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そろそろ三日目も終盤戦

【音藤ポルテ】


例え勝ち目が少なくとも、戦場を駆け巡る。

餌をもとめるかのように、嗅覚に従って。

それが『戦争の犬たち』と呼ばれる存在だ。


忠犬は死をも厭わない。

ただ命令に忠実に動くのみ。

囮とされるなら囮にもなろう。


そして生還を果した次の任務がまた、囮だとしても。

それでも戦場を目指すんだ。

オレは戦争の犬なのだから……。



「って、ポルテは犬じゃないからなっ!! オレにも取れ高くれよ! っつーか今度こそ死なねーからなっ! 絶対ぇーに死んでなんかやるものかーーっ!」



血煙を呼ぶ戦場にひとり不満を叫んでみるが、返ってくる言葉は無い。

ただただ、あの性悪軍師の『おほほほほ』という笑顔が、幻覚となってチラつくばかり。

なんて言ってたらそろそろ最前線。


どうやって敵を引っ張り出してやろうか。

……さっきはストリップ・ダンスの振り付けで気を引いたよな。

それじゃあ今度は……。



「ミス・ジェニーならぬミス・ポルポルのエアロビクス・ダンシン!!」



まずは地べたに横たわって、ヒザを上げて脇腹にペトリ。

次のアクションは脇腹についたヒザを伸ばして、フォーーッ!!

往年の芸人さん、HGのような奇声を発しましょう。


……まだまだ乗って来ないなぁ。

それじゃあ両手とお尻を地べたにつけて、ヒザを立てた状態でカカトとカカトを開きまーす。

そこから右ヒザを上げて右ヒザを伸ばして、左左を上げて左ヒザを伸ばして。ちょっぴり誘惑センシティブ・ダンス!


体幹を波打たせて、サティスファクションな表情で、爪先を切なげに立てようか。

あ〜〜、怒ってるね。

こんなあからさまなセクシかダンスをキメられたら、女の子はみんな頭にきちゃうよね。



「ウチのチャンネル、バンする気かーーっ!!」



おうっ、予想外の反応速度。

そして予想外の人数が釣れましたよ!!

ざまあみろ、サイコパス軍師。

ポルテは有能なんだぞ!


……って、あれ? これって軍師の思い通りの展開?




【星影きらら】


目指せオーバーズの陣地、走れ敵を目指して。

戦法に難しいことはない、単純明快な挟み撃ち作戦。

すでに隊は縦二列の編制で、準備万端。


先頭を征く橘明日香さんが左手を差し上げ、サッと振り下ろすと隊は二手に分かれた。

あとはオーバーズを挟み込むだけだ、そして打ち据えるだけ。

なのに、ボクたちの隊は迷走を始めてしまった。



「ピエロがいるよ」

「道化師がいるね」



不穏な声が聞こえてきた。

だからボクは「相手にしないで」と軌道修正を試みる。



「ポルテや」

「あぁ、ポルちゃんだな」

「寝そべってなんか始めたぞ」



隊が止まってしまった。



「みんなダメだよ、あの娘はああやって、みんなの足を止めるのが目的なんだから!」



脚を上げてワンツーワンツー。

それだけで終わってくれたら良かったのに、今度は身体をくねらせてセンシティブ・ダンスを始めてしまった。



「やっべ、あんなの映したら私のチャンネルがバンされるぞ!!」

「おのれ音藤ポルテ、誤字脱字軍から垢バンを出すのが目的かっ!」

「ライバーとして許せねぇ、やっちまえっ!!」



いやキミたち、普段の配信でそれ以上のセンシティブぶっ込んでるでしょ?



「敵はひとりだ、畳んじまえっ!!」



こんな餌では釣られないクマー。

だけど結局釣られてるクマー、というアスキーアートがあったよね。

あのクマさんを、今のボクたちは笑えない。


本当にあっさりと、ものの見事に釣られてるんだから。



「あーあー、橘さん。橘明日香さん、聞こえますか?」

「よっく聞こえましてよ、きららさん。そちらの配置はよろしくって?」

「それがねー、またまたポルテさんの誘いに乗っかっちゃってさー。第二部隊は道化師さんと鬼ごっこが始まっちゃったんだー」

「え? よく聞こえませんわきららさん。こちらはすでに戦闘が始まってますのよ!?」



あーそーかー、あっちは始めちゃったんだねー。

仕方ないかー。

それじゃあ世界映画史上に残る名セリフを、明日香さんに贈ってあげようね。



「地獄で逢おうぜ、ベイビー」



第二部隊の人の群れの中、彼女に向かってサムズアップしてあげた。




【カエデ】


ピエロが大慌てでステージを駆け回る。

道化がよく似合うピエロのまさに見せ場であり、サーカスの醍醐味といえるパートだ。

そして我らが道化師音藤ポルテさんにとっても、名誉ある輝かしい演目。


『囮役』の開演だ。

猛獣使いの猛獣から逃げるでなく、火吹き男の焔や怪力自慢から逃げるでなし。

サーカスのテント小屋を戦場に改め、武装集団相手に道化を演じている。


そしてその成果は、敵部隊の半分を釣り出すことに成功していた。



「素晴らしい戦果だ、同志カエデ。かの道化師は見事に敵戦力を半減することに成功しているではないか」



鬼将軍だ。

まるで私を褒め称えているかのようだったので、奴からの称賛の言葉はすべてポルテさんの功績にすり替えておこう。



「総裁、お褒めの言葉は超一流の配信者ライバーであるポルテさんと、彼女を育んだ株式会社オーバーに与えてください」

「なんの同志カエデ、音藤ポルテを選抜したキミの慧眼にはこの鬼将軍。シャッポを脱ぐ思いだぞ、胸を張りたまえ」



……チッ、話を逸らせなかったか。

お願いですから総裁、私の評価を上げないでください。



「まったく誇らしいではないか、このような才能が三年後はわが陸奥屋ミチノックの門を叩いてくれるのだぞ!! 素晴らしいではないか、かなめ君!」

「浮かれてばかりはいられませんよ、総裁。やはり株式会社オーバーの山郷社長も同志カエデさんを狙っているというか、ほとんどオーバーズ配信者同然の厚遇をしております」

「ぬうぅっ、山郷社長めっ!! 同志カエデは我々が先にツバをつけたのだぞっ!」



あの、私に大学進学という進路選択は無いんでしょうか?

というかこのままだと私、将来行かず後家になりそうな気がするんですけど……。(注1

私としては女子校という垣根を越えた甘い恋も期待してるし、ゲーム以外の華やかな青春時代にも胸を膨らませているんですが。


私にはその権利は無いとでも?

大学生になったら、それこそ素敵な彼と夜景の見えるレストランで食事を楽しんだり、ちょっと背伸びしてお酒なんか飲んじゃったり。

そんな学園生活キャンパスライフを夢見るのは、罪なことなんですか?(注2




(注1 『行かず後家』 それはかなめさんに失礼だ。

(注2 『そんな学園生活を夢見る』 陰キャほど夢のハードルは高い

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