ハンデ武器その2 難しい名前の武器が多数
「え〜、ネタ枠はこのくらいにしておいて……」
気を取り直しているつもりだろうけどカエデさん、脇っ腹からダクダクと流血しとるぞ?
「たとえセクシーランジェリーを手にしたところでシャルローネから安やすとキルを取ってしまわれる先生方。何を手にしたところでキルの山は確実ということで、間合いにハンデをつけていただこうと思います」
「なんじゃ、有るんじゃったら最初から出せば良いものを」
「あたた……緑柳先生の一言で、古傷が……」
いやそれ古傷じゃないだろ、っつーか早く開腹ポーション使おうや! ってかゲーム世界なんだから痛くないだろカエデさん!! いやそれ以前に、かさばる割にイマイチ兵器の路線どこ行った!!
あぁっクソッ、ツッコミが追いつかなくなってきたぞ。やるな、カエデさん。
「まずは短武器として基本仲間の基本、鎧通しです」
「おや、急にまともな武器が出てきたぞ?」
「士郎先生、カエデさんのことです。刺した途端に自分に電流が流れるかもしれませんよ? 油断はできません」
フジオカ先生の『カエデさん株』、大暴落のようだ。
「そこは大丈夫、普通の鎧通しなのでこのようにリュウ先生が私を刺すと、ぐふっクラクラッ、バタンキュー♪」
あ、普通に死んだ。
というかカエデさん、参謀なのに身体張ってんなぁ……。
「……美少女参謀、復活。お待たせしました。次なる得物はこちらです!!」
……サイだ。
空手とか琉球古武道でよく見るサイという武器にしか見えない。
長い切っ先で刃を払い、左右の鈎で得物を絡め、柄頭で突くというあれである。
「一見空手のサイに見えますが今回はこれを筆架叉と呼んでください」
ふむ、と手にしたのは士郎さん。
指で引っ掛け手の内でクルリ、柄頭でカエデさんの脇腹を突く。
カエデさん、退場。そしてよみがえる。
「やりますね士郎先生、さすが血も涙もない剣士。おかげで乙女の脇腹は傷だらけのローラですよ」
誰だそれ、カエデさんの知り合いか?
というか士郎さん、無言でカエデさんを突いて良いのは私だけだ。
謝罪したまえ、この私に。
私が心の中で士郎さんに対し謝罪請求を行っていると、カエデさんはさらなる近間武器を出してきた。
……三日月がふたつ、背中合わせに重なったような姿。
うん、たしかにこれは中国武術の武器だったような……。
「はい、こちらはオシドリまさかりと書いて鴛鴦鉞という武器。すでに先生方はお察しかと思われますが、中国武術の兵器です」
「ふむ、これはどのように使うのだろう?」
「はい、私もかなり練習はしてみたのですが、柔の間合いを得意とするフジオカ先生には初見であれ遠く及ばないかと……」
そう言いながら、カエデさんは脇腹をガードする。
これ以上死人部屋送りになるのは、真っ平ゴメンという姿勢だ。
「うん、士郎先生の筆架叉同様、左右に装備する得物のようだね」
「フジオカ先生まで乙女の脇腹を狙うんですか? 残念ですが私の丸楯がそれを許しませんよ?」
「ハッハッハッ、しないしないそんなこと。……でも武器マニアのカエデさんがどうしてもというのなら」
「えっへっへっ、いかに達人フジオカ先生でも、この鉄壁の防御は抜けませんよね?」
「そうでもないよ?」
フジオカ先生、カエデさんの目にも認識できる速度で上を攻める。
キャッと言って思わず楯で顔を守るカエデさん。
そして鴛鴦鉞は、カエデさんの脇腹を引っ掻き斬り裂いていた。
カエデさん、無念の死人部屋送り。
……………………。
………………。
「それではみなさまお待たせしました。これよりメインイベント、緑柳先生の得物を紹介いたします!!」
「ヨッ、待ってました大統領っ!!」
「イカしてるぜカエデさん!」
「憎いよコノーーッ、浅草の一番星ーーっ!!」(注1
満を持しての最終兵器。
遂に緑柳先生の得物が登場だ。
私たち一流派を背負う者たちが揃いも揃って歯が立たない、レジェンドクラスの達人の得物が現れるのだ。
私たちは少年のように目を輝かせ、拍手を送る。
ズモモという重低音とともに、緑柳先生が現れる。
持っている、カエデさん厳選の得物をその手に持っている。
そして奇跡の達人は、右手で得物を差し出した。
「ひが〜し〜〜トヨムぅ海〜〜。に〜〜し〜アキラ〜〜川〜っ」
私たちは盛大にズッコケる。
緑柳先生の得物、それは行司の軍配だったからだ。
いや、分かるカエデさん。
歴史的一戦、川中島の戦いにおいて上杉謙信のひと太刀を、武田信玄が軍配で受け止めたという通説を、カエデさんが再現したいというのは分かる。
しかしだけどだねカエデさん、刃も切っ先も無い武器を枯れ木のような老人に持たせて、浪漫が再現されると思っているのかね?
「ですがリュウ先生、緑柳先生はやる気満々ですよ?」
それは分かるがカエデさん、達人を辱める真似はどうかと思うんだが。
「ほい、リュウの字も士郎もヒロの字も、儂が負けると思う者は手を挙げろや」
失礼、緑柳先生。
私は手を挙げるしフジオカ先生も士郎さんも手を挙げる。
「ほいほい、そりゃそうじゃろう。七〇も過ぎたジジイが軍配片手に何ができると。極めに極めたお前たちなら、余計にそう思うだろうな。……じゃがのう、舐めんなよ小童どもが」
丸楯に片手剣のカエデさんが突っ込む。
その足元を払うように、緑柳先生が軍配を振るう。
しかしそれは読んでいたカエデさん、軍配をサッと飛び越える。
すれ違うにとどまるか、と思った矢先。
翁はカエデさんにまとわりついた。
あっという間の惨劇、カエデさんは死人部屋へと旅立つ。
私は見た、士郎さんもフジオカ先生も見たであろう。
丸楯で防御していたはずの脇腹、軍配を避けるために飛び越えたときわずかに生じたその隙間に、軍配の柄頭を突き刺していたのだ。
そこからの突き込み、インパクト無しでフォロースルーのみの打撃をねじ込んだのだ。
(注1 『浅草』 日本劇画史上にその名を残す天才、梶原一騎先生の引退記念作品『一騎人生劇場 男の星座』によれば、通な昭和人は浅草のことをエンコと呼んだそうです。語源は有名な公園が浅草にあるとかで、公園→エンコとなったそうな。