西洋剣術先生たちの腕前
【シルバー・コンドル視点】
さすが災害先生だ、しかもガチガチの古流。
まさか令和の御世に『斬ることを前提』にした剣術が、生き残っているとはね。
金メダルにもトロフィーにも縁がない、抜くときは斬るとき。
そんな古流が根を張って、この日本に『生きている』とは……。
「おう、コンドルの。これからどうする?」
「どうするったってよ、まだ夏至イベントは初日の序盤。もう少し楽しもうじゃないの」
「楽しむのも結構だがよ、どうやら俺たちも少しは人気者らしいぞ?」
スネークの言葉に目をやる。
すでに死人部屋から復活、敵の最前線部隊の前だ。
その向こうでは、誤字脱字軍を筆頭とした仮想弟子たちが奮戦している。
そして俺たちの目の前には……。
「お待ちしておりました、先生方。ウチの先生方から、『せっかくなので一手御教授を賜わるよう』と達せられましたので……」
先程は素通りさせてくれた、敵の最前線部隊。
城壁対策とか戦車隊と呼びたくなるような、大男隊である。
「買われたもんだね、俺たち。どうする、ライオンにコンドルの」
スネークがニヤリと笑って片手剣を構える。
もうすでに、やる気満々じゃん。
「じゃあコンドルの、俺たちは二番手を決めとこうや」
俺たちは後退る。
スネークのために場を取ってやった。
敵からは女性の両手剣使いが出てきた。
大柄で筋肉質で、男どもに負けていない力量のようだ。
「気をつけろよ、ヤルぜ」と声をかける。
「あぁ、コイツだけ大剣がひと振りだけだもんな」
スネークの目に油断は無い。
そして女は大剣を脇構えに取った。
ヤロウ、様になってるじゃねぇかよ。
スネークの日本刀は鞘の内にあって静か。
そのまま両者間をジリジリと詰める。
さあ……来るぜ……。
間合い。
躊躇なく女は大剣をすくい上げた。
下から上への一刀両断の太刀筋だ。
しかしスネークも読んでいる、流水の動き。
低くへ流れること水の如し。
つまり淀むことなく、流れるように滑らかに、必殺の太刀を躱した。
そこから一閃の抜刀、伸び切ったヒジへと斬りつける。
浅い、女の太刀はまだ健在だ。
しかしさらに流水の動き。
ヌルリと踏み込み面を絶ち割った。
ワンショットワンキル。
急所への正確な一撃がこれを可能にする。
筋肉女、撤退。死人部屋へ。
ふう、危ないところだったぜと、スネークは生還する。
そのように語るのも道理、可能の太刀はゴウと風鳴りを立てて、その音は俺たちの耳に届いたほどだった。
そして観戦していた大男どもから拍手が起こる。
「さすが西洋剣術先生、勉強させていただきました。されど豪の者はあれのみに非ず。どうぞ若輩どもの技ではありますが、こころばかりの馳走をさせていただきたい」
憎いぜ、その余裕の微笑み。
その言葉の通りに、今度は見るからに相撲取りという男が、大剣諸手に進み出てきた。
……コイツも手練れかよ。
内心舌打ちをする。
ただじゃねぇな、陸奥屋まほろば連合。
いや、それはすでに『災害先生』のお点前で十分に分かりきっている。
先生型から比べれば格落ちであろうとも、あの鬼神が鍛えた連中だ。
ぬるい手の者であるはずがない。
スネーク、力士の双剣を躱して躱してチクチクと攻めを入れる。
いや面倒、と大剣を振りかぶったところに必殺のひと突き。
なんとか豪の者を退けた。
「さすがスネーク先生、我々の急所『小回りが効かぬ』を適格に突いてきますな」
クソッタレ、まだ微笑んでやがる。
「なにしろ我々は九人、先生方おひとりにつき三人はお相手いただかなければ」
となれば、スネーク先生はあとひとり相手にしなければならない。
いや、問題はそこではない。
もちろん俺が三人を相手にすることも問題ではない。
問題は、ライオン先生である。
スネークは技巧派、この力士軍団とは相性が良い。
この俺もそれなりには技術を見せることはできよう。
しかしライオンは違う。
馬力と勢いが信条の流儀だ。
若い相撲取り相手に、同じ土俵に上がるのは得策ではない。
しかも敵は双剣である。
右から左から激しく攻めてくるに違いない。
いや、実は二刀というものは防御にも強い。
かの剣豪宮本武蔵の十字受けなどは、城壁よりも硬かったという。
スネークが紙一重の技で勝利し、ライオンが前に出る。
得物は日本刀。
敵は右を振り
大剣を双剣として使っている、信じられない怪力だ。
それに対して……。
ライオン先生、鬼の形相。いや獅子の形相である。
「では……」
相撲取りが出た。
相撲の当たりそのまま、初速からMAXの破壊力だ。
怒涛のように右を振り下ろしてきた。
そのひと太刀を受け止め……ない。
足で捌いて左の二之が届かぬ場所から、日本刀の重さと斬れ味を活かした一刀両断。
ワンショットワンキルだ。
「よ、コンドルの。ライオンの奴、いつの間にあんな器用なマネできるようになったんだ?」
「元から、じゃね?」
「有りかよ、ンなの」
実は、有りなのだ。
柔軟なスネークにも、豪のひと太刀はある。
逆に豪の剣であっても精巧な技術は存在しているものだ。
その技術が冴えた。
「さ、お次……」
ライオンは決して猛ってはいない。
それでも気合いは充実している。
声を発さぬ気合い、つまり含み気合いというものだった。
ならば、と出てきたのは筋肉質の男。
あんこ型の男たちの中で、この男だけはソップ型と言えるか。
ソップ型と言っても痩せ型ではない、筋肉の鎧をまとっている。
この男が双剣の切っ先を交えた、十字に構えを取った。
そして、ジワリと出てくる。
ライオンは火の位、大上段に堂々と構えた。
両者緊張の接近。
分かる、双剣の若者もミリ単位で間合いを計っているのが。
ミリの間合いなど、生き死にを賭けた稽古で身につけるもの。
よくこのような稽古をつけたものだと、『災害先生』たちに感心してしまう。
そして、決戦の間合い。
ライオンの一刀、若者は十字で上段に受け止める。
しかしライオン、即座に変化。
脇構えのように後方へ切っ先を引いて、下から斬り上げた。
勝負度胸が無くては不可能な太刀である。
俺も含めて三人、この調子でどうにかネームドプレイヤーである力士隊を突破できた。