続・【カモメの小部屋】
【もちろんカモメ視点】
それではカエデ参謀、その星影きららについて何か。
「はい、経験を積めば素晴らしい参謀になると思います。まずは基本の六人制試合ですね」
経験を積めば、ということは未熟もあったと?
「私たちが包囲を仕掛けたとき、彼女は兵を右に左に。これは兵力の逐次投入と言って、愚策でしかありません。ですが最終局面での逐次投入、あれは英断ですね。ポルテさんの囮作戦に引きずられるまでは、本当に良い指揮でした」
なるほど、敵将ながら天晴と
「ただし、勝ったから良かったものの最後にソナタさんとの一騎討ち。あんな場所に出るのはいただけませんね」
その一騎討ちですが、カモメはねぇ両手持ちのソナタが勝つと思ったんだけど。
「両手持ちは練度が高ければ強いんですが、未熟だと両手のバランスを取るのが難しいんです。そこを点かれてしまいましたね」
「ねねね参謀ちゃん参謀ちゃん、艦長からも質問なんだけどさ。今回は男衆やネームドさんたちが目立たなかったけど、どんな活躍してたの?」
おぉっ良いぞ艦長、カモメもそれは知りたかった。
何しろ配信者だけの戦場だったからさ、他のプレイヤーさんたちがどうしてたか分からんかったんよな。
「まず全体で言えば、女子配信者だけの戦場を作るために防波堤役として専念してくれてました。ネームドプレイヤーたちは一般プレイヤーと男性配信者の阻止。先生方は西洋先生たちの侵入を阻止」
西洋剣術の先生たちって、やっぱ強かったんよな?
「結果だけを見ればウチの達人先生たちの無敗でしたが、西洋剣術先生たちはネームドプレイヤーたちを軽々と突破してますので、相当な使い手のはずです。まあ、下っ端の私がして良い評価ではありませんが」
ちなみに、ネームドのみなさんもそれ相応に強いんだよね?
「もちろん!! 『王国の刃』全国大会とか世界大会とか存在したならば、大会の常連で表彰台の常連間違いなしです!」
先生方は常連じゃないの?
「先生のなら後進に栄光を譲るでしょうね。もしも大会に出場するとすれば、マスターズ・クラスとか名人戦といった別次元の競技になるでしょう」
すげぇよなー。本当に人間なのかよ?
「そんな先生方でも、稽古は始まったばかり。ようやく入門したところ、なんて言うんですから。とんでもない世界ですよ」
訂正、もはや人間とは呼べねーよ……。
「それでカエデちゃ参謀、今回のMVPは誰なのよさ?」
「そうですねぇ、もしもひとりだけ上げるとすれば……」
上げるとすれば? …………ゴクリ。
「イベント序盤に彩りを添え、脱がされても脱がされても突っ込んでくる『裸の大将放浪記』、ドラゴンの楯を装備したキッズ。パンイチの君、ストリップ・キングの彼でしょうね♪」
アレを思い出させるなよ、お前〜〜っ!!
っつーかそこは普通オーバーズから選出するもんだろーが!
「だってオーバーズは序盤、活躍できませんでしたから。その原因を作ったのは、無謀なるチャレンジャー・橘明日香さんですけど」
いや、むしろネームドたちに挑みまくった橘明日香。
アイツこそがこの夏のヒロインかもしれねぇ……。
「そ〜いえば〜、ネームドさんたちの中で誰かひとり、磔になっちょった気がするんだけど……」
いやいや隊長、そこは触れないでやろうや。
カエデ参謀も渋い顔しとるがな。
「あ〜〜……アレですね? アレですか。……次の話題に移りましょうか」
ほら見ろ、逃げに走った。
「逆にみなさんに訊きたいんですけど、日本刀を持ったり西洋剣を持ったり、いかがでしたか?」
「西洋剣がすっごく使いやすかったのよさ」
それよ、カモメもそう思った!!
「世界的に見ても剣を両手で持つスタイルは珍しいそうなんですよね。右手と左手のバランスを取るのが難しいんでしょう。ということで、片手剣の方が扱いやすいと考えてください」
その代わり、威力は日本刀がぶっちぎりってか?
なるほどねー、欧米人がサムライを驚異に感じる訳だわ。
「ウチの大将が言い出すかもしれませんけど、もしも年末年始に『オーバーズ対抗・王国の刃最強決定戦』なんて始まったら、参考にしてみてはどうでしょう?」
個人戦や六人制試合で最強を決めたら、面白ぇかもな。
今から練習しておくか。
「ところがカモメさんは提出物の期限がせまってますので、キリキリとサインを書いてくださいね」
お前、そこまで把握してんのかよ!!
「さもないとサイン部屋に監禁ですよ?」
貴様カモメのマネちゃんかよ!?
「一応マネージャーさんからは、『拉致もしくは誘拐』さらには『監禁』の権限まで委託されてますので」
それ犯罪!! 犯罪だからな!
っつーか本当にオーバーズのスタッフじゃないのかお前!?
「誤字脱字のきららさんは、私のことをスタッフさんだと勘違いしたままらしいですが……」
騙しのテクニックまで備えてるのかよ!?
カエデどの無敵だなぁ!!
「いえ、みなさんのような美貌を持たぬ地味な裏方稼業の専門家に過ぎません……」
いやカエデどの、落ち込まないの!!
ヘコまない!
貴女とても可愛いじゃん!!
「それは私の『王国の刃』での姿……。生身の訳はクラスの隅っこで歴史小説読んでる、陰キャの歴女……
」
ほう、とすると?
「そう、私の立てる作戦は歴史上存在したもののパクリ。本当の私には何も無い、空っぽの女……」
いや、それでもすげぇって!!
実際の戦争で使われた作戦、そんなに覚えられねぇって!
カモメからしたら超人だよ!!
「フフフ……それもこれも全部、自分が策略にはまりたくないから、だから必死におぼえただけ。ホント、嫌な女よね私……」
そんなことねーってば!!
いまこの『王国の刃』で才能が花開いてんだから!
もっと自分を信じてくれや!
「まあ、それでも私は元気です♪」
ちっきしょーーっ、騙されたーーっ!!
テヘペロじゃねぇよ、カモメの心配を弁済してくれーーっ!
「だけど陰キャの歴女は本当ですよ。クラスの隅っこでひとりニタニタしながらゲーム雑誌チェックしたり、歴女本を読んだりしてたのに。メンバーのシャルローネとマミに捕獲されちゃって、なんだか友だちまでできちゃいました」
ふぅ、良かった良かった。
安堵のため息と、額の汗を拭い。
するとムニたんがカモメの腕を突っつく。
「コメント欄がはかどってるのよさ」
見るとそこには、「陰キャ女子っ、ムフーーッ!!」「地味キャラのオーバーズ、爆誕!」「メンシの開設はまだですか?」などと狂ったコメントがひと山いくらで書き込まれていた。
世の中、狂ってるぜ……。