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二日目、終了

【星影きらら】


「このままじゃやられっぱなしです!! 今度は初手から攻撃力を上げていきましょう!」



女子部の中で声を上げる。

陣形は敵が見せてくれた三角陣、突撃陣形だ。

しかも敵陣がやってくれたそのまま、上り線下り線の往復攻撃。


もろパクリ? オリジナリティが不在? それがどうしたっていうの?

確かに、敵はこの突撃陣形を破る方法を熟知してるだろう。

だけど知恵だけでは勝てない、士気というものが大いに関わってくる。


景気づけといってはなんだけど、ここは突撃で勢いをつけていかないと全然良いところが無くなってしまう。



「敵もいよいよ本腰みたいだぜ」



見えてきた敵陣営。

その先頭には、あの『災害先生』たちが並んでいた。



「おう、そうみてぇだな。ネームドプレイヤーたちもごっそりと面ァ並べてよ」

「数字では負けてるかもしんねぇけどよ、ルールじゃ負け確かもしんねぇけどよ。視聴者喜ばすのだけは、負けねぇぜ!!」

「その意気だ、みんな!! 誤字脱字軍師、突撃するぞーーっ!」



そうだね、負けは確実だろう。

ここからの逆転は無理かもね。

でも、試合を投げたりはしない。


思いのほか熱いのが、配信者ってものなんだ。

見ていてくれる視聴者がいる。

応援してくれるファンのみんながいる。


その目の前でボクたちは、簡単に諦めるなんてできやしない。

先生たちが激突する。

一般プレイヤーたちもネームドプレイヤーたちとぶつかり合う。


男性陣だって奮闘していた。

そしてボクたちは、押し込まれるようにオーバーズたちと向き合っていた。



「誤字脱字女子部、突撃陣形……」




隊内無線で呼びかける。

するとオーバーズも陣形を変えてきた。

ボクたちと同じ突撃陣形だ。



「いくぞ、誤字脱字軍!! 真っ向勝負だ!」



敵陣先頭のカモメさんは、声がでっかい。



「負けませんわよ、カモメさん!! 誤字脱字女子部っ、突撃ですわーーっ!」



いざ尋常に勝負勝負とばかり、両軍は急接近。

だけど激突の瞬間まで、可能な限り個人無線を送り続けた。

曰く。



「敵は防具無し、先に死ぬのは敵だからね」



返答を待たずに無線を切り替え、別のメンバーにもアドバイスした。

さあ、ボクも突撃に参加しないと。

小手に脚に、あるいは胴や面に手傷を負ったオーバーズ・メンバーたちとすれ違う。


だけど、お釣りのチョン突きおまけのチョン打ちを軽くお見舞い。

ちょっとだけポイントを稼がせていただく。

オーバーズも出遅れのボクが控えているとは思わなかったのか、安々とポイントを献上してくれた。



「よしみんな、返しの突撃が来るよ!! 押し包んで打ちまくろう!」



先程の突撃同様、オーバーズは突撃陣形に切り替えている。

こちらはアラアラ、なんと縦深型陣形じゃない♪



「陣形変更なんて必要ないよ、そのまま反転!! そのまま突撃だーーっ!」



今ここぞ、ボクたちの見せ場は。

Vの字が矢じりのような隊列を飲み込んでゆく。

まだだよ、号令はまだまだ……。


そしてオーバーズを十分に飲み込んだところで……。



「総員、中央軸へ!! 押し包んで打ちのめすんだっ!」



オーバーズ、一名戦死。

誤字脱字軍、一名戦死。

さらに両軍、戦死者の数を重ねる。


だが完璧とも思えた縦深型陣形が、あちこち食い破られている。



「カモメ、健在っ!! 生き残ってる奴は名乗りをあげろっ!」

「隊長健在です!」

「ニンジャ、生きてます!!」

「犬猫、傷だらけのローラだよ……」

「…………す〜〜、は〜〜っ……」



それ以外にも、名乗りを上げる者が続々。

それでもオーバーズを半分まで減らすことに成功した。



「戦死者、死人部屋をでたら慌てて前線に来るんじゃねーぞ!! 全員復帰してからで十分だ! 敵にも戦死は出ている!!」



いやカモメさん、無線でしょそれ。

だったらそんな大声で叫ぶことはないよ。



「カエデ参謀、指示をくれっ!!」



え? カエデ参謀……?

そんな娘オーバーズにいたっけ?

あ、あのスタッフさんか。


参謀ってことは、いままでの指揮はカエデさんが執っていたってことか……。

なるほどそれなら……。



「タイヤーさんメグロさん、メリーさん。敵のカエデさんは見えるかい?」



誤字脱字女子部の中でも体力自慢に声をかけた。



「カエデ? ……あぁ、あの青髪のボブ子さんだな?」

「あれがどうした、きらら?」

「あの娘がオーバーズの参謀だよ!! あの娘を討取れば、形成逆転だ!」

「なにっ!? おう、みんなアタシに続けっ!」

「あいつ討取りゃ、私たちの勝ちなんだね!? ヨッシャーーッ、行くぞーーっ!」



誤字脱字女子部挺身隊、別名特攻隊。

カエデさんに向かって突撃。



「カモメちゃ先輩っ!! カエデちゃ参謀が狙われてるのよさーーっ!」

「なにっ!? 生き残り総掛かりだっ、カエデ参謀をまもれーーっ! 絶対に死なすなーーっ!!」

「いやカモメさん、死人部屋に行っても数秒のロスでしかないから……」



叫ぶムーニーちゃん、カモメさんの声が聞こえるのは分かるんだ。

でも何故かカエデさんの声まで耳に出来てしまった。

そしてオーバーズ生き残り、二〇名にも満たないメンバーが青髪ボブの女の子に群がった。


ここでボクは、この決戦でもっとも美しい戦いを見た。

君が攻めるなら僕が守る。

僕がゆくなら君が守ってくれるだろう。


互いが互いを信じて、必死にカエデ参謀を守っていた。

だけどボクは非常に徹さなければならない。



「誤字脱字女子部、敵の生き残りを殲滅せよ!! 敵将カエデともども、皆殺しにするんだっ!」



攻めるも必死。

守るも必死。

その諍いは、人類史上もっとも美しく尊かった。


誰かを守るために必死。

そして誇りを貫くために必死。

これこそが聖戦ジハードと呼ぶに相応しい戦いのはずだ。


命を的に飛び込む者の横顔が、これほどまでに美しいとは。

決意の戦いに臨む者の横顔が、これほどまでに尊いものとは。








ここまでの戦いを見て、やっぱり自分に置き換えてしまう。

ボクにとって命を賭けても守りたい物って、あるだろうか?

それを失ったら、生きていけない物ってあるだろうか?


オーバーズにとっては、それがカエデさん。

すごく恩を感じてるんだろう。

困ったときには、なにかと相談に乗ってもらえるんだろう。







そんなスタッフって、ちょっと羨ましいかな

そんな羨ましがりを見せていたら、二日目終了の銅鑼が鳴った。

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