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群衆劇と書いてカオスと読む part2

『帰ってきたカエデさん』


 たとえ豪傑格であろうと、リュウ先生の勢いを止めることはできない。バチバチと敵軍の防具をひと通り剥いだら、大抵の敵は実力差に舌を巻いて退いてしまう。


 退かない敵は手足を奪い、そのままキルへと繋げてしまう。はっきり言ってリュウ先生の前では、常に派手な演出が連続フラッシュして止まらない。

 あ、どうも。囮役のカエデです。敵の新兵格、熟練格がこのA陣地に到着するまでは、リュウ先生の護衛役……のつもりです。



 というか、メチャメチャ強いリュウ先生に恐れをなした敵が、私に矛先を変えるということもあり、護衛役というより囮役と言った方が正しいかもしれません。……だれ? 私のこと足引っ張りとか言ったの。


 とりあえず西軍の豪傑格、みなさんブッパ・ツールでも入れてらっしゃるのか、とにかく必殺技のオンパレード。出す技がすべて必殺技という、なかなかゴージャスなおもてなしを受けています。


 ただ、この必殺技というのは足を止めて出すか、パターン通りの動きの中で繰り出すか。それしかできない哀れなプログラムでしかないので、カウンターが取りやすかったり、横に回れば隙だらけという、『トヨム小隊』クラスの腕前からすれば美味しいカモでしかありません。



 まして眼の前で『ブッパ狩り』のお手本を示してくれる、リュウ先生が存在するので、とりあえずステップ。間合いを外してステップ、そこに必殺技の準備をしている敵がいたら、プスリと突いてキルを取る、を繰り返しています。だけど私は『ヒットマン・ポジション』ではありません。あくまでも囮役。チラチラとマップを盗み見して、敵の大軍が接触するときを待っています。





 ん? なにも敵の大軍が接触するまで待っている必要は無いか……。そうね、こちらへ駆けてくる新兵熟練の群れを、そのまま死地へとご案内っていうのが正しいかな?

 ということで、片手剣と楯を構えさせてもらいましょう。カエデちゃんの『シャルローネに比べたらかなり真面目なオリジナル必殺技』である雲龍剣! いざ、参る!



 ビシバシブシッ!



 肉の爆ぜる音が響き、突破口が完成した。つまり、敵はひとコマで全滅しました。いや〜……必殺技って便利だなぁ……。敵の群れを軽く通過スルー。新手の新兵熟練たちから見えやすい場所にスックと立つ。そして極力目立つように、『さあどうだ!』とポーズを決める。



 片手剣を逆手に持った右拳は天に高々と突き上げて、楯を握った左はガッツポーズ。そう、ご存知ウルト〇マン登場のポーズだ。私の脳内で『帰ってきたウルト〇マン』の、登場BGMが再生される。ターーッタラッタッター♪ というあれだ。


 でも、敵の群れはこちらを見ていない。ならば、帰ってきたウルト〇マン、活躍のテーマだ!「ヘアッ!」と駆け出し、群れの横っ腹に攻撃を加える。




 素早く距離をとるバックステップ。それから、「カマン……カマン!」と手招きふたつ。

 敵軍、挑発に乗ったーーっ! ワンダバソングを脳内再生しながら、本日二回目のカエデちゃんダッシュ!


 マップで状況を確認してみると、またまた敵は私ひとりを追いかけて、大軍を形成している。……う〜〜ん、華やかなヒロインっていうのは、やっぱり人を惹きつけちゃうんだなぁ。それじゃあ前回同様、この群れは東軍陣地でヒマを持て余している、上位グループに相手してもらいましょう♪


 って、私の行く手を阻むように、剣を構える味方さん!? 貴方は誰!?



「俺の名はジョージ・ワンレッツ! 少女をいたぶる卑怯者どもめ、俺が相手だ……アーーッ!」



 ……味方さん、敵の群れに飲み込まれちゃったみたい。革ジャンに白いジーンズっていう、いわゆる鎧無しの装備。私を助けてくれようとしたのは解るけど、ちょっと無茶が過ぎるなぁ……。とりあえず心の中でだけ、手を合わせておきましょう。……南無南無。





『青春の名誉とは、決して挫けない心である』


 俺の名はジョージ・ワンレッツ! 正義に燃える東軍の戦士だ! 今日はみんなが待ちにまったイベントの日。こんな晴れの舞台で不正ツールを使う連中を、俺は許さない! 開幕の銅鑼と同時に、俺は仲間たちと六人で正義のために駆け出した!しかし……。



「あぁっ、ジョージ!」

「隊長ーーっ! ギャ〇ン隊長ーーっ!」



 恐ろしいのは敵味方入り乱れる、物量の嵐。俺たちの乗った『ジャスティス丸』は、あっけなく波に飲まれ、乗組員は散り散りバラバラ。チーム無線で連絡をとりあってはいたが、それぞれが孤軍奮闘という憂き目に遭ってしまった。離れ離れになってしまった仲間たちにそれでも檄を飛ばす。



「イ・ガーディン! ムラーダ! ハギワラ! ユリー! モニカ! みんな……自分の正義を貫けーーっ!」



 そうだ、俺たちのチームは不正者許すまじ、という崇高な旗印のもとに集結した仲間たちなのだ。例え離れ離れになろうとも、自分たちの信念は貫き通す。それはイベント前にからの約束だった。当然リーダーの俺は、率先垂範。仲間たちに自慢のリーダーでなくてはならない!

 さあ、行くぜ!


 まずはマップを確認だ。味方は敵のA陣地に集結している。よし、あそこが激戦区だな……。ジョージ・ワンレッツ、ただいま参上! 見れば鎧兜すら着けていないサムライ一人に、大勢の敵が群がってるじゃないか! この、卑怯者どもめ! このジョージ・ワンレッツが成敗してくれ……あーーっ!



 おのれ、不覚にもキルを献上してしまった……。しかし正義は挫けない! 心新たに出撃だ!




 本丸から出撃して、まずはマップを確認。今度は敵が東軍のB陣地に迫っている。よし、次の標的はここ、明日という名のB陣地へ光のダッシュだ! うん、味方の新兵格、熟練格がけちらされている。よほどの不正者がいるようだな。



 しかし味方を蹴散らしてくれていたのは、銀髪に朱袴の少女剣士。そしてアマレススタイルのスパイク付きグラップラー少女。……いや、女の子といえども、どんな不正ツールを入れているかわからない。俺は前に出て名乗りを上げた。



「俺の名はジョージ・ワンレッツ! 不正を憎む正義の戦士だ。アーーッ!」



 何をされたかすら分からない。確かグラップラーに投げられてライフは風前の灯。そこに剣士がトドメを刺してくれたような……。いや、男なら過去にクヨクヨするな。常に前を向いて闘うのが男というものだ!

本丸で復活、そしてマップを確認……するまでもない。



 なんということだ、片手剣の女の子が大勢に追いかけ回されてるじゃないか! なんと卑怯な、許さんぞマクー! 彼女を危機から救い出すために、俺は立ち上がった。



「俺の名はジョージ・ワンレッツ! 少女をいたぶる卑怯者どもめ、俺が相手だ……アーーッ!」



 す、すみません……読者のみなさま……。ジョージ・ワンレッツ、男の魂がそろそろ挫けそうです。負け犬気分でとりあえずは、さきほどの敵陣Aにトボトボと向かう。どうせ俺なんかが出ていっても、味方の足引っ張りにしかならないだろうという、いじけた気分のままで……。




 やはり、ヒーローはそこにいた。俺なんかじゃ足元にも及ばない、大活躍のヒーローだ。和服姿で黒い羽織の二人、名前はリュウに士郎。次々と押し寄せる敵兵を、格上の豪傑格相手だというのにも関わらず、バッタバッタとなぎ倒していた。


 そしてそれをサポートする仲間(?)たちも凄まじい。三桁には程遠い人数でありながら、ヒーローたちが囲まれないように、見事な活躍を見せていた。


 ……どうせ俺なんか。こすっからい現実に打ちのめされた俺は、中途半端な攻撃を仕掛けては、弾き返され。ついにはヒザを着いてしまった。

 チクショウ……俺にもっと力があれば……! こんな不正者なんかに、負けない力があれば……!





「若者よ、君の力はそんなものかね?」




 俺に問いかける声。ハッと顔を上げると、無闇に背もたれの高い椅子に腰かけた、真っ白な軍服の男がいた。太陽を背にして、その表情はわからない。わからないはずなのに、冷たく、それでいて熱狂的な眼差しは俺を見据えていた。



「正義にかける、君の情熱というのは、そんなものなのか?」

「情熱だけじゃ勝つことはできない! 俺はもっと、もっと力が欲しいんだ!」



「バカモノ! ならばなぜその情熱を力に替えん! 二度や三度打ちのめされただけで、己を嘆くなど男のすることではないわ! 嘆くならば、十回倒されてから嘆け! ニ十回倒されて歯を食いしばれ! そして一度相手を斃したならば、そのときこそ涙するのだ! ヒーローが最初からヒーローに生まれ落ちたなどと、夢にも思うな! 男は叩かれて強くなる! 打ちのめされて大きくなるのだ! さあ、立ち上がるのだ! そしてゆけ、己の正義のために!」



 くそ、言い返すことができない。言ってることはいちいち御尤もなんだ。だから、俺は剣を取るしかない! そして俺の信じる正義のために闘うんだ! バカになってでも、人から笑われようとも! 剣を構えた。敵がこちらを睨んでくる。……出してくるんだな、必殺技を。その突撃よりもはやく、俺は剣を振り下ろした!



「ジョージ・ダイナミック!」



 やった! 小手の防具を失った相手だったから、片腕にクリティカルが入り欠損が生じた。今度は袈裟斬りだ、これが鎧を吹き飛ばす。……行ける、行けるぞこれは!




「不正を憎む俺の魂を受け取れ……ジョージ・ダイナミック! アゲイン!」




 派手な演出とともに敵兵は消滅。俺は生涯初めてのクリティカルと、キルを獲得した。



「やったぜ! ありがとう、見知らぬ味方!」



 白い詰め襟軍服の男は、やおら立ち上がると漆黒のマントを翻した。




「精鋭陸奥屋一党諸君! 喜び給え、新たな英雄の誕生だ!」




 ……俺が、新たな英雄? ヒーローになれるのか、俺が? いや、迷っている暇なんて無い。敵はいくらでもいるんだ! 味方のために、俺は全力で闘う!

 ジョージ・ワンレッツ、まだまだ心は挫けてはいないぞ!





『その頃、ヒナ雄くんたちは何をしていたか?』


 東軍のB陣地を制圧した。とはいっても、僕たち『情熱の嵐』の力ではない。主にチーム『まほろば』の美人剣士、白銀輝夜さんとレスリングコスチュームのグラップラー、三条葵さんの力によるものだ。そしてチーム『まほろば』傘下の小隊、『迷走戦隊マヨウンジャー』の女の子たちのフォローによるところが大きい。



「だけどよリーダー、俺たちほとんど無傷で敵陣占領に成功したんだぜ? すげぇよな!」

「すごいことには変わりありませんが、爆炎センパイ。このままでは西軍は負けてしまいます」



 新人の大矢健三郎くんは、喜ぶ爆炎に冷や水を浴びせかける。



「なんでだよ、このまんまの勢いで領地を広げりゃ、万々歳だろ!?」

「それができれば勝てるかもしれませんが、しかし……西軍は早々にA陣地を奪われています。タイム・ポイントでは俄然東軍有利となっています」

「だからよ、さっさとA陣地を取り返しに行こうってんだよ! できるできる! やれるやれる!」



 爆炎のこうした勢いは、とても素晴らしい美徳であると僕は思う。だけど今回は褒めるわけにはいかない。



「実はですね、爆炎センパイ。あちらにはプレイヤー・リュウ、プレイヤー・士郎という猛者がいまして。これがイベント開始二〇分だというのに、すでにキル・ポイントを五〇〇ずつ稼いでいるんです」




 ダインの言葉に、爆炎は白銀輝夜さんのポイントを確認した。



「……こっちのキルは三〇〇か……。でも行かないと負け確だろ!?」

「そうでもありません。本日二時間、三日間で六時間のイベントのうち、まだわずかに二〇分しか経っていません。というか、慌てるのは三日目からでも十分にお釣りが来ます」


「まだ騒ぐなってことかよ?」

「その通り。爆炎センパイの力があれば、三日目からの大逆転も可能なんですから、まずはこのB陣地を防衛しましょう!」




 という方針で、僕たちは今、得意の『長ナタ』を振り回して陣地を守っていた。


明日も一日二回更新。次回更新はいつもの朝八時です。

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