オーバーズ・アイドルまであと一歩
【星影きらら視点】
通れた通れた難関三つ。
すると最後の関門がコンニチハ♪
残った適格のネームドが勢揃い。
はてさて、どうしてくれようか?
「この防衛線がラストですわね?」
橘明日香さんが確認する。
「はい♪ 私たちを突破すれば、いよいよオーバーズさんとの対戦ですよ、鏡花参謀長のお友だちさん♪」
「あんなの友だちじゃないわよ!!」
「そーですよねー、片や財閥令嬢。左団扇のお嬢さま、片や身を粉に働く労働者。階級がまったく違いますー」
「うっさいわね!! シメるわよ!」
う〜ん……橘明日香さんのお友だちって、その出雲鏡花さんよりもこの『マミさん』の方が、相性良いんじゃないんだろうか?
「とにかくあの女には吠え面かかせてやるんだから! 覚悟なさいっ!!」
だからさー、とりあえず噛みついてみるっていうその頭の良くない方針から改めようよ。
敵は全員片手剣に、怪しいナイフ持ってるよ?
「いきますわよ、突撃ーーっ!!」
始まっちゃった、決して賢くない突撃が。
だけどある意味では正解かもしれない。
何事も失敗無く、スムーズに事が運ばないと評価されない現代で、トライ&エラーの精神は重視されるべきかも。
特にボクたち配信者はそう。
無駄に思える行動でも、一度はやってみなくっちゃ。
失敗してもやり直し、それがボクたちの良いところじゃない?
だったらボクも行ってみようか。
視聴者さんたちはボクたちの『トライ&エラー』を見たいんだから。
見たいんだから、なんだけど……。
「あーーっ!! や、やられたーーっ!」
「うわっ、ここでもワンショットワンキルかよっ!?」
「こいつらどこまで強いんだよ!!」
「左翼へ、左翼へ!! こっちの連中はワンショットキルできないみたいだぞ!」
「兵力左翼へ!! ここを突破口とする!」
「よーし、行くぞーーっ!! あーーっ! は、背後からやられたーーっ!」
「衛生兵、衛生兵!!」
響き渡る断末魔、そして悲痛な叫び。
かすかな知恵を用いて挑めども、悪魔はより狡猾な罠を敷いて民をたぶらかす。
その罠は甘美にして肉感的。
汚れなき民に抗う術はない。
つまり、バカほど罠にかかりやすい。
かかりやすいとは言うものの、大きな声で左を攻めろとか叫んだら、弱い部分に一斉に飛びかかったら、ネームドたちが後ろから襲いかかってくるに決まってんじゃん……。
汚れなき民よ、邪まなき民よ、安らかに眠るがよい。
……なんて言うと思う?
とっとと復帰して、ボクたちの死人部屋送りを待ってなよ。
「ヤッホーーッ!! キミは僕のエモノだーーっ!」
……って、ヤシロくん。
おっぱいなマミさんを狙わないの。
ほら、柔道少年が出てきたじゃないか。
ヤシロくんの一撃を奇っ怪なナイフで受け止めた柔道くん。
くるりと背中を向けてナイフを振り下ろすだけで、ヤシロくんを投げ飛ばしちゃった。
いや、脳天から地面に突き刺したってのが正解かな?
頭が地面に突き刺さったヤシロくん。
ピンと伸ばした脚をピックンピックンと痙攣させて、撤退。
「三人編隊、三人編隊だっ!! 忘れるなーーっ!」
残り少ない男性陣、最寄りのメンバーと隊を組んで突撃を再開。
だけど、数ではこちらが勝っているのに、それでも全然優勢がとれない。
「一体なにが起こってますの!?」
さすがに明日香さんも焦りの顔。
僕も人垣を透かして見た。
やっぱりあのナイフ、峰の部分が歪なデコボコになったあのナイフが原因だった。
もう、片手剣なんて必要とされていない。
あのナイフの峰で誤字脱字軍の剣を絡め取り、投げ技を食らっての一撃必殺を奪われていたんだ。
それも斬り技ならワンショットワンキル、だけど投げた相手を他の誤字脱字にぶつけて、ワンショットツーキルにしている。
「参ったねぇ、こいつぁ敵わないよ。あんな戦法あり?」
通常なら『ナシ』だよ、マリ姐ぇ。
だけどね……。
斬り結ぶ 地獄の太刀をかいくぐり 斬らずに投げる変態剣士
な陸奥屋まほろば連合のネームドなら、有りなんだ。
そして男性陣と一般プレイヤーたちは、ことごとくその投げ技の餌食となる。
どこまで強いんだろう、この連中。
しかしまたもや……。
またかと思うよね、みんな。
うん、そうなんだ……ゴメンね……。
「フザケんなよクソがーーっ!! 死ねよこらっ!」
フルプレートキッズが、勇ましく適格の防衛線に突っ込んで行った。
そして投げ技に徹していたはずのネームドたちは、何故かキッズにに対してだけは丁寧な仕事でパンツ一丁に剥き上げてしまうんだ。
そして恒例の叫び。
「アーーッ、俺のドラゴーーンっ!!」
そして。
「ユニコーンの鎧がーーっ!!」
許して欲しい、彼は今回の夏至イベントできっと一番星になってるはずだ。
そしてボクのコメント欄も。
「またやられたな」
「ナイスやられっぷり!」
「こいつは今夜のストリップ・キングだぜ」
などと大いににぎわっている。
もしも金属的な足音が聞こえたら、誤字脱字軍のみんな、振り返ってごらん。
夏至イベント最高のスーパースターが、そこにいるはずさ。
パンいちキング、涙の撤退……。
あちらのフルバスト・クイーン『マミさん』に突っかかるも、柔道部員に囲まれての惨殺だった。
そしてこちらも恒例行事。
勝ち誇るように訊くマミさん。
「さて、男性陣は壊滅しましたがー、第四防衛線の実力を試して行きますかー?」
「当然でしょ、聞くまでもないわこのスットコドッコイ!! 誤字脱字軍の実力、とっくりおがませてあげますことよ!!」
だからさぁ……いや、もう何も言うまい……。
「きらら、アンタなにしてんのよ?」
「撤退準備だよ。このパターンは死人部屋直行が決定事項だからね」
「おいおい、弱気になるなよ」
「でもこの展開で、勝てた試しがあったっけ?」
「……私も撤退準備するわ」
「あーあー、男性陣聞こえますか? 女子部の突撃が決まったから、もう少し待っててね。すぐ死人部屋へ落ちるから」
で、ボクにかかってきたのはイケメンの剣士くん。
なんだか凄い技を使ってのワンショットワンキル。
一撃必殺でボクを送ってくれた。
ド素人相手に、凄い技使うなぁ。
それだけ陸奥屋まほろば連合も本気なんだってのはわかるけどさ。