イベント初日中段
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と、そのように作戦は立てたが今度は集団戦闘である。敵の行動を味方の雑兵が妨害し、メンバーの行動を敵の雑兵が妨害してくれた。
まずは道化師たちの動きを、敵も味方も妨害してくれる。敵のブルマー・ボクサーと緑髪の小柄な娘を、プレイヤー・ネームはホロホロという、味方の抜刀組が囲んで前に出さない。カエデさんはカエデさんで、敵の道化師に接近を試みるが、こちらも敵の雑兵に阻まれて思う通りの仕事ができないでいた。
しかし焦れているのは敵の道化師だろう。数的有利を活かしてことを運びたかっただろうに、それが思う通りにならないのだ。転じてカエデさん、こちらは敵の道化師に仕事をさせないのが目的だから、自分も動けない状況であっても結果オーライなのである。
絶好調なのはシャルローネさんだ。敵のタンク二人を足止めする仕事に、槍組が加勢してくれてホクホクなのである。ときに敵の背後に回って、チクリとひと突き。姿を消しては、また現れてチクリ。これでは敵のタンクもたまったものではない。苛立ちが募る一方だ。
セキトリとマミさんの二人も、敵の槍師二人に接近できていない。敵味方入り乱れての大混戦になっているのだ。ということで状況を確認。私たちが占領した西軍A陣地。そこへ東軍B陣地を占領していた敵が押し寄せて来たのだ。
さらには、カエデさんに釣られて東軍本丸で全滅した新兵熟練、豪傑格の面々が前線へと戻って来ている。我らが東軍兵士もグイグイと前進、そして援護に入りあちこちで乱闘を繰り広げている。
さて、ここで私の仕事とは? 占領した陣地が墜ちることは無いだろう。士郎先生がいる。陸奥屋の手の者たちがあちこちで戦闘しているが、これが結果として陣地の防衛になっている。陸奥屋通話を用いて許可を申請する。
「嗚呼!!花のトヨム小隊リュウより、本陣。嗚呼!!花のトヨム小隊リュウより、本陣。陣地防衛を士郎先生たちにまかせ、これより敵軍増援を駆逐に出向く。許可を乞う」
少しでも私たちの陣地を有利にするには、敵の増援を削ることだ。いま現在、両軍の攻防はAB両陣地で繰り広げられているのみ。つまり初日の成績は私たちの奮闘次第ということになる。その判断が通じたか、本陣御剣かなめから返答があった。
「漸減要撃を認めます。リュウ先生、奮励努力を期待します」
私の脳内で、暴れん棒な上様のテーマのイントロダクションが再生された。さあ、上様な私! 出撃だ!
まずは手近な敵が三人。いずれも両手剣である。これの小手を奪いまくった。
両手燕返しの連発だ。ひるんだところに真っ向唐竹割りの面打ち、袈裟、逆袈裟で鎧の胸当てを奪う。ここでようやく三人は反応した。逃げる者が二人、向かってくる者が一人。その攻撃を鍔元で受けて、同時に胸元を突く。撤退。
逃げる者の後頭部を唐竹割りに斬り、背中を斬る。この二人も撤退である。そこを突入口として、私は進撃した。今度は六人がまとめてかかってきた。サイドに回って私視点で一列に並べる。そうなると六人対一人ではなく、一対一✕六なのだ。小手を打ってひるませて、木刀を頭上旋回。
旋風で左右の横面を打つ。消滅する敵兵を乗り越えて、今度は一気に唐竹割り。兜を消し飛ばして、驚いている敵をさらに面打ち。二人目を斃した。三人目と四人目は左右に展開。斜め下から斬り上げる飛び魚という技を左右に。敵の胴を弾き飛ばした。
そこから燕返しを繰り出して二人まとめてキル。五人目六人目はここまで私が攻め込んで来たことに驚いているようだった。二人とも得物をからめ取り巻き取り弾いてやる。攻撃能力を失った相手を、容赦なく叩き伏せた。これで六人はすべて撤退。私の道は開ける。
すると聞こえてくる下品な叫び。
「見ろよあれ! 甲冑無しが歩いてっぞ!」
「カモ!? もしかしてカモ!? あれ!」
「よし! このエースで四番に続けーーっ! あの雑魚狩ってやんぞーっ!」
サルのような顔をした九人が走ってきた。お断りしておくが、ひとつのクランが六人制限などとは一言も言っていない。クランの登録人数は無制限だ。九人だろうが十一人だろうが、六人制試合ではないのだ。一斉にかかってきてもまったく構わないのである。
という訳で、エースで四番とやらを血祭りにあげる。脳天から股間へ、股間から脳天へ斬り上げる、縦の燕返しだ。エースで四番を斃されて、九人いや、八人のサルは足を止めた。何の仲間かは知らないが、エースの仇討ちという発想はできないようである。所詮は「自分がスターになる」ことを目的に集まった集団でしかないようだ。
動けない八人の足をまずは奪った。燕返し連発である。八人分の足を奪うには、さすがに走らなければならなかった。齢四十を走らせてくれた報いは受けてもらわなくてはならない。逃げ出す九人、しかし私は東軍諸君に無線を入れた。
「逃がすな、囲め!」
味方も敵もいくらでもいる。そのうちのわずかな人数が逃亡を阻止した。そのかすかな時間だけで十分。手当り次第に二段突きを入れる。八匹のサルは次々と断末魔を上げて消えていった。
そこへ頼もしい友軍の復帰。
「お待たせしました! ユキ、復活です!」
「アタイも帰ってきたぞ、旦那!」
「よし、二人とも! 士郎先生が働きやすいように仕事してくれ!」
復活した二人は、士郎先生の元へと駆けていった。トヨムとユキさんが復活したということは、あの白銀輝夜と三条葵が復帰しているということだ。まあ、私や士郎先生クラスから見ればヤングライオン、もしくはヤングライオネスにすぎない。阿呆なマネをしなければ負けることは無いのだが。
私の周囲に護衛はいない。しかしそれでも不安は感じなかった。新選組三番隊組頭斎藤一が維新後剣道師範になったそうだが、その際一度も学生たちに竹刀にすら触れさせなかったそうだ。
私もまた、ヤング世代にはそれくらいの実力差はあると自負している。
まずは前進だ。とにかく敵の雑兵を討ち取らなければならない。また遠くからサルが走ってくる。
「おらあそこにへっぽこ装備いんぞ!」
「やっちまうべやキャプテン!」
「カモだぜカモカモ!」
もちろん味方に足止めさせて、防具剥離そこから撤退の展開。どうにもこの九人の集団というのは、自分たちが強いという錯覚にとらわれている傾向にあるようだ。その実、私のような無防具な者を見つけるとサルのように飛びかかってくる。それで自分たちが強いと錯覚できるのは、単なる結果主義。
集団で弱い者いじめをしてキルを取っているに過ぎないというのに、試合の中身を軽視しているからその愚行に気付いていないようだ。
まあ、九人の集団がこれから先どうなろうとも、私には関係が無い。私は彼らにあるいは彼らが地球上で最高に価値あるものとするところにまったく興味が無いのだ。
ということでマップを確認。敵が密集しているところ、味方が押されていそうな場所をチョイスする。うむ、カエデさん近辺に敵が集まりそうだ。ひとつこれを駆逐してくれよう。
「今夜も暴れん棒♡」な上様のテーマを脳内再生しながら、敵陣へと駆け出した。到着してみると、いるわいるわ。敵味方入り乱れているものの、やはり敵勢力がグイグイと押してきている。まずは集団のど真ん中へ飛び込む。不意の乱入者に、敵は陣形を崩した。
右、左、正面! まずは兜や鎧を吹き飛ばす。突然のクリティカル連発に、敵は驚きの色を隠せない。燕返しひとつでダブルキル、数で勝る敵もさすがにたじろいだ。小手を弾き飛ばし、兜を破壊する。装備を破壊された物はすぐにでも逃げ出したいのだろうが、しかし密集した人の群れ。逃げ場などどこにもない。
先ほどのサルの言葉が思い出される。これこそがカモなのだ。密集した素人などカカシにも劣る存在だ。私は好き放題にキルを重ねた。
すると誰かが気付いたようだ。
「おい、あの剣士防具着けてないぞ! カモじゃん!」
「だったらお前が行けよ!」
私に防具を破壊された者が叫ぶ。そして私をカモ呼ばわりした奴は反論。
「みんなで一斉に襲いかかるのよ!」
あえて言ってやろう。それをやって生き残った者は、いない。そして私をカモ呼ばわりした奴は、人の群れに飲まれて去っていった。まあ、自分の発言に責任を取れぬキッズなど、どうでもよい。むしろ長生きしてくれた方が、敵陣崩壊に一役かってくれそうだ。
さてもうひと仕事だ。改めて上様にような見栄を切り、愛用の木刀を振り回す。まずは防具の破壊である。敵兵は次々と現れてくれるので、面白いほどクリティカルを稼げた。そこへ可愛らしい声が届いた。
「リュウ先生!」
教え子のカエデさんだ。
「防具を破損した敵が増えたから、もしかしてって思ったんだけど。やっぱりリュウ先生だったんですね!? ……って、ゲッ! なんですか、そのノーダメージって」
カエデさんのステータスを確認する。革防具の耐久値が危険域にあった。相当に激戦を繰り広げていたのだろう。
「ノーダメージって、私は一発ももらってないからね。おそらく士郎先生もそうだろうさ」
「どこのモンスターですか、リュウ先生……しかもクリティカルの数も異常だし」
「褒められてるのかくさされてるのか、わからんねぇ」
「ところでメンバーたちの状況を見てくれないか? 素人相手でも数が多くて手一杯なんだ」
「はい! えっと……マミが撤退、それから復帰。現在セキトリ目指して走っているみたいです。そのセキトリも防具が危険域。もうひと押しされたら撤退かもしれません。トヨム小隊長とシャルローネは上手くやってるみたいですね、あちこちチョロチョロと動き回ってます」
「よし、それじゃあもうひと押しだ。さっさと片付けてみんなと合流するぞ!」
背後から現れた陸奥屋一党吶喊組とともに、私たちは力強く前進した。
一日二回更新最終日。次回更新は夕方四時です。