いらないことを言い出す奴はどこの世界にもいる
【星影きらら】
「よし行けーーっ!!」
「押し込め押し込めーーっ!」
「勝負を決するは今、ここぞーーっ!!」
数は絶対、手数も絶対。
だけど、誤字脱字女子部はなかなかオーバーズの生き残りを撃破できないでいる。
数は倍以上いる、本来ならば圧倒的優勢のはず。
なのにオーバーズは全滅してくれない。
その理由は簡単、日本刀の斬れ味にモノを言わせてこちらの防具を吹き飛ばして(演出)くれるからだ。
「やっぱりただでは全滅してくれないなぁ、オーバーズ」
「あら、でもずいぶんと押し込めてますわよ。敵も前線をずいぶんと後退させて、今ではA陣地からはみ出る寸前ですわ」
「ん〜〜……あのオーバーズがこれで終わるとは思えないんだけどなぁ……」
マップを開いてみて、ボクは目を疑った。
「まずい、敵の死に帰りだっ!!」
「なんですって!?」
「横から来てる、左翼っ迎え撃って!!」
慌てて部隊無線を飛ばしたけれど、返事をする暇すら無し。
すぐに交戦状態となってしまった。
ウチの死に帰りたちは、復活地点で待機している。
復活した戦力は、一気に総動員しようとしていたからだ。
それが裏目に出てしまった。
「きらら、応援に行こうか!?」
復活部隊から無線が入る。
いけない、今ここで応援に来られても戦力の逐次投入でしかない。
だけど、指を咥えて見ている訳にもいかない。
オーバーズの死に帰りを合わせても、手数は三十数名。
こちらは五〇名近くいる。
「死に帰りはまだ待機、大丈夫さ。まだ巻き返せるよ」
と言っている間に、こちらは四十人にされてしまった。
奇襲攻撃に効かされてしまってるんだ。
クッ……これじゃあオーバーズと変わらない数でしかないぞ。
冷静に冷静に、これはボクの判断ミス。
奇襲を受けてもはね返せると過信していたね。
これは単に奇襲攻撃というだけではない。
ボクたちは今、二面作戦を強いられているんだ。
だからいきなり数を減らされてしまったんだ。
そしてこの二面作戦というのは、時間が経てば経つほど効いてくる。
オーケイ、分かったよ。
この場は敵にも二面作戦を取ってもらおうじゃないか。
戦力の逐次投入が愚策と分かっていても、この場面はそうじゃないってことさ。
「作戦がコロコロ変わって悪いんだけど、死に帰りチームは至急応援にきてくれないかな? 敵の死に帰りチームを、背後から襲って欲しいんだ」
待ってましたと威勢の良い返事。
そりゃそうだ、誰だって視聴者に自分を活躍を見せたいに決まってるもんね。
さてオーバーズ・スタッフのカエデ参謀? どうするかな。
【カエデ】
はい、動き出しましたね誤字脱字女子部、悪手確定ーーっ!!
と言いたいところですが、我が軍の死に帰り部隊は敵の本隊左翼(向かって右側ね)を攻めるので一生懸命。
ここに襲いかかられるのは、決して美味しい状態ではありません。
ですが敵軍の財布はすっからかんの素寒貧。
もう余力はありません。
さらに言うならば、敵本隊の数はすでにオーバーズ三十余名を下回っています。
さてここで算数の問題。
敵の本隊は加速度的に減少していきます。
敵の死に帰りは二十四名。
つまり死に帰り到着までに敵の本隊を十一名以下にしておけば、数的有利に変わりはありません。
ましてオーバーズはウチの四先生方やネームドたちほど腕は立ちません。
死人部屋送りはポツポツとしか送り込めません。
ということは?
死人部屋増援は雨だれ式のポツリポツリ、一挙大量投入をするには一度全滅しなければならないということ。
で、結論に入りますね。
敵の死に帰りがまとまった数を集められるのは、いま現在、この機会だけ。
これ以降は全滅でもしない限り、まとまった戦力でオーバーズと向き合うことはできません。
死んでは復活、そして死人部屋送りのループに入ったということです。
詰みましたね、誤字脱字軍参謀さん。
しかしそのとき、我が耳を疑うような信じられないかなめお姉さまのお言葉が。
「カエデ参謀、誤字脱字女子部をすみやかに全滅させた後、武器を西洋武器に変更せよと総裁がおっしゃってます」
ほえ?
……なにそれ?
どゆこと?
しかしかなめお姉さまは全軍にも通達します。
「陸奥屋まほろば連合総員に、総裁より通達です。現在の和武器からすみやかに洋式武器へと変更してください。このままでは圧勝すぎて面白味に欠けると、総裁がおっしゃってます」
……鬼将軍。
嗚呼、鬼将軍鬼将軍……。
きみはどこまで鬼将軍かな……?
ハッ! いけませんいけません、七五調で呆けてる場合じゃないんです。
あのろくでなしがまた、ろくでもないことをホザき始めたんです。
私としてはすみやかに、オーバーズへ「聞こえなかったことにしましょうね」と告げなければ。
「おーーし!! 総裁が退屈されてるぞーーっ! みんな、西洋剣に変更だーーっ!!」
おーまいがーーっ!! カモメさんの音頭で、みんな武器を変え始めてるーーっ!?
いやまあ確かに、『王国の刃』には副武器が認められてますよ。
戦闘中でも武器変更は可能です。
だがしかし、ちょっと待て!!
フットワークをいかして、軽く軽く打って突いて。
トドメの一撃は大抵身体ごと飛びこむ、突き技の一撃。
……って、鬼将軍の指示に従って戦果を出すなーーっ!!
なんてこったい、ルーク・コンタイ(注1。
オーバーズのキル速度は、和武器のときとちっとも変わってないじゃないですか……。
あぁ、やだなぁ……。
今ごろ鬼将軍の奴、試合が面白くなったなどと鼻の穴を広げて御満悦。
ムヒョムヒョとすけべったらしい笑い声をあげてるんだろうなぁ……。
いや勝負に油断は禁物、なにしろ敵はまとまった数を揃えて来てるんだから。
「いや〜〜なんと申しましょうか。日本刀よりも片手剣は扱いやすいですねーー♪ サクサクどんどんとイケちゃいますよ〜〜♪」
キツネさん……貴女、私のことがキライなんですか?
(注1 【ルーク・コンタイ】 ムエタイ選手。日本から来た空手家、藤平昭雄選手に敗れる。藤平選手の所属は大山空手道場、のちの極真会館であった。