表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

593/724

星影きららの憂鬱

【星影きらら視点】


何故この男は、ボクを見詰めているんだろう? これはたまたま? それとも半年も後のボクたちが、アーカイブを確認することを知っていて?

どうしてもボクには、後者にしか思えてならないんだ。

こんな画角の片隅みたいなところから、はるか未来の視聴者を睨んでいる男。



「明日香さん、この男は……?」

「えぇ、この方がアマチュア最強チーム『陸奥屋まほろば連合』の頭目、鬼将軍さんですわ。素性は割れていまして、総合企業ミチノックの代表で総裁。財界の鬼将軍などとも呼ばれてますのよ?」

「ああ、そうか……そうなんだね、わかったよ……」



ボクはこの男を倒すんだね?

いや、倒さなくちゃならないんだ。

この男を野放しにしちゃいけない、この狂気をふりまかせてはいけないんだ。


例えゲームの仮想空間であっても。


この男は毒だ。

人類を狂気へと、死地へと押し進める猛毒なんだ。

事実、奴の毒はオーバーズ・アイドルを取り込み、誤字脱字を飲み込んで世界中を惹きつけている。


ソナタ姉さんだって、『新しいゲームで配信しよっか♪』程度の軽い気持ちだったはず。

それがどうだ、モニターの中の天琴ソナタは身体に似合わぬ兇器を振り回し、敵を求めて戦場を駆け回っているじゃないか。

鬼将軍、この男は危険だ。


本当なら他人の目を見て話すことさえできないような、そんな人間さえも戦場へと陥れる。

人類を狂わせる猛毒なんだ。


年末イベント、陸奥屋まほろば連合対オーバーズ・アイドル。

参加者の顔をひとつひとつ確かめてみた。

嫌嫌プレイしている顔など、ひとつも無い。一般人も、アイドルも。


みんな嬉々として、この殺伐とした空間を楽しんでいる。

誰も彼もが、この戦闘を喜んでいるんだ。

……毒に狂わされて。


可愛らしい女の子たちがいる、Vtuberだ。

ごく普通のプレイヤーがいる、一般参加者だ。

およそ武器も戦争も似合わない、戦いとは縁のない人々のはず。


そんな人たちを狂わせているのが、この男なんだ。



「この男を……殺そう……」

「えぇ、彼を倒さずして勝利はありませんわ」

「これ以上、好きにさせちゃいけない……」



ボクの心は決まった。

ストップ・ザ・鬼将軍。

この男を止めるんだ。



「参考までに、鬼将軍が討ち取られた動画も視聴します?」

「え、負けてるの!? この男」

「王国の刃公式ルールでは勝ちですが、双方取り決めのルールでは一敗してますのよ?」

「なんだ、そんなに大した人間じゃないのか」



ボクも油断した。

この悪魔のような男も、苦杯を舐めているんだと。



甘かった。



制服姿に革鎧の少女たちが、突撃を繰り返す。

陸奥屋まほろば連合のネームドプレイヤー、あるいは達人とか災害とか呼ばれる先生方に阻まれ、押し返され、あるいはキルの憂き目に逢おうとも。

それでも剣を捨てることなく、得物を杖にしてでも立ち上がる。



「おかしいよ!」

「おかしくはありませんわ、きららさん。彼女たちは母校の廃校を賭けて、ミチノックに挑んでますの」

「だからって、こんな!!」


「始まりは単純、一芸に秀でていれば廃校は取り消されるのではという、生徒たちの可愛らしい考えから」

「……………………」

「それを聞きつけた『悪魔』が囁きましたのよ。我々を倒せば、誉れとなろうって……」


「……………………」

「結果、一発大逆転で勝利条件を満たし、廃校処分は免れたようですわね」

「違うんだ、そうじゃない……おかしいのは、普通の女の子たちが狂ったように、武器を手にして戦っていることなんだ!!」


「それが戦争ゲームというものですわ、きららさん」



駄目だ、ボクの持つ危機感が明日香さんに通じてない。

こんなところで言い負かされていちゃ、駄目なんだ。



「オーバーズの練習風景なんていう動画はありますか?」



藁にもすがるような思いで訊いてみた。

ある、と明日香さんは答える。

その練習風景というものが、ボクの思う通りなら、あるいは……。


素振り、素振り、素振り。

日本刀をかついでいた頃のオーバーズ・アイドルたちは、ひたむきに熱心に、ただ刀を振っていた。

そして試斬、カカシに向かって駆けていき、構えた太刀を振り下ろす。


殺陣のような華やかさは無い。

ただただ泥臭く、血の臭いが入り混じった練習。

これには誤字脱字メンバーたちも息を呑んだ。



「俺たち、こんなのと戦うのか……?」

「いいえ、今回の陸奥屋まほろば連合は、西洋武器を用いますので。ここまでの血生臭さは無いはずですわ」

「でもさ明日香ちゃん、なんでオーバーさんたちはここまで練習できるの?」



先輩の言葉に、すかさずボクは立ち上がる。



「すべてはこの男、鬼将軍がみんなを狂わせているからです!」

「まさかそんな……」

「ひとりの人間がみんなを狂わせる? それは無いだろ」



みんなは否定するけれど、結果はこの通り。

世界規模の配信者団体、『誤字脱字』と『オーバー』という二大巨頭が『王国の刃』というステージに集められ、血みどろの戦いへと引きずり込まれてしまっている。

誰も彼もが自らの意思と勘違いして、恐ろしい殺人兵器を担ぎ、人を殺すことのできる技を身につけて、戦場と敵を求めているのだ。



「わかるかな、この異常事態が。普段はあんなゲームこんなゲームで誰も傷つかない配信をしてたのに、仮想空間とはいえいつの間にか戦争に加担させられて、殺し合いの真似事をさせられてるんだ」

「だからなに?」



当たり前な疑問をぶつけてくるのは、男の娘Vtuberのヤシロくん。



「僕たちはリスナーさんのため、日々工夫を凝らして配信をしている。誰の意思でも彼の意思でも、リスナーさんのためならボクは戦争でも殺し合いでもするよ」



ヤシロくんには過去がある。

自分を大切にしないだけの根拠が、幼少期にトラウマとして刻み込まれている。

だから、怖いものが無い。


だけどここは、みんなの兄さん今回は大将の藤元恭介さんがたしなめてくれた。

「口が過ぎるよ、ヤシロくん。簡単に戦死志願なんて出さないでくれ、俺たちには君が必要なんだから」と。



「必要? それは駒としてかな?」



ヤシロくん、本当に心が荒んでいる。

だけどここでもう一人、オフで遊んだりコラボをこなしている虎一郎さんが口を開く。



「馬っ鹿野郎ヤシロ、友達ダチとか仲間って意味に決まってんだろ」



その一言で、ヤシロくんもどうにか落ち着いてくれた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ