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イベント初日、終了へ

 私たちは占領した西軍A陣地を防衛するため、敵軍を押し返そうと試みた。ここで残り時間三〇分の銅鑼が響く。



「む、初日の終了間際だな」

「ウチの撤退はトヨム小隊長とマミだけですから、なかなか頑張ってる方だと思います」



 ロクにクリティカルも入れられない下手くそ連中が相手なのだが、なにしろ不正ツールと数がいる。大健闘と言って差し支えないだろう。しかしいま現在、私たちは小隊としての機能を果たしていない。てんでバラバラ、散り散りになっているのである。



「そこんとこどうよ、トヨム小隊長?」


 小隊無線での通話だ。


「そうだね旦那、マミをそっちに走らせるから、保護してよ。アタイとシャルローネはセキトリの救助してから旦那に合流するからさ」



 やはりそうなる。『嗚呼!!花のトヨム小隊』は六人揃ってこその小隊なのだ。それでこそ本領を発揮する。


「カエデさん、マミさんにこっちこっちコールしてくれ。なんだったらマミさんを迎えに行ってくれてもかまわない」 


そんな頼み事は、状況を見る目のあるカエデさんにしかできない。そして彼女は快く引き受けてくれた。私は陸奥屋吶喊組のうち、二人に声をかけた。



「ウチのカエデさんを護衛してくれないか? マミさんを回収したら、こっちへ戻ってくるからさ」



 士郎先生のダチのような私のことを立ててくれているのだろう。彼らもまた快諾してくれた。そして陸奥屋槍組も手勢に加わってくれた。二桁にようやく届く人数でしかないが、出せば当たる。当たればクリティカルの陸奥屋だ。仕事はずいぶんとはかどった。



「わ〜〜ずいぶんと派手にやってくれちゃってるね〜〜……」

「見てよホロホロさん。あのおサムライさん、クリティカルの数が尋常じゃないよ?」



 敵軍、小柄な緑髪の娘と赤ブルマーの拳闘士が現れた。そんなことをいう彼女らも、イベントのクリティカル数は三桁に達していた。



「どうやらA陣地を奪還できないのは、このおサムライさんのせいみたいだね? どうする、アキラ?」

「どうする? ってホロホロさん。逃げる訳にもいかないでしょ?」



 アキラと呼ばれた赤ブルマーの娘は、左を垂らしたヒットマンスタイルに構えた。



「そうだね、ここでストップかけないとどうにもならないよね……」



 緑髪のホロホロという娘も、短剣を構える。どちらもなかなか、堂に入っている。しかし、出ようとしたアキラの喉に突き、その刃でホロホロの横面に一撃。軽量快速を旨としたほとんど無防具。良い若者たちであったが、私の攻撃で撤退を余儀なくされた。




 ここでわざと、私は名乗りを挙げた。


「我らは陸奥屋一党! 我らがここに在る限りは、西軍のA陣地奪還は無いものと思え!」


 この声の届く限りの敵が、一斉に私たちへ目を向けてきた。そのための名乗り、そして私たちに敵を引きつけるための名乗りなのだ。剣が槍がメイスが薙刀が、一斉に私たちを狙う。



「そう来なくっちゃウソだぜ!」

「おう、リュウ先生の護衛なんだからな! 撤退なんてみっともない真似すんじゃねーぞ!」

「ケッ、お前もな!」



 槍組吶喊組、お互いに励まし合っている。そこへ、キターーーーッ! 視界の及ぶ範囲、すべてから敵軍が駆けてきた。さあ、お祭りというのはこうでなくては面白くない。ひとつ派手に行こうじゃないか!



「いいか、数に勝る敵を打ち崩すのは、突撃力だ! 前進前進また前進! 敵を葬るまで足を止めるな!」



 陸奥屋一党に言いつけて、私は走り出す。槍もメイスもなんのその。まずは防具を打ち飛ばして後続にまかせる。もういちいち足を止めてキルなど奪っていられない。手向かいする者はとにかく打ちまくるだけだった。



「リュウ先生、お先にーーっ!」


 槍兵が一人撤退。


「すみません、リュウ先生ーーっ!」


 吶喊組の拳闘士も斃れた。しかし私は木刀を止めない。足で敵の攻撃をかわし、かわした場所で一刀を入れる。なに、長得物の敵はその長さが仇となって、私を押し潰すことができないのだ。自然と空間ができるので、私は自由自在に動くことができた。



「どけどけどけーーっ! そのサムライを仕留めるのは、チーム『情熱の嵐』斬り込み隊長、この爆炎さまだーーっ!」




 目の前に現れたのは、あの『情熱の嵐』のメンバーである。燃えるような赤い髪。そして長柄に生えたナタ。さらには地下足袋と、革防具の軽量装備。待っていたぞ、『情熱の嵐』! さあかかってこい!



「こなくそーーっ!」



 爆炎という若者、遠慮が無いと言えば聞こえは悪いが、攻めに勢いと伸びがある。教え方では良い剣士となりそうだ。そしてなによりも、物打ちが走っている。ただ問題は、攻めに勢いがありすぎて隙だらけというところ。よりわかりやすく言うならば、勢いまかせで雑であった。


 そしてこの若者は生き残ってもらっては東軍の勝利に障害となるであろう。カウンターの水車みずぐるまという技で袈裟にひとつ。続けて逆回転の風車で胸へひとつ。即座に御退場願った。



 爆炎青年を葬ったところで、敵兵が殺到。ひとりまたひとりと陸奥屋メンバーが消えてゆく。それでも私は前進を止めない。いや、むしろ楽しいくらいだ。不正者と思われる相手ほど、キッチリとキルへ追い込む。不正者というものを許せないという気持ちがひとつ。そして不正者をのさばらせては、東軍の勝利が遠のくからだ。


 すると敵の群れがにわかに崩れた。誰かが敵陣を切り崩しているようだ。このような真似をできるプレイヤーなど、わずかしかいない。草薙兄妹、すなわちユキさんとお兄ちゃんのキョウちゃん♡である。ユキさんが防具を剥ぎ取り、キョウちゃん♡がキルを取る。キョウちゃん♡が防具を剥げば、ユキさんがキルを取っていた。


 それだけではない。バタバタと敵陣が崩れてゆく。褐色の爆撃機トヨムである。そしてトヨムを守るシャルローネさん。セキトリは撤退したのだろう、姿が見えない。


「旦那ーーっ! 無事かっ!? いま助けに行くぞーーっ!」


 小隊無線を使っているというのに、トヨムが叫ぶ。


「心配するな、私は無傷だ! ダメージをもらわないように丁寧に来い!」



 なんだか気が気でない。あの爆弾娘は三条葵との闘いで、さらに凶暴さが増している。さらに小隊無線が入る。


「リュウ先生! そんなに先走らないでーーっ! 私たち追いつけないよーーっ!」



 カエデさんだ。合流予定地点から、確かにかなり深く踏み込んでしまった。そしてカエデさんのそばには吶喊組の二人もついてきている。そこへ士郎先生が、実に格好良く、そして陣地を放り出して現れたではないか。



「よう、リュウ先生! カエデさんは俺が必ず連れていくから、安心してくれ!」

「アンタ陣地放ったらかしてナニやってんのよ!」

「心配いらんぞリュウ先生! A陣地ならかなめさんと忍者が守ってくれとるわい!」




 まあ、先に陣地放り出したのは私だし、あまり文句は言えないか。そしてカエデさんとマミさんが合流。トヨムとシャルローネさんも無事合流できた。


「よっしゃ旦那! セキトリが合流するまで、バシバシ敵を張り倒してやろうぜ!」

「そうだな! ひとつ派手にやらかすか!」

「合言葉はキル・エム・オール! 野郎ども、皆殺しだ!」



 トヨムの掛け声で、小隊と一党の生き残りは火が着いた。シャルローネさんがメイスを振り回して敵の得物を弾き飛ばす。その隙に槍兵が突きまくる。そして私と士郎先生で敵の防具を剥ぎ取りまくり、マミさんがキルを奪って回る。トヨム、ユキさん、キョウちゃんの三人は思い思いに暴れまくった。



「待たせたのう! ここで二枚目の登場じゃい!」



 合流してきたセキトリが、敵の脇腹から攻め込んできた。自然とマミさんがフォローに回る。そして私のパートナーはカエデさんになった。



「陸奥屋一党、それぞれの小隊で集結! 間もなく初日が終わるぞ!」



 鬼将軍の号令だ。トヨムとシャルローネさんが戻ってくる。セキトリとマミさんも合流した。陸奥屋一党、それぞれの小隊が集結してゆく。




 そこで初日終了の銅鑼が鳴った。


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