二日目、反省会
【カエデ】
まずは帰還、二日目の戦闘は終了。
一度まほろば軍拠点である本殿に入る。
私のお仕事はアイドルさんたちのお世話。
「それではみなさ〜ん、生存者組と死人部屋組に分かれてくださ〜い」
敵にも見せ場を作るため、オーバーズの危機感をあおるため、死人部屋送りとなったメンバーも不満の無さそうな表情。
「あ〜〜、やっぱり半分くらいは生き残ったんだ〜」
「さすが、主力の第一小隊はみんな生き残ってるね」
そう、戦場では実力者が生き残るものだけど、そうでない生き残りも存在する。
マンガの名作「エリア88」で述べられていたけれど、運のある者が生き残るともいう。
偶然狙われなかった、たったそれだけの要因で生き残ることもある。
「はいみなさん、本日もお疲れさまでした。明日の開幕はオーバーズの生き残り半分と、誤字脱字女子部の生き残り三分の二が衝突するところから再開です」
「してカエデ参謀、明日の開幕戦どのような初手を?」
早速ニンジャさんが訊いてくる。
「はい、明日の初手は私も後退しますから、生き残りさんたちも後退してください」
「えっ、さがっちゃうの!?」
カモメさんはびっくり声。
だから私も解説を入れる。
「これは王国の刃では初歩的な作戦、死に帰りと生き残りでさっさと合流する作戦です」
「なるほどなるほど」
死人部屋送りとなった、ゲーマーズのキツネさんはすぐに納得。
「まとまった数を作ってから反撃に出るんですね?」
「その通り、ですがそこは誤字脱字軍も死に帰りをまとめるという形で、すでにやっています。もしかしたら敵も後退するかもしれませんね」
「いやいやカエデ参謀、敵から見ればここは戦果の上げどころだよ。押し込んでくるに決まってるさ!!」
カモメさんは常に攻めの姿勢が頭をにある。
「確かにそうでしょう、だから後退するんです」
「そのココロは?」
「敵に『攻勢に出たから、オーバーズが後退した』と勘違いさせたいんですよね。そうなってくれたら、死に帰りさんたちが横から殴り放題でしょ?」
「おぉっ、えげつない!!」
「いえいえ、兵法なんて元々えげつないものでしかありません。敵が嫌がる時を選んで、嫌がる状況を作り、泣いて謝るような人数で挑んでゆく。それが兵法の基本ですから」
「アタシ、カエデ参謀の顔が鬼に見えてきたわ。黒マントも背負ってるし……」
あ、私大ダメージ。
鬼将軍と一緒にされてるみたいで、それだけでシボんじゃいそう。
「ダメですよー、志乃センパイ。カエデ参謀が沈没しちゃったじゃないですかー」
「あああ、ごめんなさいカエデ参謀。悪気は無かったの」
「だ、大丈夫大丈夫。一瞬、鬼将軍と一緒にされてるかと思ってヘコんじゃった」
……何故に目を背けるかな、オーバーズ。
それも全員一緒に、同じタイミングで……。
でもまあ、気を取り直して。
「そういうことでみなさん、明日の初手は敵を引きずり込む方針で!!」
「「「おうっ!!」」」
【星影きらら視点】
帰ってきた。
先生方もボロボロ、男子部も一般プレイヤーたちもボロボロなんだけど、みんな昂然と胸を張って帰ってきた。
敗色は濃厚、だけどそれでもボクたち女子部がオーバーズを死人部屋へ送れたことがほまれのように、みんな胸を張って帰ってきた。
「いま現在、ポイント差は必ずしも好転せず、ですわね。みなさま……恭介お兄さま」
「うん、状況は決して芳しくはない。だがしかし、それでも意気消沈することなく、遂にはオーバーズに撤退者を出せたことが重要だ!!」
そうだ、ボクたちは後発ながらも先人たるオーバーズを死人部屋送りにできたんだ。
数はボクたちが二倍いたんだけど……。
それでもこちらの死者は三分の二、オーバーズは半数。まだまだ数の上では有利だ。
「よろしい、それじゃあ明日の開幕一番。初手をどのように打つか、だ!! 良い策は無いか、きらら?」
ここ一番で重要な作戦をボクに丸投げする姿勢、眩しすぎるよ、恭介お兄さん。
「もちろん敵将も開幕一番で、なにか手を打ってくると思う。だけどどうだろ? こちらの人数は五〇人近く、敵は二〇人にも満たない。一気に数で押すかい?」
ボクも決定をみんなに丸投げする眩しすぎる姿勢。
「どうだ、女子部のみんな。開幕総攻撃でオーバーズを仕留めるか?」
「素晴らしい発案ですわ、きららさん。明日は開幕と同時に飛ばして飛ばして飛ばしまくって、オーバーズのみなさまにひと泡吹かせてさしあげましょう!!」
明日香さんは明日香さんで、細かいことは気にしないという、これまたきらめきに満ちた姿勢。
すごいよ誤字脱字軍。
勝負を度外視してでも視聴者さんたちをよろこばせようとするその在り方。
絶対に一般社会では生きていけない姿勢だね。
Vtuberという生き様に感心してはいるけれど、読者のみんなは絶対に真似しちゃダメだよ?
誤字脱字軍は特殊な訓練さえ受けないでこんな芸当ができる、ちょっと脱線しちゃってる暴走機関車なんだ。
アマチュアが彼らの真似なんかしちゃ、危険すぎるからね?
仮にも彼ら彼女らは『プロ』ですから、絶対に真似なんかしちゃいけません。
何故かお金が貯らない、身に覚えのない借金がいつの間にかできている。
年齢イコール彼女いない歴などの症状が現れちゃうぞ?
なんて冗談めかして言ってるけど、ボクの中には違和感が残っていたんだ。
なんだろうか、この心の中のモヤモヤは……。
この気持ちを無理矢理言葉に置き換えるなら、『思う通りにはならないかも』だ。
もちろん相手のある戦闘さ、自分の思う通りになんてなかなかならないもの。
だけどそれとは違う、もっと決定的な何かがあるような気がする。
予想外だったオーバーズの戦闘力、それが俄に崩れてキルを奪えた。
そんなことあるんだろうか?
戦場では時として、信じられないことが起こるものだとも言うけれど、これはちょっと違和感だらけでしかない。
……わからない。
明日の戦いで一体何が起きるというのか?
もしもその不測の事態が発生したとして、そのときボクは……。