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大攻勢は良いんだけれど

【カエデ】


う〜〜ん……大攻勢は良いんだけれどさ。

まず始めに、敵はポルテさんが引きつけている、もう半数が厳然として残っていること。

そしてもうひとつは、敵の半数を全滅させたのは良しとしても、すぐにまとまった数で復活してくること。


ほら、復帰してきた死に帰り。

みんな大拠点で整列して、まとまった数を揃えている。

もしかしたら、女子部全員の復帰を待って逆転の大攻勢を仕掛けてくるかもね。


こちらはもう、『囮作戦』っていう手札は切っちゃってるしさ。

さてみなさん、どうしたものでしょう?

いや、もちろんいままで通りで構わない。

その意見はもっともです。


ですがもしも、敵が残り時間がわずかなのを知ったら。

そしてこれまで以上のやる気を見せてきたなら。

最後のひと当たりは、どう転ぶかわかりませんよ。


強い奴が勝つのではなく、勝った奴が強いという理屈です。

ですからここで、まずはオーバーズに指示。



「残り時間もわずかとなりました。敵は乾坤一擲、最後の力を振り絞って来るでしょう。まずは回復ポーションで手傷を癒やしてください。これが最後の攻防になります!!」

「カエデ参謀、誤字脱字軍はどう仕掛けてくる!?」



一番に反応したのは、やはりカモメさん。



「ポイントで勝ち目はありません。ですから誤字脱字女子部の目標は、オーバーズの全滅と見ます!! 敵も必死になってきますよ!」

「それで、何か策はあるのかしら?」



艦長さん、痛いところを突いて来ますねぇ。

ですが参謀として、みんな納得の返事をしなくてわ!!




「一人死人部屋送りにされたら、敵を三人死人部屋へ送りつけてください」

「何よそれっ、力道山理論じゃないっ!?」(注1


「結局勝ちなんて、要領だけで上手いことやれるものではありません」

「ちょっと、それ軍師が言って良いセリフじゃないわよ!!」


「ですから、リュウ先生の弟子として言ってます。鍛えても鍛えても鍛えても、勝ちに絶対はあり得ない。だから今日も稽古を積むんです」

「納得したいけど納得できないわよ!!」


「納得できなくてもやってください。最後の闘いというのは戦術が闘うのではありません。人が闘うんですから」



う〜〜ん、読者のみなさんは、面白くないと思います?

やっぱり軍師がチョチョイのチョイで、大軍を蹴散らすのが好きですか?

あり得ません。


軍師の戦さは戦争の前から始まってます。

勝ちを得る条件というのは、天の時に地の利と人の和なんです。

敵が戦いたくないときに、有利な場所を選んで、兵の数を集めること。


戦さは数字から始まるものなんです。

だから少数の手勢で大軍を討ち果しても、軍師参謀の集まりでは『兵を集められぬ無能』と罵られてしまいます。

今回は合戦の日時と刻限が決まってました。

地の利というなら、場数を踏んでいる私たちのものでしょう。

では人数は?


私たちは誤字脱字女子部の半分。

ですけど私がいつ、有能な軍師を名乗りましたっけ?

私は自分を有能だなんて、一言も言ってませんよ?

誤解しないでください。


ということで、迫りくる誤字脱字女子部。

全員死に帰りを果たして、私たちに向かって来ます。

さらに、囮のポルテさんを嬲り殺しにした雪崩組。これもまた死に帰り組と合流。



「負けるな者どもっ!! カモメに続けーーっ!」



こうした場合の『勢い』というものは、悪です。

なのですが、それでもいよいよ最終局面ともなればシノゴノ言っていられません。



「二人一組、基本は二人一組で頑張ってください!!」



もう、軍師としても言えることなどそれだけなのだ。

武運長久を祈る。

もう、それしか言えない。


そして激突。

両軍が入り乱れての乱戦が始まった。

始まってしまったのだ。


今回のイベントにおいて、とうとう誤字脱字軍は乱戦に持ち込むことに成功していた。

入り乱れての戦闘ならば、数で勝る側に分がある。

作戦行動もへったくれも無い、野蛮人の戦いだからだ。


しかし、それで主導権を渡すオーバーズではない。

徹底的に打ち合って抵抗している。

一人死人部屋へ送られても、二人からキルを奪う。


まさにシーソーゲーム、互角の戦いを演じていた。

……やはり、主力とは呼べないメンバーから削られている。

仕方のないこととはいえ、数で不利なウチとしては一人の戦死は敵にとって五人の戦死に値するほどの痛みと言えた。



相棒バディを失った方は近々のチームと合流、三人一組を形成してください!」



オーバーズが総崩れをしないのは、彼女たちが私の指示を待たずして三人組を作っていたから。

それほどまでに、オーバーズという集団の練度は高みにある。

一人ひとりのプレイヤーが、「勝つためにはどうすれば良いか?」「状況を好転させるには、何をするべきか?」を考えているからだ。


そして死に帰りたちも、両軍即座に戦線へ復帰している。

パラパラと帰ってくる復帰兵。

まずは陣借り、三人一組を渡り歩き、自分の相棒へとたどり着こうともがいていた。


そして相棒を失った生き残りは、致し方無し。

配置を放棄して相棒探しのため後退する。

前線が押し込まれていた。


後退して闘い、闘っては後退する。



「なんのっ!! カモメは後退しないぞっ! 皇軍に敗北無しっ! 陸奥屋ミチノックに後退無しっ!」

「意地張らないで、カモメ先輩っ!! まとまって後退しないと孤立するでござるよ!」

「おのれ誤字脱字軍っ!! この借りは必ず返すからなっ!」

「カモメ先輩、それは悪役のセリフでござる……」



さすがのフィジカル・モンスターであるニンジャさんを以てしても、現状を覆すのは難しいようだ。

オーバーズ、戦う。

誤字脱字軍も戦う。


しかし悲鳴のような気合いの声、そして鳴り響くはずの剣撃が、少しずつ止んでゆく。

死に帰りは復帰し、東西の総力が集結しているというのにだ。

何が起きているのでしょう?


わかりません、あの人垣の中で何が起きているのか……。



(注1 『力道山理論』 勝ち星から遠ざかっていたG馬場が、師匠力道山に勝つ秘訣を訊いたところ「一発殴られたら三発殴り返せばいいんだ!!」と答えたそうだ。

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