忍者調査録
「とまあ、こんなカンジで西洋剣術軍団。それに誤字脱字軍は熱心に稽古してたってことさ」
よう、みんな。
まだまだ私の視点は続く、忍者だ。
潜入偵察任務から帰った私は、さっそく本殿にあがり天宮緋影《ひ〜ちゃん》と鬼将軍、そのほか下には置かれないような面々に調査報告を上げていた。
「ありがとうございました忍者さん、それで西洋剣術の特徴や弱点。忍者さんの目から見て、いかがでしたでしょうか?」
私に『さん』付けしてくれるのは、ヤハラ参謀だ。
他にはデコ参謀出雲鏡花だろうか。
そして私は質問に答える。
「特徴から述べると、フィジカルを主体としたわかりやすい技術だから、初心者でもそこそこ使うようになれる。弱点は同じく、自分たちの技術を他団体も使えてしまうぞってとこかな? その弱点、向こうの連中はどれだけ自覚してるか……」
「確証は掴めなかったの、いずみ?」
かなめ姉ぇが訊いてきた。
確証とは、西洋剣術師範たちが自分たちの弱点に気付いている、気付いていないの確証だ。
「気付いている、と私は見るね。コチラが西洋剣を使って戦うっていうのは宣言済み。そうなりゃ敵も私たちが西洋剣術を研究してくるって思うだろ? そうなりゃ日本剣術をベースにした団体だ、西洋剣術をパクるのも簡単、と考えるはずだ」
「う〜〜ん、向こうも二人一組を真似てくるだろうしなー」
カエデっちょも、お行儀悪く腕胡座。
そこで私は言ってやる。
「これはもう情報戦、あるいはキツネとタヌキの化かし合いになるかもな」
「もうなってるよ、忍者」
「じゃあスッキリとしたフェイスラインの私がキツネ。カエデがタヌキだ」
「どっちも化かすことには変わりないじゃん」
普段はお行儀のよろしいカエデっちょだが、私には軽口を叩く。
まあ、若い者同士だ。
普段は大人に囲まれて重責を担っているカエデっちょなので、たまには気を抜きたいのだろう。
「それで、カエデ参謀。我々としては何か方針を変更するような必要があるかな?」
「いいえ、まったく。敵も後がありませんから、稽古して当たり前。熱心になるのは当然です」
「ではこちら側の方針としては?」
「変更はありませんが、それだけでは面白くありませんね。……ということで、より熱心に、かつ情熱的な稽古を集中力割増でおこなうのはどうでしょう」
カエデっちょの言葉に、鬼将軍は呵々大笑。
「総大将としては頼もしい限りだが、しかし同盟脱退が続出するような事は避けてもらいたいな」
「それに関しては」
と視線を先生方に向けるカエデっちょ。
「先生方の采配ということで」
その一言で苦い顔をしたのは、身内のリュウ先生だった。
とはいえ、そのリュウ先生から質問。
「実際のところ忍者、お前さんの目で見て勝ち目はどちらにありそうだ?」
「あちらは即戦力を大量生産できる上に、人数がいる。だがこちらには層の厚さがあるからね、心配はしてない」
「あらいずみ、人数がいるってどういうこと? そんな話は聞いてないけど」
しまった、かなめ姉ぇへの報告がまだだった。
というか、誤字脱字軍が多数だってことかなめ姉ぇは知ってるクセに。
いやらしい笑みをニタニタ浮かべて私を見てやがる。
美少女忍者、クライシス。
「ねぇいずみ、どういうことかしら?」
「そ、それはつまり、その……」
ヘビのような眼差しは、執拗に私にからみついてきた。
仕方ない。
「新堂流忍法、畳返しっ!!」
「『王国の刃』忍法、飛龍手裏剣!」
なんだよその手裏剣打ち、と思ったときには遅かった。
そうだ、王国の刃の手裏剣は人の動きを三秒間停止させるのだ。
すでに私は肩口に手裏剣を浴びてしまっている。
そして御剣かなめという忍者にとって三秒間とは、致命傷を五回与えられる時間なんだ。
やられる!!
そう感じた次の瞬間だ。
「新堂流居合、鎌鼬っ!!」という声。風を斬る太刀の音。
そして覆面にしていた忍者頭巾が、割られて落ちた。
「へぇ、忍者ってカッコ美人系だったんだ」
カエデっちょ改めて言うな、私が恥ずかしい。
「せっかくの美形なんだから、少しはおしとやかにしてれば良かろうに」
「忍者の照れ隠しなんじゃないのか、リュウさん?」
「でしたら両先生、俺が忍者を照れ転がしてみせましょうか? ヒューヒュー、忍者美人じゃん♪」
フジオカ先生、あんたなんてことを……。
「しかしのう、これだけの美形が忍者装束というのも、のう?」
コラ、そこのジジイ。
歩く裸電球!! 手前ぇなんてこと言いやがる!
「あら失礼しました、緑柳師範。鬼将軍秘書としては、サービスが行き届いてませんでしたね」
かなめ姉ぇ、何か仕込んでたのか?
あの居合で、何かいらないネタ仕込んでたんだろ!?
すると悪魔の美人秘書、3、2、1とカウントダウン。仕上げにパチンと指先をスナップ。
私の忍者装束はハラハラとこぼれ落ちた。
幸いにして紅の越中と胸サラシは斬られていない。
だから私は、美少女らしい「キャーーッ!」というリアクションは取らない。
「腰の張り、ヨシ! ウエストのくびれ、ヨシ! 乳の張り……出直して来い!!」
裸電球、覚えてろよ。お前絶対ぇ畳の上じゃ逝かせねぇからな。
「なんだ忍者、Aなんだ……ヘッ」
カエデっちょ、お前だってBしか無ぇだろっ!!
「しかしかなめちゃんよ、脚絆と地下足袋と手甲を落とさないとは、お主分かっとるのう」
「粗末な展示品ですが……」
おうっ、裸電球!! 電球ジジイ! 手前ぇ曾孫の顔は拝めねぇと思えっ!!
っつーかかなめ姉ぇ、粗末な展示品って何さ!?
そろそろやめんと、忍者の子もう泣きそうだぞ!!
「それでいずみ、手裏剣の効果はもう切れてるけどいろいろと隠さないの?」
「忍者たる者、肌を見られたくらいで隙は見せないさ」
「よくできました♡ その意気で頑張ってね♪」
黒髪の悪魔は、もう一度指先をスナップ。
頭上で羽目板の外れる音がした。
そして嫌な予感しかしない。
「いずみさーーん、そんな姿で待っていてくれたんですねーーっ!!」
墜落してきた物体に、とりあえず上段蹴上げ。
そのまま畳の外れた床板に叩きつける。
そして爪先を喉笛に突き込んだ。
タヌキは死んだ。
「ヘッ、私へのお仕置きにタヌキごときを使うたぁ。かなめ姉ぇ、ちょっと錆びついたんじゃねぇのか?」
「でもいずみ、タヌキちゃんと仲良しじゃない。レベルも似たりよったりだし……」
そんな評価だったのか、私。
もう拗ねちゃおっかな、クスン。
などと遊んでる暇は無かった。蘇生したタヌキに脚を絡める取られてしまったのだ。
「や、やめろタヌキ!! 十八禁描写に突入するつもりかっ……アッーー!!」
以上、忍者視点でお送りいたしました。
アッーー!!www