一日目、終了
【星影きらら】
よし、死人部屋卒業!
外に出るとボクは素早くマップを開いて現状確認。
うん、マミさん部隊に挑んでいるメンバーは、残り三人。
これはもう、死人部屋確定だね。
じゃあ、三先生方は?
あ、マミさん部隊に急接近している。
慌てて部隊無線をオン、疑似マイクに叫ぶ。
「先生方、ストップ! ストーーップ!! いま突っかかっても良いことありません、ボクたちと合流するまで待っててくださーい!」
「なに? 最終防衛ラインは目の前なんだぞ!?」
「いいから止まって、できればバック! ボクたちが全員復活したら合流しましょう! その方が勝機があります!」
ホ、どうやら止まってくれたみたい。
だけど誤字脱字メンバーの中には、ボクの勝手な指示を快く思わない人も。
「どういうことですの、きららさん!! 指示命令はわたくしを通していただけませんこと!?」
橘明日香さんがその筆頭。
仕方ない、説明しようか。
「マップは見たかな、明日香さん?」
「こ、これから確認するところでしたわ!」
うん、頭の中からきれいさっぱり、マップは消えていたね?
でもそんなことは突っ込まず。
「実はね明日香さん、誤字脱字女子部も風前の灯……いま全滅したところ。それなら先生方と全軍が合流した方が、勝率が高いでしょ?」
「そそそ、そうですわね」
「それにね、三……二……一……」
銅鑼が鳴り響く。
三日間続くのイベントのうち、初日が終了。
「チッキショーーッ!! オーバーズと刃交えねぇで初日がおわっちまったよーーっ!!」
男子はいがなげく。
うん、そうだね。
お楽しみは明日に持ち越しだ。
だけぉ、お楽しみはこれからだよ。
「どうやって視聴者に言い訳すりゃいいんだよっ!!」
「いや剣崎センパイ、明日イチ立ち上がりの配置を確認してよ」
「を?」
そう、明日の立ち上がりは三先生方と配信者の合体が期待できるんだ。
このゲーム、死んですべてが終わりじゃない。
一般プレイヤーだって死んで生き返って、また敵に挑むことができる。
「とにかく兵を集めるんですよ、戦力を集中させて一斉攻撃です!!」
「そうですわね、みなさん明日一番の攻撃に戦力をそなえましょう」
ということで戦場からアウト。
その上で全員参加の反省会。
「大変に不本意でしたわ」
開口一番、明日香さんが不平を述べる。
「そうではありませんこと? わたくしどもは元来西洋剣士団、それがこのようなダサくて扱いにくい日本刀など与えられて、本来の実力など発揮できる訳がございませんわ!!」
彼女の意見に、納得の声がもれる。
「いかがかしら、総大将。明日からはわたくしどもの装備、本来の西洋武器に改めることを陸奥屋まほろば連合に打診しても、よろしいですわね!?」
みんなの兄さん、藤元恭介兄さんは、一度みんなの意向を確認した。
全員賛成のようだった。
……ボクひとりをのぞいて。
「でも明日香さん、それでアチラも『本来の得物を持たせてもらうぞ』と来たらどうするの?」
すると明日香さん、お嬢さまらしく髪をなびかせて一言。
「きららさん、それこそが視聴者さまの求めているものですわ」
あまりにも格好つけすぎなので、『あ、こりゃ明日香さん。なにも考えてないな?』と感じた。
「それでホントに良いの?」
すると恭介兄さんまで目を血走らせて言う。
「持ち味だよ、きらら。自分たちの持ち味を活かすんだ」
ボクは確信した。
いまこの瞬間から、誤字脱字軍は暴走超特急になったんだ。
もしかしたら……乗客はボクひとり……。
そして列車はどこまでも突き進んでゆく。
吹雪を溶かし凍てつく大地を狂走する機関車は、陸奥屋まほろば連合『ではこちらも本来の得物を持たせてもらうぞ』という要求を快諾してしまった。
この列車の車掌は、きっと目隠ししているに違いない。
そうでなければとんでもない前方不注意だろう。
ボクの不安をよそに、イベント二日目が開催される。
「おい、ありゃなんだ?」
誰かが陸奥屋まほろば連合の陣営を指差した。
十字架が建てられている。
そして誰か磔にされているのが見えた。
「……死んでるな」
「あぁ、身体中槍で串刺しだ……」
「イケメンなのに、可愛そう……」
「きっと組織の掟を破ったんだね……」
陸奥屋まほろば陣営、柔道着の少年が熱い涙を流していた。
「キョウ……お前の死は、無駄にはしねぇぜ……」
あぁ、磔にされてるのは、ボクを死人部屋におくってくれたキョウくんか。
なにか事情があるんだね、ナンマンダブナンマンダブ……。
だけど流れる涙は拭い去って、二日目の戦闘に挑まなければならない!!
それが生き残った者(?)の宿命だ!
開幕の銅鑼が鳴る。
突撃取材指示を出そうとした恭介兄さんの声が上ずった。
出てきたんだ、奴らが。
ボクたちを散々に苦しめてくれたネームド・プレイヤーたち。
武装は堂に入った和式武器、日本刀に薙刀に手槍。
そして防具はせいぜい革鎧程度、中にはそれすら着けていない者もいる。
ゾワリと音を立てて、背筋の産毛が総毛だった。
この先は危険だ。
一歩前へ出ることは一歩死地へ迫るに等しい。
そう感じたからこそ、恭介兄さんの声も上ずってしまったんだ。
「恭介お兄さま」
「お、おう。……ぜ、全軍っ突撃ーーっ!! 声を出せっ、敵に飲まれるなーーっ!」
狂おしく吠える前衛の男性陣、そして一般プレイヤーたち。
それはもう、狂っていなければ一歩だって前へは進めないとでも言いたげに、悲鳴のような叫びであった。
そして……。
「クッソーーッ!! 今度こそ殺してやるからなーーっ!」
パンツ一丁に鉄兜。
キッズ剣士も勇ましく駆けていった。
なぜにパンいち?
その答えは、彼の叫びにあった。
「ドラゴンの楯もユニコーンのヨロイも、修理するの高いんだぞーーっ!! おかげでゲーム内通貨が無くなったじゃねーかよーーっ!」
キッズ剣士改め、素寒貧キッズ剣士。
だけどキミは有り金はたいて、通常では獲得できない『一番星』を掴み取ってるんだよ?
ちっとも羨ましくないけど。
そして陸奥屋まほろば連合防衛軍へと迫る、一般プレイヤー込みの男性陣。
その目の前に、鬼の群れが立ちふさがった。