大攻勢へ
【オーバーズ古参枠・カモメ】
ポルテ、お前の尊い犠牲は無駄にはしないぞ。
囮となってくれた仲間に胸の裡で侘びて、カモメたちは半分になった敵軍に襲いかかる。
カエデ参謀の指示は『前衛はヒット&ラン、できるだけ敵陣を囲んでください』というものだった。
カモメはいつも通りの最前線。
つまりこのあしが敵陣奥深く、どこまで走れるかが勝負の分かれ目だ。
「ゆーて誤字脱字軍、お前らカモメばっか狙いすぎだろ!?」
「当たり前ですよ、カモメセンパイ!! 貴女を先に行かせないのが勝利の鍵なんだから!」
「やべぇって、死ぬ死ぬ死ぬ!! カモメ死んじゃうから!」
すっかり足止めを食らって、全身無数に浅手を負ってしまう。
あちこちから血を流して、ひょっとして今のカモメカッコよくない!?
自分で自分の姿を見られないのが残念すぎるぞ!!
「カモメちゃセンパイ、遊んでないでとっとと先に行くのよさ!!」
「おぉっ、ムニたん。心強い援軍!!」
「ほらカモメ先輩、ムニたん先輩が敵を引き受けてくれてますから。自分と一緒に先へ進むでござる!!」
心強い援軍がもう一人、ニンニンニンジャのござるくんだ。
そして一軍オーバーズたちが、カモメを追い越して先へ進む。
見ればなんとなく二人一組を形成しての進撃だった。
「そうか、カモメは単身突撃してたから狙われたのか……」
「カモメ先輩、相棒も決めずに突撃するから……。これからは拙者が相棒でござるよ」
かたじけない、ニンジャどの。
では気を取り直して、進軍じゃーーっ!!
「あ、ですがすでに最前線奥部は他のメンバーが到着してるでござる」
「なんだよ、カッコよく進撃させろよっ!!」
「遊んでたカモメ先輩が悪いでござる」
簡単に言うニンジャは、片手剣ひとつで敵陣の攻撃をいなしている。
それも簡単に、朝食のトーストでも焼くみたいに。
「さあカモメ先輩、見せ場でござるよ。自分が敵をいなしておきますから、ビッシビシとポイントを奪って欲しいでござる」
「お、おう……」
言えねぇ、ニンジャの太刀さばきがカッコよ過ぎるだなんて。
後輩に思わず見とれてただなんて、死んでも言えねぇ。
だけど次の配信で褒めてやろ、ニンジャは絶対ぇテレてくれるから。
ということで、伸び切った小手にハエたたきショット!!
ガラ空きの胴にもハエたたきショット!
片手剣を八の字回転させてから、ハエたたきショット&フォロースルー!
「お見事、敵の小手にクリティカルでござる!!」
「よし、今度はカモメが敵を誘う! やってやれ、ござる!!」
するとニンジャさん、切っ先を親指と人差し指でつまんだ構え。
「必殺、三日月の太刀……」
デコピンの要領で放たれたニンジャどのの太刀先。
それが敵の首筋に吸い込まれて……なにっ!? ワンショット・キルだと!!
すげぇ、すげぇってばニンジャどの!!
お主、いつの間にそのような技をっ!?
「いやぁ、デキ過ぎでござる。二度三度の成功は期待しないで欲しいでござる」
お、テレてるテレてる。
だけどニンジャどの。
「それでイケるんなら、カモメがやってた八の字運動からでも、ビッグ・ショットが狙えんじゃね!?」
「やる価値はありそうでござるな……では!! 必殺……カモメ太刀!!」
今度は胴の防具を一発で破壊した。
おいおい、今夜はニンジャのための夜かよ!?
しかし、カモメ太刀は理解できるけど最初の三日月の太刀ってのは、どの辺りが三日月だったんだ?
いや、あえて訊くまい。
一発クリティカルを決めて、ニンジャどのも御満悦なのだから。
【最古参・海ちゃん先輩】
敵は集団戦法が取れていない。
総崩れというにはまだ早いけど、それでもオーバーズの攻勢には違いない。
攻めるなら、今だ。
「そらそらそらーーっ!! 攻めるなら今が旬だぞ! みな吾輩に続けーーっ!」
……あのね、新米総統ちゃん。
センパイのセリフ取っちゃダメでしょ?
それ、私が言おうと思ってたんだから……。
「敵は複数攻撃ができてません、このまま各個撃破してやりましょう!! 二人一組、二人一組を忘れないで!」
……あのね、博士ちゃん。
それも私が言おうと思ってたんだけど……。
……くすん。
【若手芸人枠・音藤ポルテ】
逃亡しながらチラチラ見させてもらってるけど、ウチのメンバーたち頑張ってるみたいじゃん。
これもそれも手の半数を引きつけている、この音藤ポルテさまの大手柄だ!!
さてさてそれでは、これからポルテはどうすべきか。参謀どのにお伺いを立ててみますか。
「こちらポルテ、大金星のポルテ。これからどうすれば良いかな、参謀ちゃん」
「はいはい、もう少し頑張って敵を引きつけてください♪」
いや、具体的にどうすれば良いかを訊いてるんだけど。
「引きつけた敵をどこへ引っ張っていけば良いかを訊いてんだけど」
「はいはい、もう少し頑張って敵を引きつけてください♪」
なんと?
これは、まさか……。
「……………………」
「はいはい、もう少し頑張って敵を引きつけてください♪」
手前ぇ、録音再生かよっ!?
やりやがったな、参謀っ!!
【ソナタさん】
いい調子だ。
ボクが敵を引きつけて、隊長がビッグ・ショットを打ち込む。
とても良い連携が取れている。
誰かが無線で叫んでたけど、敵は焦りが生じてるんだろうね。
上手に連携が取れていない。
「それハエたたき、もひとつオマケだ。おっとっと、その攻めは少々辛ぅござる」
なんて敵を翻弄していたら、隊長さんが隙をみつけて。
「一撃っ、グラビトン・マッスル!!」(注1
ドカンと一発、クリティカルで敵の防具を破壊してくれる。
そうなると敵も弱腰、ガラ空きの小手や胴をかばって動きも鈍くなる。
そうなったらボクも腕相撲自慢の一発だ。
「届けっ、ラリーゴ・ストライク!!」
隊長さんみたいな速射砲はできないけど、力まかせの乱暴な一発が活きてくる。
こうなると手前は後退するしかない。
後退すれば背後には、乗り込んできたオーバーズの面々が待ち構えている。
右にはハツリセンパイとメイドのミナミセンパイ。
左手にはニンジャとカモメセンパイ。
うん、オーバーズの大攻勢だ。
(1 『グラビトン』 グラビトンは『大鉄人17』の必殺技だ。