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開戦近し

【星影きらら視点】


配信、配信、スタジオ収録、そしてまた提出物と配信。

多忙なスケジュールをこなす合間に、練習場での訓練。

日本刀という武器、物打ちを走らせて斬る武器。

そのコツは西洋剣術の先生が教えてくれた。



「バドミントンのラケットをチョンと振るよね? あんな感覚を左手で、ピッとキメるんだ。するとインパクトの瞬間に物打ちが走るよ」



それじゃあ斬ってる感じがしない、と誰かが言った。



「そう、日本人の悪いクセだね、一刀両断でないと気がすまない。だけど西洋剣術でもやってる通り、実戦で一刀両断なんてそうそうできることじゃないんだよ」



幕末の戦闘、刀剣を用いた戦いを例に上げて教えてくれる。



「どれだけ稽古を積んでも一刀両断なんていうのは、不意打ちくらいでしかできないものさ。切っ先を向けあった丁々発止での一刀両断なんて絵空事。剣を向けあったら最後、どちらも動けなくなるさ」



そんな睨み合いを打破するにはどうするか?



「ケダモノじみた気合いと根性と精神力を身につけるか、リズムに乗ってワンツー、ワンツー。軽く斬り刻んで相手を弱らせるかの二択だね」



すごく解りやすい。

バドミントン剣術で、私たちもポイントを稼ぎやすくなった。

最後のビッグショットには手を添えた一撃と、カカシを斬り倒したひと振りがある。

さらには……。



「せっかくバドミントン剣術も出来るようになったんだ、右手一本でチョコチョコ斬るのも面白いかもね」



いざというときには腕を伸ばして、チョイチョイと敵の防具を傷つける。

そんな即物的というか、斬れりゃ何でも良いというような、身も蓋もない技も教わる。



「精神性も何もないというなら、言ってくれ。だけど徳川二六〇年の泰平とは違い、ヨーロッパという地域は常に戦争してきたんだ。西洋剣術には、そうしたぶっちゃけた強さがあるんだよ」



先生が例に挙げる、薩摩示現流。

剣を先に当てれば勝ち、を究極まで磨き上げる剣術。

たしかにその通り、先に斬ってしまえばこちらの勝ち。


本当に身も蓋もない技だ。

その上、威力まで抜群ときているのだから始末に負えない。


さらに例として挙げる極真カラテ。

筋肉をモリモリと積み重ねて、殴って蹴飛ばしての練習を繰り返す。

弱い訳がない。


さらには総合格闘技の走り、グレーシー柔術。

打撃格闘家のヒザ関節を蹴飛ばして、近寄れないようにしてからの弾丸タックル。

パンチもキックも使えない寝技で、対戦相手を仕留めるぶっちゃけ振り。


強さの歴史の中では、こうした身も蓋もなさというものが革命をおこしてきた。

戦いに勝つということは素晴らしい。

そこに至るまでの努力と克己の日々、日本中の誰もが勝利そのものよりも努力の物語ストーリーを称賛する。


だが欧米ではどうだろう?

先生が語るには、勝てば良し、否、勝てば良いの精神でしかない。

勝利を求めるからこそ、柔道はJUDOになり空手はカラテからKARATEになったと言う。


そんな開け透けな人種が戦争のために生み出した剣術なのだから、騎士道精神だのなんだのは後付けのオマケでしかない。

仁義礼智信に基づき泰平の暇人により熟成された武士道に、及ぶべくもないだなんて、西洋剣術を貶めたいんだか武士道を貶めたいんだか解らないことを演説する。



「とりあえず、勝ちましょう!」



先生は演説を、そのようにまとめる。



「勝たなければ、征かなければ、みなさんに栄光は無いんです!」



勝たなければならない。

勝たなければ評価されない。

その感覚がボクには分からない。


これってボクが不出来なのか、ニブチンなのか。

答えは出そうにない。



「そうですわみなさん、まずは目標に向かって一致団結! そこに価値を見出しましょう!」



あ、明日香さん。

それは分かりやすいね。



「その上でオーバーズ・アイドルをボコして、お客さまの溜飲を下げてさしあげますのよ!」



あの、明日香さん?

ウチのファンとオーバーズ・アイドルのファンが被ってるような気がするんだけど、どうしよっか?

だけどそんな疑問を挟む余地もないほど、情熱の歯車は回転に拍車をかけ始めて、それを止めることは誰にもできそうになかったんだ。


情熱は集中力を生み、同胞の絆はときに狂気を生み出す。

ボクたちは熱心に練習に励み、相棒バディに負けるか、こんなところで弱音を吐くことはできないとばかり、練習を積み重ねた。


オーバーズの十八番オハコである二人一組を打ち破るために、三人一組の練習を積み重ねる。

メンバーたち相手の対二人一組戦においては、ほぼ秒でポイントを獲得できるまでになった。

これはオーバーズと直接対決する女子部も、護衛役の男子部も同じである。


死角はどこにあるか?

これ以上をどのように求める?

そう言えるくらいには練習に練習を重ねた。


先制ポイントは確実。

そこからさらなるビッグ・ポイントまで期待できるほどになった。



「イケるんじゃね、オレたち!」

「ってゆーか、どうやって俺らを止めるよ!?」



男の子たちは快気炎を上げる。



「その調子ですわ、みなさま方! オーバーズ・アイドル、何するものぞを顕現しますわよ!!」



明日香さんにも勢いがある。

だけど、どうしてだろう?

来たる夏至イベント、ボクの心は晴れなかった。



「どうしたの、きららちん? あんまノリノリじゃないみたいだけど」

「あ、うん……なんとなくね……このノリと勢いは、本物なのかなって……」

「お〜〜いつもの『憂いのきららちん』だね?」

「フフフッ、まあそんなところさ」



いつだってそう、ボクには取り越し苦労というのが多い。

備えあれば憂いなしとは言うけど、ボクの場合は備えていても憂いてるって感じ。

無駄な気苦労なんてする必要は無いんだけど、どうしても渡る橋は叩いておきたいタイプなんだ。


本当に勝てるかな? オーバーズに……。

隊長でも責任者でもないのに、いつもそんなことばかり考えていた。


日本刀。


これをスラリと抜いて、「剣は目的が単純だから美しい」といった小説があったっけ。

ボクは醜いな。

ゴチャゴチャといろんなことばかり考えて、ちっとも純粋じゃない。

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