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増殖

効率よくダメージを与え、よく取れたプロの連携を目の当たりにして、ナンブ・リュウゾウとキョウちゃん♡は納得のいかない顔をしていた。

『俺たちは間違っていたのか? いや、それでは自分たちの生き様を否定し過ぎる。間違っているなどとは、死んでも認められん』

などと考えているのだろう。


若いうちはそういうものだ。

特にナンブ・リュウゾウやキョウちゃん♡のように、己のすべてや生き様すべてを賭けて戦う者ならばなおのこと。

かく言う私もそうだった。


おそらくは士郎さんもフジオカ先生もそうであったろう。

緑柳師範だってそうだったはずだ。

大きく育つ者は必ず迷う。


時として道から外れてしまうものだ。

そしてその軌道修正をしてやるのが、大人の務めとも言える。

今はまだ放っておいても大丈夫。


私たちの想定の範疇だ。

まだ手を差し伸べる時ではない。

しかし同じく若いカエデさんにとっては、文句のひとつも言いたくなる場面であろう。



「なんですか、あの不貞腐れた態度。あれじゃあ伸びるものも伸びなくなっちゃいますよ!!」



などと、相当にお冠である。

そこをフォローするのも、大人の役割だ。



「まあまあカエデさん、あの二人はあの二人なりに迷ったり悩んだりしているのさ」

「でも毎回自分勝手な突撃ばかりして、参謀役としてはかなり迷惑なんですけど!! ネームドっていうポジションをどう考えてんだろ!?」

「ハハハ、快男児と夢想家ロマンチストのコンビだからね。ワンクールで正解は出せないよ」



プン、とカエデさんはふくれてしまった。



「四先生も四先生です。シゴくときは猛然とあの二人をシゴくけど、ここ一番なときにはてんで甘々なんだから」

「そうだね、私たちは弟子に甘っちょろい。それが見込みのある弟子ならば、なおさらだ」

「え〜〜!? あの二人がですか〜〜?」


「そうだよカエデさん。あの二人はサナギから蝶になる寸前、殻を破ろうと必死にもがいているところなんだ。だからどうしても不細工に見えてしまう。だけど醜いイモムシを笑う者は、変態メタモルフォーゼした可憐な蝶に笑われるものなのさ」



そして、可憐な蝶には悪い虫が寄ってくるものだ。

悪い虫の名は、ジョージ・ワンレッツといった。

並べ替えるとワンジョージ・レッツ……いや、なんでもない。(注1



「どうしたんだ、ショボくれて。いいファイトだったじゃないか、二人とも」

「あぁ、ジョージさんか……良いファイトでも、結果が伴ってないんだ……」

「そう、結果が伴わない。いつもそうなんだ……」



ナンブ・リュウゾウ同様、快男児で鳴らすジョージ・ワンレッツは快活に笑った。



「結果が出ないというのなら、結果が出るような稽古をすれば良いことさ。どうだい、俺たちと特訓してみないかい?」

「特訓……?」



ジョージ・ワンレッツはニヤリと笑った。

そしてバカがまたひとり増えた。






「あの、リュウ先生?」

「何かなカエデさん?」

「ここはどこでしょう?」

「いわゆる採掘場、特撮ヒーロー物で撮影場所に選ばれるような場所だね」

「何故そのような場所が『王国の刃』に?」

「特訓が好きな奴はどこにでもいるものさ」



私の返答に、カエデさんは不満足なようだった。

しかしそんな荒れ地に、キョウちゃん♡とナンブ・リュウゾウがインしてくる。



「何が始まるんでしょう?」

「何って、特訓しかないでしょ?」

「特訓って、どんな?」



とカエデさんが口にした途端、エンジン音が鳴り響いた。

軽自動車におけるRV車の雄、ジムニーが走ってきたのだ。(注2

そのジムニーが二人に襲いかかる。


間一髪、それを躱すキョウちゃん♡とリュウゾウ。

しかしジムニーは砂埃を蹴立ててターン、ふたたび二人を狙う。

ハンドルを握るのは、もちろんジョージ・ワンレッツ。


お前たち、そんな覚悟で地球の平和を守れるのかとばかり、殺意をもって襲いかかった。



「バカヤローッ、殺すつもりかジョージ!!」

「なんのつもりだジョージさん! なんでこんなことをするんだっ!?」



するとジムニーは急停車。

ドアを開けてジョージが降りてくる。

そして一喝。



「バカヤローッ!! お前のその顔はなんだっ! その目はなんだっ! その涙はなんだっ!! お前たちがベソをかいていたところで、あぁそうさ。チームは勝つだろうさ……。だがお前たちが勝たんでどうするっ!? それで地球を守れるというのかっ!?」



ずいぶんと壮大な話になったものだ。



「口惜しければ立てっ!! そして泣くのは勝ってからだっ!」

「「ハイッ、隊長!!」」



ジョージはいつの間にか隊長になっていた。

まあ、仕方ないか……。

しかしこれで納得してくれるほど、乙女というものは素直ではない。



「リュウ先生……私はなんの茶番を見せられてるんでしょう……」



ナンブ・リュウゾウとキョウちゃん♡が、襲いかかってくるジムニーを足刀飛び蹴りで飛び越したとき、カエデさんは心底ゲンナリとした顔で呟いた。

しかし遠巻きに眺めていた士郎さん、フジオカ先生に緑柳師範は堪えることすら忘れて熱涙を流していた。



「よくやった二人とも!! 次の特訓に移るぞ!!」

「「ハイッ、隊長っ!」」



カエデさんのうんざり感をよそに、熱く激しく少年の心を揺さぶる特訓は続く。


今度は『まほろば』本殿だった。

峻険ともいえる石造りの階段が、山門から続いている。

その頂上、つまり本殿前の階段最上段で二人はスマキにされていた。



「さあ、行こうか」

「行くって、ジョージ隊長。まさか……」

「そうだ、いくんだ!!」



キョウちゃん♡は魔神と相対したような顔をする。

そしてナンブ・リュウゾウは……。



「どうせ死ぬのは一度きり!! うおぉぉおーーっ!」



急勾配の石段に向かって勇敢なダイブ。

しかし。



「ゲフッ……」



ファースト・コンタクトで聞こえてはいけない声を発して、力無いスマキ人形のように転げ落ちてきた。

いや、それもごく数秒。

ナンブ・リュウゾウは死人部屋へと旅立って行った。



「さ、次はキョウさん♡。あんたの番だよ」



昭和という時代、特訓という美しい響きのもと数多くの少年たちが不必要な怪我を負ったという。

しかし男というものは、それを令和の御世でも行ってしまうものなのだ。

何故ならそれは、バカだからである。




(注1 好物はアンパン、愛車はジムニーかもしれない……

(注2 やっぱり出たかジムニー…… ちなみに後輩はパジェロに乗っている

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