魔術師? 魔道士? カエデさん
それぞれの三人チームの中から、ダンスの得意そうなひとりがステップを踏む。
残る大剣と片手剣のメンバーは、その後方に位置していた。
ステップガールが三人を代表しているような形だ。
ひとりが突出しているなら、四人の一般プレイヤーたちがするべきことは?
ひとりに襲いかかることだ。
まずは二人が突っ込む。しかしアイドルは二人同時の攻撃を難なく躱した。
ならばと三人目が出た。
それを抑えるのが残る大剣と片手剣の二人。
見事に先制点をもぎ取った。
「ほう、二人同時の攻撃を躱すかい」
「感心するほどのことじゃないさ、リュウさん。防御一辺倒に専念すれば、案外攻撃なんてものは躱せるものさ。攻撃する側は、必ずそこを斬って来るんだからな、一歩でも躱せば二人攻撃だろうが三人攻撃だろうが躱すことは可能だ」
「それは士郎さんの物差しで計った場合さ、素人の女の子がそれをやってるから感心するのさ」
「まあ、そこは譲る」
それでもさすがに、無傷とはいかない。
ダンサーのアイドルさんも手傷を負っているようだ。
そんなときには。
アイドルさんは三人一組の四チーム、一般プレイヤーたちは四人一組の三チーム。
つまり。
余っているひとチームの三人が分散した。
こちらも四人一組の編成に変わったのだ。
これに対して士郎さんは、「う〜ん……」と唸った。
肯定の「う〜ん」なのか、否定の「う〜ん」なのかは分からない。
「なるほど納得の手だが、十二人制の手だな」
「そこを突いて来ましたか、確かにイベント用の手ではない」
今は十二人対十二人だ。だから余った三人組をほぐして、各隊に割り振りし増強できる。
しかしイベントでは敵の数が無尽蔵だ。
三人組をほぐして増強するより、三人組をそのまままとめて投入する方が効果的だろう。
「その辺りの温度差を、アイドルさんたちに徹底しておく必要があるな」
「然り、そこはまったくもってその通り」
その辺りも周知徹底ができているかどうか、できていなければ案外カエデ軍というのは脆いかも知れない。
以前カエデさんがプレイしていたゲーム。そこで参加していた旧パーティ、以前私たちとイベントで戦ったナントカという連中。
あの辺りは周知徹底ができていなかったのではないかと、想像してしまう。
まあ、それはそれとして。
状況は十二人ふたチーム、合計二十四人が入り乱れる乱戦となっていた。
ゴチャゴチャと狭苦しい中を、アイドルさんの中でも小柄なメンバーがすり抜けてゆく。
もちろん刃で敵の防具をカットしながらだ。
決してビッグ・ショットではない、しかしそれでもポイントは入る。
一般プレイヤーたちも負けじと必死に刃を振るうが、なかなかポイントにつながらない。
この距離、この間合いでは武器が邪魔になるという状況なのだ。
では一般プレイヤー、どう出るか?
身体ごと刃を、アイドルさんの革鎧に押しつけた。
そのまま田舎斬りに斬り下ろす。
ビッグ・ショット判定。
アイドルさんのひとり、艦長さんの革鎧に大きくダメージが入った。
「得点できるぞ、野蛮人戦法だ!!」
もう、体力まかせの力技。男女の体力差でしか、状況を覆せない。
しょーもない手というなら、しょーもない手である。しかしアイドルさんたちとしては結果がすべてだ。
しょーもない手を使われようが何しようが、負ければ負けでしかない。
なんといっても『誤字脱字軍』がその手を使って圧倒して来かねないのだ。
そうなったとき、どうする?
これはその時のための稽古なのである。
この場面でカエデさんの采配は……当然後退だ。
間合いを取りたい、空間的にも時間的にも。後退のためには殿戦が必要だ。
そこは大剣ファイターが革鎧を傷つけながら勤めた。
仲間を逃がすため、防波堤となって津波のような攻撃を防いでいる。
そして片手剣メンバーたちは、戦闘態勢を整える。
一戦目で登場したメンバーたちの初手、霞の構えによる突撃だ。
これを迎え撃つ一般プレイヤーたち、そこはさすがの陸奥屋講習会練磨者。
体当たりのような突きを恐れることなく、強引なカウンターで斬りつけてゆく。
一進一退の攻防が続き、とうとうタイムアップ。
アイドルチームBと一般プレイヤーBとの勝負は、ドロー判定の引き分けであった。
さあ、メンバーを入れ替えてどんどん行こう。
Cチームともなるとアイドルさんたちは、ほぼ全員が十二人試合を体験ということになる。一度打ち止め終了だ。
そしてラスメンだからといって、大ボスが出てくるとか絞りカスしかいないということはない。
そこもまたカエデ編成の妙というものだ。
おおむね平均的な力量のメンバーで揃えて来ていた。
それで良い、これはあくまでも稽古なのだ。
団体戦とか生き残り戦ではない。
アイドルさんたちの力量を計り、稽古の目的を実践し、さらに周知徹底浸透させるというのが目的なのだ。
そして第三戦、さすがに一般プレイヤーたちの経験則は厚かった。
ここにきてとうとうカエデ采配も実らず、アイドルチームは敗北。
連携も良く、入れ代わり立ち代わりのフットワークも素晴らしかった。
しかし最後は火力。
この差が出てしまった。
ゴリゴリに押し込んでくるゴリラ戦法、アイドルさんチームはそこに弱点があった。
「いや〜〜ショッペェな、俺ら。女の子相手にゴリ押しして、ようやく勝ちかよ」
一戦を終えた一般メンバーがボヤいた。
しかし『草薙宗家』、『鬼の士郎先生』を見止めると、ピンと背筋をのばして直立。
「ナマ言ってすんませんでしたっ!」となった。
すると栗塚旭顔の鬼は、珍しく頬を緩める。
「いや、構わんさ。それよりどうだったかね、アイドルさんたちの力量は?」
「はい、とにかく面倒くさいというか。そっちから攻めてくるのかよ、こっちに配置されてんのかよと、とにかくカエデ参謀の知略が光ってました!」
「だとさ、リュウさん。弟子が褒められてるぜ」
いや、それは違う。訂正しなければ。
確かに知恵の種を植え付けたのはカエデさんだ。
しかし受け取った知恵を育てて世話して、ここまで育てたのはアイドルさんたちだ。
そのことを伝えると、一般プレイヤーはキョトンとした。
「わからないかい? 君たちが苦労しているとき、カエデさんは一切指示は飛ばしてなかったんだよ?」