軍隊、陸奥屋まほろば連合
【星影きらら・やや時間バック】
やっぱり強い、日本刀を持ったオーバーズ。
軽く軽く手傷を負わされて、防具の耐久を削られたところでヘヴィな一発が来る。
どうにもポイントを奪われがちになってしまう。
数ではこちらが上なんだけど、二面作戦を強いられているのがネック……。
いや、本当はそれが理由なんかじゃない。
ボクにも理解できている、やはり個人の技量に差があって、チームの連携に差がついてしまってるんだ。
それがやはり結果に現れてしまっている。
防具を破壊されて片腕欠損、革鎧を奪われては死人部屋送りが続出。
だけどそれでも……。
死に帰り部隊が到着すれば、敵を引きつけることも可能なはず。
生き残っているメンバーのすべてを、オーバーズの生き残りに集中することができるはずだ。
……それにしても、死に帰り部隊の到着はまだなの?
急かす訳じゃないけど、早くしてくれないとこっちも困るんだよね。
その時、死に帰り部隊からの連絡が。
「ねぇきらら、どうなってんの!? 道がふさがれちゃってるよ!!」
え? なに、どゆこと??
急いでマップを開いてみる。
どん! じゃん!! じゃじゃ〜〜ん!!!
なんだこりゃ!? 死に帰り部隊の行く手を、味方の男子部、一般参加者がデロリと広がってふさいでるじゃないか!!
「恭介お兄さん、なにしてるの!? 女子部の死に帰り部隊を通してよ!!」
「……すまないきらら、敵のネームドたちに良いようにされて、このザマ……あーーっ!!」
……そうか、分かったよ恭介お兄さん。
これが孔明の策ならぬ、スタッフ・カエデさんの策なんだね?
おのれ孔明、いやカエデ参謀!! ボクは必ずや捲土重来を果たしてみせるぞ!!
そのときまで首を洗って……ってオーバーズが武器を持ち替えた!?
しかも作業の速度が上がってる!?
まあ、扱いにくい日本刀よりも西洋武器の方が作業効率が良くなるのは当然か。
って、言ってる場合じゃないよ!! 味方がどんどんやられてる!!
おのれカエデ軍師、どこまでもデキルところを見せつけてくれるんだね……。
「死に帰り部隊へ通達」
ボクは女子部に呼びかけた。
「渾身の攻めを以てしても、状況必ずしも好転せず。いま現在のかくなる状況へ陥りしものなり。されど誤字脱字軍女子部、いまだ戦意は旺盛気力も充実。よって現勢力を温存し、最後の突撃に望みを賭けることとする。誤字脱字軍の興廃、次なる突撃にあり。総員なお一層の奮励努力を期待する」
ダメだなぁ、ボク。
秋山真之参謀のような名文句が浮かばないや。
そして、死に帰り部隊が後退した。
復活ポイントまでさがってくれる。
理解してくれたんだね、みんな。
悔しいこともあるだろう、辛いこともあるだろう。
だけお唇をかみしめて耐えなきゃならないこともある。
涙を振り切って笑わなきゃいけないこともある。
それが、配信者なんだ。
今の悔しさを、次の突撃に変えるんだ。
みんなならできるさ、ボクだってできる。
だから生き残りのみんな、一緒にボクと死んではくれまいか。
「よし、みんな!! ここは新規巻き返しだ! 一度全滅しよう!!」
「分かったよ、きらら!! 小隊、突撃ーーっ!」
「先に逝ってるからね!! うぉぉおおっ!」
「復活地点に火を灯しておくからな、道に迷うな!! 突撃ーーっ!」
みんな、みんな逝ってしまう。
ボクが後に続くを信じて。
そして、誰もいなくなった……。
「お、きららじゃん!! まだ生きてたんだな!?」
オーバーズのカモメさんが、底抜けに明るい声で話しかけてくる。
「おーい、ソナターーっ!! お前の妹がいるぞ!」
いや、戦場での姉妹再開がどれだけ悲惨なものなのか、カモメさん何も考えてないでしょ?
「あ、きらら……」
そして頼りなく儚げな声で、出てきちゃうんだもんなぁソナタお姉ちゃん。
「もう、誰もいなくなったね……」
「そうだね、ソナタちゃん。こんなボクを憐れむかい?」
「まだ闘うんだよね、きらら……」
「うん、こんなボクを信じてみんな逝っちゃったからね。ボクだけ生き残るわけにはいかないよ」
「バカだなぁ、きらら。キミはバカだよ……」
「じゃあソナタちゃんなら、生き残る? みんなを裏切って」
「そうなんだよね、だからボクが斬らなきゃいけないんだ。そのために、ボクは出てきたんだから」
「全力を出してくれるんだね、ありがとう……」
「みんなバカだよ、ボクもきららも。戦争なんて、大馬鹿者のすることだ」
「でも、戦争は無くならない」
「人が破産するまで続く、デス・ゲームだ」
「全力で来てね、お姉ちゃん……」
「行くよ、きらら……」
必殺、雲龍剣。
そんな言葉が聞こえたような、聞こえなかったような……。
「よーーし、きららもこっちに来たぞっ!!」
「オーバーズは得物を西洋武器に持ち替えたぞ、どうする参謀どの!?」
「突っ込もうぜ、やっちまおうぜ!! 西洋武器ならこっちのモノさ!」
しんみりとした死人部屋送りから一変、誤字脱字女子部のみんなにもみくちゃにされてしまう。
みんな大元気。
やる気満々。だからボクは訊く。
「みんなはどうしたい?」
「「「もちろん突撃、特攻!! 目にモノ見せてやれ!」」」
「よーーし……それじゃあ行くよっ!! 細かいことは言いっこ無し! 誤字脱字女子部、総攻撃だーーっ!」
頭の悪い戦法だよ、何も考えてなんかいない。
正しい戦法でも無いし、間違ってるとも断じ切れない。
だけどみんなやる気満々なんだから、今はこれが最良の策なんだ。
ボクの仕事は、みんなが困ったときに手を差し伸べること。
それ以外は、あーしろこーしろなんて言わなくて良い。
「来たぞみんな、敵の総攻撃だっ!!」
やっぱり先頭に立ってるね、カモメちゃん。
参謀さんに策を求めてるみたいだ。
そしてオーバーズの目の色が変わる。
「向こうも仕掛けてくるよ、このまま突撃ーーっ!!」
凄惨な打ち合いが始まった。
乱暴な戦いだ。
それでも突撃も攻撃も止まらない。
もしかしたら、オーバーズも何度か全滅してるかもしれない。
だけど立ち向かってくる。
ボクたちも全滅しながら、それでも態勢を立て直す。
そして、何度目かの死人部屋帰り。
戦場へと駆け足で戻るその途中で……。
「あ……」
ボクは見てしまった。
どうしていままで気が付かなかったのか。
陸奥屋まほろば連合の布陣。
戦場に見合った武器を持ち、その兵をまとめて配置されている姿。
「陸奥屋まほろば連合って、まるっきり軍隊じゃないか……」