったのか?

簡単なことだ、翁が誘っていたからだ。

あのタイミング、あの間合いでは絶対にカエデさんは頭部を狙ってくる。


いや、そこしか狙ってこない。

むしろ翁としてはコンマ何秒先のカエデさんがどこにいて、がら空きの脇腹がどこに来るかまで予測していたのだ。

それができたのは、翁にとってカエデさんは手の平で踊る操り人形となっていたからだ。


手練、そうとしか言いようがない。



「いやぁ〜参りました参りました」



頭を掻き掻き、カエデさんが戻ってくる。



「さすが緑柳先生、ガッチリ防御したつもりだったんですが……」

「まだまだチョビっとくらいはヤルもんじゃろ?」



たかだか軍配ごときを使って、チョビっともへったくれもない。

改めて『武の妖怪』と呼ばせてもらおう。



「ときに嬢ちゃんや、来季は無いんかいのう?」

「なにがでしょう?」



ホント、何がだろう。



「ホレ、最近じゃイベントごとの恒例行事になっとるじゃろ。ピンク髪お姉ちゃんの新武器披露じゃよ」

「あ、あ〜あ〜、アレですね? 毎回毎回新しい武器を持ちながら、目につくような活躍をさせられないマミの武器」



そういえば、そんなことも恒例となりつつあるな。



「わかっております、わかっておりますとも緑柳先生。参謀部にぬかりはありませんから」

「しかしですな、緑柳先生。そんな話をしていると、いつの間にか……」



士郎さんがサルを一匹つまみ上げる。



「ナンブ・リュウゾウが紛れ込んでいるんだ」



サルの名はナンブ・リュウゾウといった。

言わずと知れたオッパイ好き男子……いや、マミさん好き男子としておくか。

そして私たちは、「お、マミさんの新武器お披露目かい?」「どれどれ、来季はどんな武器使ってくれるのよ?」と集まってきた野郎どもに取り囲まれてしまった。


「それではみなさまお待たせしました!! 来季イベントのマミ武器お披露目を開催いたします!」



いつの間にか据えられたステージ。ドラムロールと迷走するスポットライト。

整列してる、マミさんにブッ飛ばされたい連中が整列している。



「それでは開催します、マミの次回イベントの武器はっ……こちらの夏圏かけんです!!」



夏圏、それは楽器のタンバリンに似た形状をしていた。

そのせいか鳴り物要素がひとつも無いくせに、マミさんが振るとシャンシャンシャンと音がした。

しかもキラキラと、星屑まで散らばってくれるし……。


そしてこのタンバリン……ではなく夏圏、武器要素はどの辺りにあるかというと、外周七方向である。

右手の夏圏はナイフや槍のような尖り物、左手のそれには刃が仕込まれていた。

そして七方向というのは、八方向のうちのひとつが握り手になっているからだ。



「さあマミ、その新武器でさっそく邪な男たちを成敗してやってちょうだい!」

「そうは言ってもーマミさん、初めてですから。優しくしてね♡ というところですよ〜」



うむ、星屑をキラキラと散りばめながら笑顔の入場といい、上目遣いの『優しくしてね♡』といい。

マミさんは心得ている、視聴者の見たいものを理解している。



「よし、それじゃあマミさん。一丁揉んでもらおうか……」



ズシャリと出てきた一番手、やはりナンブ・リュウゾウである。

セリフだけ聞けば硬派中の硬派である柔道家が、腕試しに挑むかのようではあるが、その実鼻の下はだらしなくのび切っていた。



「ムムム、一人目からリュウゾウさんとはこれまた難敵。油断はできませんねぇ」

「大丈夫大丈夫、俺だって木刀はなれてないんだから、んじゃ行くぜ!!」



ブンとひと振り、真っ向からの一撃だが、マミさんはこれをシャランラ♪と足で躱す。

躱すと同時にすれ違い、斬撃音と刺突音が重なり、ナンブ・リュウゾウは死人部屋へ。

首筋への斬撃と、脇腹への刺穿によるダメージが重なってのキル・アウトとなった。


キラキラと降り注ぐ星屑が、ナンブ・リュウゾウへのはなむけとなってしまった。



「マミさんは近接武器が多いな」



士郎さんが言う。



「柔道経験者だからね、カエデさんがその間合いに合わせた得物を選んでいるんだろう」



私も答える。



「ですが、揉み合いの接近戦には使えそうです」



これはフジオカ先生。



「敵は体力自慢のアメフト軍団ですからね。揉み合いの乱戦は必至でしょう」

「そうなれば鬼神館柔道も、それなりに活躍の場がありそうですか?」

一対一タイマンではないので組み技寝技の暇は無いでしょうけど、中盤以降敵の勢いが衰えてからは……」



大きく仕事に出られそうだと、私は思う。

それまでは鍔迫り合いからの足払いで、地道に稼ぐのが良策か。とフジオカ先生。

現実的な判断だ。


古流など伝統的武術に身を置いていると、どうしても夢みがちな大活躍を妄想してしまう。

しかし競技は現実的リアルだ。

出来ることと出来ないことをキッチリ区別している辺り、フジオカ先生は頼もしい。


そしてマミさんも体格体力ではフィジカル軍団に劣るので、現実的に物事を捕らえている。



「う〜〜ん……この武器はこの構えで突撃するのも面白そうですねぇ」



夏。を手にした両腕をバッテンに構える。

そして復帰してきたナンブ・リュウゾウに突撃。

振り下ろしてきた木刀をバッテン・アームでブロック。


片腕で木刀を支えたまま、もう片方の腕でナンブ・リュウゾウの上腕を下から切り裂いた。

そして無理せずバックステップ、間合いを取って安全圏へ。

ポイント獲得である、しかもマミさんはノーダメージ。


この戦法は敵からしたら、間違いなくウルサイものになる。

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