蹂躙
【星影きらら】
いやはやなんとも、少ない人数でボクたちを囲みに来るとは。
日向へ引きずりだそうとしたメイドさんも、敵の素早い対応により失敗。
左翼ではショット&ラン戦法に振り回されて、いたずらに手傷を負うばかり。
「明日香さん、これは一時後退。仕切り直しが必要かもね」
「ですがただ後退というのも面白くありませんわ。なにか手はありませんの?」
「そうだねぇ、ジワジワと後退しながら三人一組を編制。ポイントを少しずつ挽回するのはどう?」
「それですわ、今のままでは遊んでいる人数が多すぎますものね」
じんわりと後退を開始する誤字脱字軍。
勢いに乗ったオーバーズは、無邪気に追いかけてくる。
「左右もジワジワと展開してね。今度はこちらが敵を包囲するんだ」
と思ったら?
オーバーズの足が止まった。
追いかけて来ないじゃないか。
フッ……やるじゃないか。
だけど人数はこちらが上だよ。
「左右へ急速展開、オーバーズを包囲するんだ! ポイントを奪い返すよ!!」
号令一下、大きく開いた陣形。
敵を包み込む鶴翼の姿。
「よし、誤字脱字軍!! 前進っ! ……っ!?」
敵が陣形を変えた!?
まさか、そんな真似までできるの?
そしてそのまま、逆V字陣形で突っ込んできた。
「うぉおぉぉっ!!」
とてもじゃないけどアイドルとは思えない雄叫びとともに、先頭はカモメさんだね、オーバーズが突撃してくる。
「やってやるぜーーっ!!」
「カモメ先輩バンザーイっっ!」
「変なこと叫ぶんじゃないわよっ!! 力が抜けるっ!」
「キルはいらない! キルまでいらないっ!」
「手数手数手数っ!」
うわっ、危なっ!
とんでもない勢いだ。
危うく戦死するとこだったよ。
「きららっ!! うしろっ!」
へ?
なにっ!? 敵がもう迫ってるだって???
ソナタお姉ちゃんの一撃をかろうじてかわす、だけどムーニーちゃんの一発を小手にもらう。
うわっ、巻き毛さんも胴にくれる。
だけど攻撃の波は一波で終了、被害はそれだけで済んだ。
済んだんだけど、それでも……。
「なんだよ、あの連続攻撃……。まるで滝〇国電パンチじゃないか……」
マリ姉さんがつぶやく。
いや、攻撃の切り返しの素早さもそうだけど、それ以上に……。
集団行動ができている、そうだね……まるで誰かに操られているかのように……。
野球でもそう、サッカーにもある。
セットプレーっていうのかな? 格闘技なんかで言うところの、コンビネーションにも近いだろうね。
事前に十分な練習を積んでこそ、可能な集団戦法だ。
そしてその『訓練された集団戦法』が、いよいよ牙を剥いてくる。
「正面軍、革鎧がもう保たないっ!!」
「右翼、革鎧を破壊され始めているっ!」
オーバーズ対誤字脱字女子部の第一ラウンド。
どうやらそろそろ幕のようだ。
防具を破壊されてしまっては、あとは時間の問題だろう。
「左翼、戦死者二名……三名!!」
「右翼も死者が出始めているぞ!!」
「正面っ……正面、突破されましたっ!」
とうとう食い破られた。
これでもう、オーバーズを止める手立ては無い。
倍の数を誇った誤字脱字女子部が、次々と葬られてゆく……。
だけど、アイドル衣装のオーバーズに、このままやられるのも面白くないね。
「敵だって裸同然なんだ、反撃反撃!! 手数で押してっ!」
【カエデ視点】
「大技はいりません、小さく突いて!! 回転をあげて数をまとめてください!」
散々に傷つけた、敵の革鎧。
一発芸でしかなかったけど、やっぱり三角陣の突撃……それも往復攻撃が効いていた。
あちこちで防具が破壊される、爆発のような演出があちこちで見受けられた。
そうなるとまずはファーストラウンドの先取も確実よね。
ということで、次の激突で敵はどうでてくるか……。
……そういえば、三人一組を基本にして稽古してたっけ。
小隊単位の行動じゃなく、三人隊単位の攻撃でも仕掛けてくるかな?
こちらは革鎧無しのアイドル衣装、一発もらうと致命傷になりかねない。
数でも上なんだし、また包囲を掛けて来そうだよね。
でもそれは三角陣の突撃を食らってるから、うん。
逆に三角陣形で突っ込んできたりして。
そっちの方が威力があるよね。
「あのさ、カエデ参謀?」
と、ここでカモメさんの訴え。
「このままカモメたち、圧勝しちゃうのかな?」
「もちろん勝負の世界では、なにが起きるかは分かりません。ですが基本的には、勝ち筋を維持できるものと思いますが?」
するとカモメさん、なにやら言い難そうに。
「いや、配信者ってさ、勝負師じゃなくって面白い配信を届ける仕事なんだよね。このまま圧勝だとお客さんが離れるというか。……それにさ、コラボは相手あってこそのものだから、少し誤字脱字軍にも見せ場を作りたいなって……」
なるほど、手を抜くのは失礼だけど、圧勝ばかりがすべてじゃない。
色々な事情があるということね。
「そういうことなら、一番盛り上がることに挑んでみませんか?」
「ほい?」
「ウチは半分の数で防具無し、その状態で敵と同じ陣形。同じ戦法を使う、まさに真っ向勝負!! どっちが本当に強いんだ選手権!」
「真っ向勝負……?」
「どっちが本当に強いんだ……?」
一番最初に反応したのは、やっぱりカモメさん。
「うぉおおぉっ!! そいつは熱いぜぇっ! みんな、それで良いよな!?」
「忖度するよな失礼がなきゃ、艦長は良いわよ」
「う〜〜ん、それはまたハードルが上がるなぁ……」
「ポイント差は、もう覆しようが無さそうだし。コラボ相手の見せ場も重要だよね♪」
「よーし決まりっ!! こっからが本当の勝負だぜーーっ!」
やる気満々なオーバーズに、私からもひと言。
「それでも敵は三人一組で攻めて来ます、こちらは四人一組あるいは集団戦法で対応しましょう!」
そしてマップで確認する、誤字脱字陣営。
すでに全員が死人部屋、そして復活。
敵陣本拠地前で全員整列を終えていた。
先頭は西洋剣術三先生、続いて一般プレイヤーと誤字脱字男性軍。
そして後方に控えるのは、誤字脱字女性軍。
こちらもネームドプレイヤーたちの防衛線が押し出され、リュウ先生たちも最前線に登場している。