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陸奥屋調査室

みなさまただいま帰りました、リュウです。

私の視点です。

本日は王国の刃にインしたところです。


我ら『嗚呼!!花のトヨム小隊』の待機所、あるいは拠点にやってまいりました。

するとなにやらカエデさんがモニターとにらめっこ、仮想空間の仮想キーボードをカタカタと打って情報処理の真っ最中。

なにを打ってるのかとたずねると、彼女は仮想メガネを額の上に引っ掛けて振り向いた。



「はい、敵軍の推しを整理してました」

「敵軍の推し?」

「はい、シルバー・コンドル軍は今現在も人数を増やしていて、今では三五〇人を越えてますので、その増員メンバーが『誤字脱字』ファンだと踏んだんです」



以前は『誤字脱字』メンバーを加えても二五〇人だと思ったが、随分と増えたものだ。

ウチはアイドルさんを合わせても一八〇人だというのに、倍近い人数ではないか。



「しかも増員メンバーのほとんどが男性プレイヤーということで、そうなると推しは女性配信者なんだろうなぁって……」

「あまり人数差があるとイベントが白けるんじゃないのかな?」


「まあ、その辺りはウチのトップがアレですから……」

「あぁ、鬼将軍が『シルバー・コンドル軍は、いくら増員したところで構わないぞ!』とか言い出したんだろ?」

「公式発表でした……」



あはは……と力なくカエデさんは苦笑い。



「まあ、それくらい増えてくれなくては私や士郎さんも暇を持て余してしまうからね。ネームドの連中も楽しくなかろう」

「そうですね、力士隊+ダイスケさん、セキトリさんの処刑人部隊。さらにはシャルローネにトヨム小隊長、マミたちが率いる護衛部隊。多少敵の人数が増えたところで、この四隊で血風惨河の景色は間違い無いでしょう」


「それで、何か分かったことはあるかい?」

「はい、私と忍者が調査したところ、一番人気が今……」



ターンと、リターンキーを叩く。



「あれ?」



モニターを確認したカエデさんは額のメガネをかけ直し、もう一度モニターに食い入る。



「いや、ちゃんと出てるじゃないか、一番人気の配信者が」

「はい、ですがその……」



カエデさんは困惑している。

なにがあったのかな?



「……一番人気、ヤシロ。二番人気、緑アキ」

「やっぱり女の子がツートップの人気みたいだね?」

「……いえ、リュウ先生。この二人は男性配信者なんです」


「……はい?」

「しかも見た目が女の子のように可愛らしいという、いわゆる『男の娘』なんです……」



つまり、ついてる生えている、あるいはぶら下がっていると?

やるな、誤字脱字ファン。

なかなか高尚な趣味人がお揃いのようだ。



「逆にこの結果は、要注意かもしれないね」

「と、言いますと?」

「こうした手合いは重度の趣味人、いわゆるオタクが多いのではないかな。だとすればゲームなんぞはお手の物、中にはマニアックな武術を嗜んでいる者もいるかもしれない」

「オタクに何か出来るとは思いませんが……」



そう言うカエデさんのツムジを眺めてしまった。

いや、別に私は「できるオタクが何を言うかな?」とか言いたい訳ではない。

そして私はひとつの疑問を抱いた。



「ところでカエデさん、さっき『私と忍者で調査した』とか言ってたけど、どうやって調査したんだい?」

「え、普通に訊いて回ったんですけど」

「普通にって、どこで?」

「いやだなぁリュウ先生、あちらもウチと同じく講習会をオープンにしてますから、普通に受講して普通に訊いて回ったんですよ、講習生に」



おいおい、そんなことするかよという思いと、すぐに聞き出せる君が恐ろしいよという思いが交差した。

だけど彼女もまた、ミチノック・レディー。もしくはミス・ミチノック。

それくらいのことはするだろう。


というか気づいてるかい、カエデさん。

君は一般人だというのに、専門職の忍者と同じだけの仕事をしているんだよ?

うん、やっぱりきみの将来は、ミチノック秘書課へ一直線だ。


「ですがリュウ先生、素人が専門の指導員にもつかず日本刀を使えるようになるんでしょうか?」

「もともとが斬るための道具だからね、やってやれないことはない。だけど専門家について指導を受ける方が、よほど効率が良いし確実だね。ところでどうしてそんなこと訊くんだい?」

「はあ、私も西洋剣術は嗜んでいますけど、オタク諸兄はなんというかこう……あまり身体を動かさないというか、稽古に熱心ではないというか……」



なんとなく解る、なまじゲームに慣れているので武器や防具を数値でしか見ていないのだろう。

というか、あちらの一般参加者は西洋武器を使うのか。

そりゃそうだろう、日本刀縛りがあるのは配信者さんたちなのだから。

しかし、カエデさんの奇妙な憂いはまだ続く。



「初めて触れる西洋剣術に、あーだこーだ理屈を語るのは良いとして。寄ると触るとやれ『あの娘を推してんだよね』とか、『〇〇ちゃんプルプルしたい♡』とか」



その〇〇ちゃんに近い場所で、プルプルしたい♡とかホザくのか、彼らは。

っつーかプルプルしたい♡ってなんだよ!? 繁殖したいとか言わないだけマシなのか!?

いや、本人に聞こえなければ、まず良しとしようか。



「ま、まあカエデさんや、野郎の群れなんぞそんなもんだと笑ってくれないかな?」

「ですがリュウ先生、ウチの男性陣は裏でどうかは知らないものの、稽古だけは熱心にやってますよ?」

「そういう、すこし頭のネジが飛んだような連中しか集まってないんだ。温度差はあるさ」



カエデさんも納得いかない顔をしていたが、それでも鉾を納めてくれた。



「それにしてもリュウ先生、ウチは兵力増強とか増員はしないんですね?」

「大将の方針なんだろうね。やる気のある奴はすでに加盟している、やる気の無い奴は足手まとい。それなら少数精鋭を選んでいるんだろう」

「そうですね、ウチは四先生方だけですでにオーバー・キルなレベルですから」


「その上ネームド・プレイヤーもゴロゴロしてるし、二人一組戦法も充実している」

「ある程度のハンデが無いと、誰も相手をしてくれません、か。そのうち独自のイベント『ミチノック・チャレンジ!!』とか発生しそうで怖いですよね」



カエデさん、奇妙なはなんてこと言い出すんだ。

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