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最後の一撃

【カエデ】


ソナタさん、片手剣を諸手に構えた。

これまで稽古を積んできた、最も信頼のできる技、日本剣術。

諸手突きの構えだ。


きららさんもきららさんで、いままで鍛えてきた西洋剣術片手の構え。

どちらが本当の勝者なのか?

一発が入れば勝敗は決しそうだ。


もう、後にはひけない。

一途に攻めるだけだ。

接近、またもや切っ先が鳴る。

ひりつくような緊張感の中、間合い。


動いた。


ソナタさんだ。

ただ一直線の突き。

迷うことなく、目標を目指して。


その突きが、いなされた。

一途な思いはきららさんの胸には届かず、反撃。

きららさんの切っ先を薄い胸に、浴びる。



「……ハハ……ボクの負けか……」



薄れてゆくソナタさんの姿。

決まり手は、すり込み突きとでも言おうか。

とにかくこの一戦を制したのは、誤字脱字軍女子部の星影きららさんだった。


ドッと湧き上がる誤字脱字軍、勝者を拍手で讃えるオーバーズ。

きららさんは仲間たちにもみくちゃにされて、胴上げが始まった。

ここで長い長いナツイベント終了を知らせる銅鑼。


ポイントでは陸奥屋まほろば連合の圧勝。

しかし最後の見せ場を勝ち取ったのは、誤字脱字西洋剣術軍団。

ついに熱い夏は、終わりを迎えた。



「カエデさん……」



リュウ先生だ。もう、イベント参加者たちは三々五々とアウトし始めている。



「私の出番、ほとんど無かったな……」



夏草の戦場、最後の言葉だった。





【カモメの小部屋】


「あい!! ということで終わりました、真夏の決戦サマーファイト・シリーズ! みなさんこんばんは、カモメの小部屋配信ですが……なんじゃーーっ、この人数はっ!!」

「いや、なんて言うんでしょ。熱戦を終えた事後の、ピロートーク? 艦長も身体が火照っちゃって火照っちゃって、アハ~ン♡」

「ピロートーク? 枕詞? なにそれ?」

「あ、カーくんはそのまま、そのままのカーくんでいて」


「この人数ったって、カモメちゃセンパイが『打ち上げ配信やっぞーー!!』って言うから、みんな来ちゃったなのよさ」

「ちょっと、飲み物も無いの? アタシちょっと買ってくるわ」

「あ、ポテチもお願いしまーす!」


「いやぁ、相変わらずの騒々しさですが。マイクをカモメに戻しまして、本日もスペシャルなゲストは……カエデ参謀!!」

「いえ、ですから当たり前みたいに私を配信に出さないでください」

「いやいや、カエデ参謀なくしてカモメちゃんは存在できないでしょ」



海先輩のナイスなフォロー。

っつーか、カエデ参謀ってカモメのすべてって認識なの!?



「ってゆーか、カエデ参謀はオーバーズに入社するんだよねー?」

「待ってください、私は進学希望なんですから!!」

「えーー!? カエデちゃん、お別れするのー?」


犬猫コンビのツープラトンが決まってるわ。

これはカエデ参謀も逃げられんわな。

しかしいつも通りなグダったトークではいけない。


このぎっしりとメンバーの詰まった小部屋、主はカモメなんだ!!



「ではカエデ参謀、その俯瞰した視点から見て今回のイベント。いかがだったでしょうか!?」

「まずはお礼から、未熟な参謀の指示に従い良く学び励みして戦っていただき、参加者のみなさん本当にありがとうございました」

「いやいやカエデどの、最高の先生方の指導と最高の参謀の指揮。これはみんなヤルっきゃないでしょ?」


「ですが全体指揮は参謀長の出雲鏡花さんが、男子部とネームドの指揮は高級参謀のヤハラさんが執ってくださいましたから」

「あー、オデコのお嬢さまね。あの娘、本当に指揮を執ってたんですか?」



後輩のピンク頭、頭脳派が訊く。

これにはカエデ参謀も苦笑い。



「えぇ……毎回の名物なんですが、モニターを開けば済むところわざわざ机に図面を開いて、どじょうヒゲと孔雀の団扇をホッスホッス。孔明コスチュームで駒を動かしながらニタニタしてました……」

「あー……」



ピンク頭だけでなく、それを聞いたみんなが納得顔。

するとカエデ参謀のスマホがピロリン♪

「どうしました?」と訊くとカエデ参謀、苦笑いを重ねて誤魔化している。



「カエデちゃ参謀はオーバーズなのらから、隠し事しないで欲しいなのよさ」



おう、ムニたん。良い仕事するじゃねーか。

するとカエデ参謀、ものすごく言い難そうに。



「その出雲参謀長ですが、誤字脱字橘明日香さんの配信に、生出演してるそうです。……なう……」



どうやらあの二人、知り合いらしいんだけど……。

出雲参謀長、明日香ッチを煽りに煽ってんだろうな……。オーバーズに類が及ませんように……。

いやいや、ウチの配信はウチの配信!!


気がつけば話が進んでないだろ!

改めてカエデ参謀、今回の感想を!!



「そうですね、先ほども申しましたが準備段階でみなさんは良く学んでくださいました。正直この時点で敵陣へ偵察をしてましたけど、勝利は確信してました」

「ほう!? オーバーズは勝つべくして勝ったと?」

「あちらにも星影きららさんという傑物がいるようでしたが、活かし切れていませんでしたね」


「その原因はなんでしょう?」

「単純に企業方針の違いですね。誤字脱字は数を揃える主義、オーバーズは少数精鋭。そしてオーバーズは同期というものを重視していて、誤字脱字は個人主義。あまりセットで売り出していません。それだけの差です」

「ということは、オーバーズは『王国の刃』だから勝てたと?」

「ついていました、ラッキーです」


「きららッチョを傑物と評価してますけど、どういった点が?」

「あの娘、気づいてましたね。ウチが『軍隊』だということに。死に帰りのとき、ウチの全体を見て愕然としてました」

「えっ、カモメ上等兵だったの!?」

「カモメちゃセンパイは二等兵なのよさ」



いや、ウチが軍隊だなんて、全然知らんかったって。

するとカエデ参謀、涼しい顔で。



「号令一下、全体が指揮に従って動き。必要な場所に必要な武装をした、必要な人材が配置されている。その集団が目標をひとつにして邁進する。これはもう軍隊ですよね?」



いや、マジすげぇな陸奥屋ミチノック……。

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