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男と書いて『バカ』と読む

いつもの講習会、いつもの稽古。

その中で鬼神館柔道の快男児ナンブ・リュウゾウと、士郎さんの御子息キョウちゃん♡が何やら話し込んでいた。



「よ、キョウ。聞いたかよ?」

「なんですかな、リュウゾウさん?」

「冬イベントの対戦相手よ、なんでもアメリカ産の黒人軍団らしいぜ」

「……『死亡遊戯』?」


「いや、バスケットボール選手ってよりも、アメフト選手らしいな」

「人数は?」

「ウチと同じく一五〇人からいるそうだぜ」


「よく集まったな、それだけの数……」

「それだけ広いのさ、アメリカって奴ぁよ。いいじゃねぇか、アメリカ……ヨチヨチ歩く可愛いペンギン……」

「アメリカを勘違いしてないですか?」


「で、話ぁこっからよ」

「ペンギンどこ行きました?」

「つぎの合戦はフィジカルvs理合いってことになる。とはいえ俺としちゃぁそんなことはどうだって良い!!」

「ふむ……」


「下手な技で逃げ切りやがった、なんてアメリカンに言われたかねぇやな」

「同感!」

「そこでだ、キョウさんや」

「なんですかな、リュウゾウさんや?」


「オイラは柔、貴様は剣!! どっちにしても日ノ本の男よ!」

「お、おう!」


「だったら理合いのへったくれのとゴニョゴニョぬかしてねぇで、正面突破!! 真っ向勝負で叩きのめしてやらねぇか!?」

「応っ!!」



と、ここまで二人の会話を聞くともなしに聞いていたら、私の袖を引く者があった。

カエデさんだ。

不安そうに私を見上げている。



「よろしいんでしょうか、リュウ先生?」

「なにが?」

「あのバカ二人を止めなくて……」


「放っておきなさい、間違えに気づいたら考えを改めるさ」

「あ、バカ二人がプロチームに接触しましたよ?」



プロチームは冬イベントよりも早く、デリンジャー軍団と対戦する。

よって優先的にセキトリ・ダイスケくん率いる力士隊と稽古しているのだ。



「やあやあプロチーム諸君、オイラたちも混ぜてくんねーか!!」

「よ、鬼神館の兄貴。そっちも巨漢対策かい?」



応じたのは、プロチーム『W&A』のリーダーであるライだ。

モサモサポニーテールをした、トヨムの実姉である。



「おうよ、そんな訳でちょいと軒を貸しちゃもらえねぇかい?」

「あぁ良いとも、なにかスゴイ策でも思いついたのかい?」

「なぁに、策ってほどのモンでもないさ。オイラたちの決意表明ってトコかな?」



おうっ行っといで、とライを含んだプロチームは二人を送り出す。

ナンブ・リュウゾウは手槍、キョウちゃん♡は打刀の二人組コンビ

セキトリたちはメイス装備で八人体制。



「姐御、リュウゾウたちに勝ち目はあるのか?」

「無けりゃノコノコとこんなトコには来ないだろうさ」

「♡」



モンゴリアンは心配そうだが、ライには確信がありそうだ。

というか、誰だ『♡』を飛ばしたのは?



「キョウ、二人一組を忘れんじゃねーぞ!!」

「おうよ!」

「そんじゃ開幕だ、行くぞっ!!」



ナンブ・リュウゾウ、巨大なにく壁紙に突撃。

キョウちゃん♡もそれに続く。



「さあ、ファースト・コンタクトが見所だよ!! みんなしっかり見ておきな!」



ライの言葉にプロメンバーは固唾をのんだ。


……ドーンと交通事故のように弾き飛ばされるナンブ・リュウゾウ。

キョウちゃん♡もトラックに踏み潰されるかのように、ヘチ潰されてしまった。


ナンブ・リュウゾウ、キョウちゃん♡。

ともに仲良く死人部屋送り。

これにはプロチームもガクッとズッコケた。


ただ一人、ライをのぞいて。

もちろん私もズッコケたりしない。

『その瞬間』を見逃していたのだろう、カエデさんも盛大にズッコケていた。



「どうしたのさ、お前たち。そんなにズッコケて」

「いや姐御、いくらなんでもアレは……」

「あぁ、ちょっとばっかし間合いが狂ってたね」

「?」



ナンブ・リュウゾウの元へ駆けつけるさくらさんを尻目に、ライは解説をはじめる。



「さすがネームド・プレイヤーだよ、届かなかったけどしっかり目を狙ってた」



ナンブ・リュウゾウも、キョウちゃん♡も。

初手はナンブ・リュウゾウ、手槍をシゴいて力士隊の目を狙う。

ただし、届かない。


目を狙われた者の足は止まったが、敵は八人。

別な者に体当たりを食らってしまった。

キョウちゃん♡も居合、初手で目を狙い敵の足を止める。


しかし別の敵に一発を浴びせられてしまった。

今回ばかりは悪手になってしまったが初手で目を狙うという点は汲んでやりたい。

ただ単に、敵の間合いと差がありすぎただけなのだ。


『間合い』。

この『絶対』をどのように克服するか?

そして圧倒的な筋力の差である。


そこを埋められるか否かで、スポーツ武道で終わるか?

古流になれるかが決まると言っても過言ではない。



「よしよしニイサン方、今度は私たちが稽古させてもらうよ」



プロチーム『W&A』が前に出た。

プロチームは六人、巨漢チームは鬼神館柔道から一人加わり九人。

ルールをプロ仕様に設定しての練習試合だ。



「ヒカル、いくよ!!」

「ホイ来た姐御!」



パッと出たライとヒカルさん、この二人で陽動の囮役だ。

明確に敵の間合い(危険地帯)に踏み込んでの攻撃を決めている。

一発で鎧を吹き飛ばすクリティカル・ショット。

これがあるから、この囮役は侮れない。


その背後から、ヨーコさんとさくらさんがとびだしてきた。

鎧を失った部位に攻めの手を入れて、キルへと結びつけてゆく。

これで七人と六人。


その間モンゴリアンとモヒカンはというと、壁になり敵の侵入を阻止している。

役割分担というものができている辺り、唸らざるを得ない。

リュウゾウとキョウちゃん♡のコンビなどはこれがまるで成っていない。


二人で突っかかって二人ともヤラれてしまった。

例えばリュウゾウが敵を引きつけて、その間にキョウちゃん♡がキルを奪う。

そんな連携が必要なのだ。


引きつける、囮役というものは実に有効だ。

現に目の前では七人の敵のうち三人四人を、ヒカルさんとライで振り回している。

さくらさんたちにとっては、数的有利を生み出して貰えるのだ。


こんな戦いやすいことは無いだろう。

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