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間者だ忍者

さてここで、視点を変更させていただく。



「それじゃあまずは挨拶だ、オィ~~ッス!!」



なんだ声が小さいな、もう一丁。



「オィ~~ッス!! ……静かにしろ、私は忍者だ。ただしオーバーズ・アイドルのニンジャではない。陸奥屋まほろば連合鬼組の忍者だ。今日は敵対する西洋剣術軍団の道場へ、潜入調査に来ている」

「えっと、君は新人さんだよね? どうしたんだい、独り言言ったりして」

「いえ、なんでもありません♡」



いかんいかん、この私としたことが『8時だョ! 全員集合』ごっこに熱を上げるあまり、長さんのツカミトークまで再現してしまった。

今の私は、ワンコニャンコタヌキを率いて西洋剣術講習会に参加しているのだ。

なに? 頭上に浮かんだプロフィールで素性が知れるだろうって?


君は何も分かっていない。

私ほどの忍者になれば、お化粧なんかしなくたって貴方は私に五里霧中というヤツだ。

ウィンクひとつで受け付けをすんなり通してもらえたさ。


さてさて最近評判の西洋剣術軍団、どのような稽古をしているものか……。

まずは基本。レイピアを持った右手を突き出し、身体は完全な半身。

そして上から下への八の字斬り。


続いて下から上への八の字斬り。

この二つの技で、たっぷりと時間を取る。

基本を重視する流派は強い、負けたとしても立派である。


続いては上から袈裟斬り、振り抜いた腕を身体に沿わせて大車輪、逆袈裟斬りを連続。

さらに逆袈裟から大車輪で袈裟斬り。上から下が済んだら下から上へ。

とにかく基本に時間を費やす。


たっぷりと汗を流したところで、誤字脱字メンバーが合流。

オーバーズ・アイドルと同じように、独自の道場を持っているのか、すでに玉の汗を流している。

小手先で斬りつける技、大きく振り抜く技が終わると今度は踏み込み技と後退技だ。



「柔らかく軽く、柔らかく軽く! 斬ったところで終わらない、常にうごいて変化をつけられるように!」



ふむ、軽く柔らかく動くなら、変化をつけるにもたやすい。

西洋剣術、なかなかに良い武術じゃないか。



「いずみさんいずみさん、普段が気合いと根性と精神力の稽古なせいか、すごく楽しくなってきますね」

「そこが西洋剣術の良いところなんだろうな」



楽しそうなタヌキに、私は話を合わせた。

と、ここでさらに誤字脱字軍、遅参のメンバーが合流。

三〇人ほどの配信者が六〇人になってしまった。

しかも男もいる。



「おいおい、誤字脱字軍。人数がいすぎじゃないのか?」

「あれ、いずみさん知りませんでしたか? 誤字脱字所属配信者は、一〇〇人を越えてますよ?」

「なぬっ、すると一般プレイヤー一五〇人にプラスして、二五〇人いるのか!?」



これは意外といえば意外。

技はすっかり、一五〇人プラス三〇人程度かと……。



「本店ではこのことはご存知無いので?」

「かなめ姉ぇのことだ、抜かりは無いはずだがしかし……」

「一応報告は入れておいた方が良いのでは?」


「そうなると私がかなめ姉ぇから、『あら、そんなことも調べてなかったの?』と折檻される」

「では黙っておきますか?」

「それはそれで、『誤字脱字軍の人数に対する報告が無かったようだけど?』と、これまた折檻される」


「どちらにしても折檻されるんですね、ハァハァ……」

「こらタヌキ、何故に息を荒げている」

「い、いずみさんの折檻される場面を思い浮かべるだけで、タヌキはっ、タヌキはもうっ!」



そんなタヌキに脳天唐竹割り。

タヌキは死んだ。

しかしすぐに生き返った。



「痛いじゃないですか、いずみさん! 愛くるしいタヌキになんて仕打ちを!」

「やかましい、おかしなことでハァハァしとらんで、稽古せんか稽古!」



タヌキを相手にバカをやっていても、周囲の技量は横目で確認している。

素人をいくらも出てはいないが、それでも基本を重視している連中だ。

殻を破った途端に急速に伸びる可能性を秘めている。


基本でたっぷりと汗を流したら、今度は防御の基本素振り。

剣の棟で身体を撫でるように、撫で回すように。

攻撃技の基本はシルバー・コンドルの師範が指導していたが、ここでスネーク・ピットの師範に交代。


防御の素振りが終わったら、二人一組。攻防の約束稽古に移る。

攻防の約束稽古、つまりここを打ってください、そうしたらこう受けて反撃するという稽古だ。

日本剣術の型に相当するだろうか。思いの外、日本剣術と共通する稽古体系を取っている。



「どうだ、タヌキ。続けられそうか?」

「もうダメです、いずみさん。私は貴女のキス無しには立ち上がれません」

「基本でトバしすぎるからだ。ワンコ、ニャンコ、相手してくれ」



ところがワンコもトバしすぎたようで、すでにギブ状態。

普段から手抜き……じゃなくて、要領よくやっているニャンコが相手をしてくれる。

それでニャンコの防御、さらに反撃といった動きだがこれがまた。


性分に合っているのかいつの間にか受けられ、出所不明のまま反撃してくる。

私がスネーク・ピット師範ならばニャンコを徴用するところだが、悲しいかな、西洋剣術の修行者は人数が多すぎる。

そして件のスネーク・ピット師範だが、なかなかに東洋的な考えを西洋剣術に落とし込んでいるようだ。



「ムキにならないで、攻めてきたものを攻めてきたままに受け流す。ここは重要ですよ、どうにかして反撃してやろうなんて考えたら、手痛いしっぺ返しが来ますから」



あくまで自然に、できることを無理なく行う。

戦闘目的がある以上そればかりでは良くないのだがしかし、数で陸奥屋まほろば連合を上回っているのだ。

必ず好機は訪れる。決しておかしな考えではない。


ん〜〜……なかなかに面倒くさい連中だな。

最後の最後まで油断ができない。

ただし、西洋剣術派のこうした考え方にはひとつだけ穴がある。



予定通りにはいかないという、アクシデントに弱いところだ。

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