表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

618/724

容赦の無い軍師

【カエデ・ちょっと時間が戻る】


「はい、それじゃあカモメさんたちAチーム。準備をお願いしますね」



現在の状況、敵の攻勢。

オーバーズのアイドルさんたちが一人また一人と討ち取られている。

なかなかにしぶとい誤字脱字女子部。


それならそろそろ私も動きましょう。ということで奇襲部隊を編制。

主力メンバーであるAチームに現場離脱を指示する。

Aチームは大回りして敵の背後を突くのが目的、もちろんマップによってその動きが探知される可能性はある。



「ということでポルテさん、敵の目を引きつけてください」

「へっ、ポルテが!? ってゆーか何が『ということ』なの!?」

「ポルテさんが敵の目を引きつければ引きつけるほど、Aチームは戦果をあげられます」


「そっか、ポルテに取れ高は入らないんだね……」

「いえ、各配信者の視点カメラがポルテさんに釘付けですから、遠回しの大戦果になりますよ」

「……でもそれって、囮ってことだよね?」


「私は初イベントで、数百人を引きずり回したことがありますよ?」

「ポルテ、カエデ参謀とは違うから」

「奮励努力を期待します」


「その言葉って、『死んでこい』っていう意味だよね?」

「……ポルテさん?」

「はい」

「参謀とは憐憫の情すらなく、人を数として捉えるものです」


「それサイコパスだからっ!! カエデ参謀! ちょっと……っ!」

「頑張ってくださいね♪」

「危険だーーっ!! みんな、この女危険すぎるぞーーっ!」



さて、ポルテさんも納得の上で群れを離れてくれましたね。

たったそれだけのことで、誤字脱字女子部の視線がポルテさんに集中しています。

うんうん、Aチームも大回りを完了。

突撃の位置につきましたね。



「でかしたぞポルテ、あとはカモメたちにまかせておけっ!! カエデ参謀、突撃の許可をっ!」

「わかりました、奇襲部隊Aチームっ攻撃を始めてください!!」

「いくぞ敵陣殴り込みっ!! カモメに続けーーっ!」



奇襲とはいえ、そこは昨日今日武に染まり始めた素人。

一発クリティカルを望むことはできないし、ましてワンショット・ワンキルなんて期待もできない。

つまり、防具を剥ぐというひと手間ふた手間。


さらにキルまで取るとなると時間がかかる。

その時間を稼いでくれるのが、ポルテさんだ。

コラコラ、髪をかき上げセクシーダンスなんて、誰がやれと言いましたか。


縦タテ横ヨコ、丸書いてチョン。

どこで覚えたんですか、そんなもの。

というか、ポルテさんの挑発ダンスに誤字脱字女子部が……乗っちゃったーーっ!!


十名以上の敵が、ポルテさんに襲いかかる。

ポルテさん逃亡。

誤字脱字女子部も追いかける追いかける。


そのおかげで、敵の陣形が崩れてゆく。



「本隊突入、本隊突入せよ!!」



ここが勝機とばかり、残された本隊つまり二軍のメンバーが、剣を励まして攻勢に転じる。

正面からは本隊、背後からは奇襲。

そして六人の死に帰りたちが、横から誤字脱字軍を攻め立てる。


崩れた敵はポルテさんを追いかけるかのように、雪崩れて行ってしまった。



「ポルテさ〜〜ん、作戦成功でーーす!! 生き残ってくださいね〜〜♪」

「この人でなしーーっ!! 配信で覚えてろよーーっ!」



敵が総崩れとはいえ、なにしろ倍の数。

ポルテさん救出に割ける人数はいない。

私は心の中で帽子を高々と振って、別れを告げた。


つまり救助の人数は出さなかった。

私の心境はというと、「地球の果てまで逃げてくれ」と怪獣ツインテールを見送る、MAT隊員のそれであった。

人はこれを、『あなたまかせ』というだろう。軍師とはそういうものなのです。




【星影きらら】


うん、ものの見事に総崩れ。

雪崩のように陣形が崩れ去ってしまった。

ボク自身がもう、その流れに飲み込まれてポルテさんを追いかけさせられている。


この一戦も、またボクの負け。

どうすればあの悪魔じみた毒々参謀に勝てるのだろうか。

仲間を囮にしておきながら、救助にすら行かないあの非人道性。


溺れた者に竿を差し伸べ、寄ってきたところを突ついて沈める悪魔主義者。

それを可能にするためのしたたかな準備と、詐欺師さえ陥れる狡猾さ。

どれを取っても可憐で純情ピュア、そして品性あふれるボクでは敵わないのかもしれない。


悪魔は人をたぶらかす、しかし悪魔を駆逐するのもまた、人間なのだ。(注1

死人部屋、コマンド・ボタンしか無い虚無の空間。

肩を落としてその部屋を出ると、またもやみんなが待っていてくれる。



「ヘイ、きらら!! なにをしょぼくれてんだい!?」

「さあ、私たちの準備はできてるよ!!」

「ぶちかまそうぜ!」

「目にモノ見せてやるんだ!!」

「今度はどんな作戦で行くんだい!?」



ボクは力無く首を振った。

実はもう、策が無い。

天才悪魔に抵抗するだけの知恵が、もう尽きているんだ。



「あ〜〜、きららにばっか負担かけてたからな〜〜……」

「デキは悪いかもしれないけど、私たちで作戦立ててみる?」

「じゃあ頭の良くない作戦だけど、左右から挟み撃ちにしてみるかい? ちょうどオーバーズもひと固まりになってるしさ」


「そういや、あちらさんのポルテってどうなった?」

「私はひと太刀浴びせたよ?」

「アタシも斬りつけた」

「それじゃ私の攻撃がトドメになったかな? 刃が当たった程度だけど、消えていったし」



どうにか囮役は仕留めたようだ。

だけど戦果はそれだけ。

そのためにこちらは全滅してるんだから、効果対費用がかさみ過ぎている。



「ま、次は頭の悪い挟み撃ち作戦だ!! みんな、気合い入れていくぞっ!」




【天使悪魔・フー・マン カエデ】


「おかえりなさい、ポルテさん♪」

「……この、人でなし!!」



あらあら、戦果を労っているのにご機嫌斜めですねぇ。



「ときにポルテさん?」

「断る、ポルテは絶対に断る!!」

「敵が二手に別れて、二面作戦を取ってくるようなんですけど……」

「軍師って学校の下駄箱に耳を置き忘れた人種なの?」

「この片側を、また引きつけていただきたいのですが……」

「断ってもやらせるんでしょ?」

「All for one. One for all.の精神で、お願いします」



ポルテさんは気持ちよく引き受けてくださいました。



(注1 『悪魔を駆逐するのもまた、人間なのだ』 それはおかしい。悪魔を駆逐するのはあくまでもキリストや天使でなくてはならない。つまり星影きららの傲慢な発言は反キリスト主義者のそれと取れる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ