表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

622/724

最後の三分間

【カエデ】


何が起きているのか、無線で確認をとる。



「カモメさん、カモメさん。なにが起きているんですか!?」

「ちょっと待ってくれ、カエデ参謀。いまカモメは目が離せないんだ」



止んでゆく喧騒。

そして戦闘の中心部から一人、また一人と腰を降ろしてゆく。

そして全員が低い姿勢を取ったとき、二人の配信者の立ち合う姿が見えた。


誤字脱字軍のきららさんと、オーバーズのソナタさんだ。

同じイラストレーターの手によって産み出された、姉妹のような二人。

互いに片手剣を構えている。


確かめなければ。

何故かそう感じて、私も輪の中にはいる。



「いわゆるタイマン勝負だね、きらら」

「フフッ……世界中が注目してるよ、ボクたちに……」


「へぇ、笑えるんだ……この状況。ずいぶんと強く出たね」

「ボクも配信者だよ、ソナタちゃん」


「じゃあ、勝負だ……」

「誤字脱字軍のトレンド一位は、ボクがもらうんだ」



ポイント差は絶望的、逆転の芽などもはや存在しない。

だけどそれは、あくまでも『王国の刃』ルール。

配信者としての勝敗は、そのルールではまかない切れない。


世界は、この一戦の勝者を勝ちとするやも知れぬ。

彼女たちを推すネット民たち。

彼らは勝敗の決まった競技にさえ異議を申し立て、「あれは反則だ」「あれは買収があった」などと裁定を覆さんばかりの意思を見せる。


強力な一撃を有するとはいえ、ジャブさえ打てぬチャレンジャーの世界初挑戦。

防御を固めてただ前進するしかないチャレンジャーを、「あれは日本人が勝っていた」などと声を大きくして、再戦を実現させてしまう。

ネットの声は恐ろしい。


その声に組織のトップまでもが「あれは誤審だ。レフェリーを処罰する」とまで発言してしまう。

現場は責任者にまかせて、トップは口を出さないのが原則ではないのか?

そうでなければ現場は仕事ができなくなってしまう。


ただしこの一戦に関しては、『王国の刃』ルールでさえも口を挟めない気配が、濃厚に流れている。

残されたイベント時間は三分間。

そして配信者には配信者の、意地とプライドとルールが存在する。



どちらが本物の勝者なんだ?



世界もメンバーも私も、固唾をのんで見守るしかなかった。

……チリ。

両者の切っ先が擦れ合う。


でもまだ切っ先同士、間合いにはわずかに遠い。

キリキリキリッ……、刃同士が鳴いた。

間合いが詰まっている、一足一刀に入った。


これでどちらかが動く。

先手はソナタさん、きららさんの太刀を払って大きく踏み込む。

防具無しの頭部へハエたたきショット。


しかしきららさんも読んでいた、ヒジと手首をキツく折り畳んで固い防御を見せる。

鍔元で受けて片手剣の半ばまで、ソナタさんの攻めを受け流した。

しかしそこはハエたたきショット、体勢が崩れるほどには受け流せない。


ただ、ハエたたきショットの利点である連打。

ソナタさんも速攻連打に持ち込むことはできなかった。



「凌がれちゃったな、ソナタのヤツ……」

「ん〜〜……勢いは殺されちゃったね……」



カモメさんと隊長さんの会話だ。

カモメさん、実は格闘技好きらしく勝負の機微を心得ているようだ。

そして以前にも紹介した通り、隊長さんは剣道の有段者。


なかなかに興味深い二人の会話だと思う。



「カエデ参謀はどう見る?」



いきなり話を振らないでください、カモメさん。

私の言葉も生で配信に乗るんですよね。

でも参謀としてリュウ先生の弟子として、回答しない訳にはいきません。



「私もリュウ先生の弟子の端くれ、迂闊なことは言えませんが。実力ではソナタさんが上、しかし乾坤一擲の一撃で覆せる程度の実力差しか無いと思います」

「つまりはきららさんの捨て身技が怖いと?」



隊長さん、分かってらっしゃる。

ですがきららさんも敵の参謀格、そしてソナタさんも参謀同然の知恵持ち。



「この勝負はお互いの読み合いになると思います」



それこそが私の結論。

突撃一番ド根性のカモメさんや、体力勝負の筋肉主義者な隊長さんでは、ちょっと理解し難いところがあると思います。

などとは配信に乗せたりしない。乙女の小さな胸の奥にだけしまっておきましょう。


ソナタさんときららさん、ファースト・コンタクトからお互いに間を取ってふたたび睨み合い。



「突き……かな……?」



トットットッと軽いステップのきららさん、その気配を読んでみた。

「どっちの?」と隊長さんとカモメさんの声。

「きららさんが狙ってるかなって……」と、私。


それに応えるかのように、ソナタさんも軽くステップ。

両者左へ左へとサークリング、敵の隙をうかがう。

そして二人の描く輪が少しずつ縮まり……間合い。


激しく踏み込み激しく突いて、どちらが有利とも言えぬ火花散る攻防。

ここでようやく両陣営から声が出た。



「行けっ、きらら!! 退くんじゃないぞ!」

「負けるなソナタん、上下打ち分け!! 上下打ち分けだっ!」



両陣営の大歓声、もはや勝負はこの場面で決するかのように。

その大歓声には、一人二人と男性の声も混ざりはじめていた。

この好カード見逃す訳にはいかねぇとばかり、攻防を捨てた男性陣と一般プレイヤーたちも応援に駆けつけたのだ。



「気合い気合い気合い!! もっとキビシク行かんかっ!」

「根性だソナタ!! 根性見せてみろ!」

「こんなときの精神力だろ!! 絶対にさがるんじゃないぞ!」



え〜〜読者のみなさま、並びに配信をご視聴中のみなさま。

只今の声援は上から順番に、われら陸奥屋ミチノックが誇る剣豪の士郎先生、リュウ先生、そしてフジオカ先生でした。

剣豪なんだからちったぁタメになるアドバイス送れや、とか言わないで下さい。


……私もちょっと呆れてるんですから。


激しい刺突戦は、半身の防御を生む。

そして半身の防御は強い打撃を生んだ。

突き技同士の攻防は、さらに激しい打撃戦となった。


両者ともに深浅手傷はおびただしく、どこで決着してもおかしくない状況だった。



「どちらも体力ゲージはすり減ってますね。これはもう突然死サドンデスが起きてもおかしくないですよ」

「そうなると手数やね」

「手数となりゃ、突き技の方が速いか!! よしソナタ! 突き技だ、突き技できららの体力削り落とせーーっ!!」



私の判断に隊長さんが決断し、カモメさんがアドバイスを送った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ