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中堅クラス

配信などの都合によりときとして稽古に参加できないアイドルさんもいたが、それでも出席率は上々であった。

代表取締役社長の山郷氏も、折に触れ稽古閲覧に出向いてくれている。

トップとしての務めを心得た方のようだ。


そしてアイドルさんたちの稽古は続く。

基本的な西洋剣の素振りをみっちりとおこない、先日の刃引きを本身に代えての模擬戦である。

両方を試し、使い勝手の違いを確かめて本番に臨む。それが現時点での大方針なのである。


ゆえに接待稽古、殿様芸のようなぬるい戦いはさせない。

あくまで本番同然、そして様々なシュチュエーションも体験してもらう。

今はまだ六人制試合の模倣、だが十二人対十二人。三十人対三十人などの大人数も経験してもらわなくては。


その上で、自分の得物を本身とするか刃引きとするかを決めれば良い。

ということで本身。

大剣ロングソードを用いた者たちは、どことなく狭苦しそうだ。


空間的にではない、条件がタイトというのが分かりやすいか。

とにかく使い勝手がしっくりと来てないようである。

対して片手剣レイピアを選択した者たちは、刃引きのときより動きが良い。


もはや月末を待たずとも、得物の好みは決まったようなものである。

レイピアを手にする者は本身を、ロングソードを用いる者は刃引きを。

とはいえ、まだ六人制試合しか経験していない。

今この場ですべてを決めつけるのは早急すぎる。


ネームヴァリューに乏しい一般プレイヤーたちとの対戦をひと通り終えると、レイピア所持者たちはさもさも手にしっくりとくるとばかり己の得物を見た。

気に入った、と言わんばかりである。

しかし簡単な決断をカエデさんは許さない。



「それでは各々、刃引きか本身か好きな方を手にして、次はマヨウンジャーのみなさん、情熱の嵐のみなさん、チームジャスティスのみなさんに稽古をつけてもらってください」



六人制試合は続く。

今度はネームド未満一般以上のチーム相手の模擬戦だ。

ちなみに昨夜は一般プレイヤーたちしか相手にしていない。


今夜は試合数が倍になったとでも言おうか。

アイドルさんたちの負担は倍増である。

まして、マヨウンジャーにはネームド・プレイヤーのアキラ君がひょっこりと混ざり込んでいる。

そのことはカエデさんも、アイドルさんたちに知らせていた。



「西洋剣術軍団にも、使い手がいるかも知れません。というか、誤字脱字チームには剣道の有段者もいるみたいですし、空手や拳法の使い手がいないとも限りませんので」



平成の頃には、ワンナイトでトーナメント試合をこなすキック興行もあった。

そのせいか二〇年前には空手がちょっとしたブームになっていたではないか。

その後世の関心は総合格闘技に移ったようだが、あの頃一〇歳だった子供なら現在では三〇代。


可能性はある。

昔の空手小僧、キックの経験者の存在が。

おかしなことを言うならば、西洋剣術軍団も人数が一五〇からいるという話だ。


誤字脱字チームのみならず、その一五〇人の仲間に徒手系経験者がいても不思議ではない。

レイピア振り回しているからとうかつに近づくと、とんでもない目に遭わされる可能性は十分にある。

そして我らがアキラ君は、体操服に赤ブルマーに簡易小手を付けて、レイピア持ちであった。



「なぁ艦長や?」

「なんでしょう、カモメ先輩?」

「あのアキラ君ってさ、ボクサーじゃなかったっけ?」


「艦長はそのように記憶してますけど、ダメですよカモメ先輩。ボクサーなら剣は不得手とか思っちゃ。リュウ先生が言ってたでしょ、西洋剣術とボクシングは相性が良いって」

「いやでも軽量級だし、ワンチャン無くね?」

「あー艦長が馬鹿でした、カモメ先輩はアメリカ人と同じで、体験主義者だったんだって、忘れてたわ」


「そのココロは?」

「痛い目みないと分からない」

「それストレートに悪口な」



しかし艦長さんの懸念は命中した。

開幕突撃のカモメさん、アキラ君目がけて一直線。

しかしデトロイト・スタイル(ヒットマン・スタイル)に構えたアキラ君に、斬られて走られ走られては斬られ。散々な目に遭わされてしまったのだ。


他に目立つところでは、大柄女性のベルキラさん。

彼女の大剣は心得でもあるのか、刃引きであっても右に左に振り回し、まさしくホームラン戦法。

豪快な戦闘を見せつけた。


ブロンドおでこのお姫さま、コリンちゃんは普段が槍使いのためかレイピアを手にしても、突いて引いての呼吸が良い。

おまけに的が小さいものだから、大柄アイドルさんなどはキリキリ舞いさせられていた。

その他のメンバーも、そつなくこなすことで古参の技量を見せつける。


結果、キルを稼いだアキラ君の成績を除いたとしても、ヒットポイントでマヨウンジャーの優勢勝ち。



「お疲れさま、やっぱり熟練プレイヤーって強いね」



始祖アイドルの海さんが、帰ってきたメンバーをねぎらう。


「う〜ん、追いつけない技量じゃないとは思うんだけどなぁ〜。何が違うんだろ?」

「そうなんだよね、ちょっとちょっとの差でちょっとちょっと突き放されて、結局は勝てなくなっちゃう」



そう、そのちょっとが積み重ねなのだ。

そのちょっとを、スピード、技術、連携プレイで上回っているので、これを追い越すのは至難の業となっている。

お疲れさま、と私も彼女らをねぎらう。



「そのちょっとを、いま君たちは誤字脱字相手に差をつけてる最中なんだよ。腐らずに頑張ろうね」



そう、一般プレイヤーに差をつけている『マヨウンジャー』も、入門したての頃はみんなと変わらない平凡なチームだったのだ。

いかにアキラしたが強いと言っても、その力量を活かしきれず孤立させてしまい、キルにされてしまう。

そんな経験を積み重ねてきたのだ。


だからアイドルさんたちも、今日この一日。

今日この稽古を大切にして欲しい。

特に戦闘技術というものは、そうヒョイヒョイと上達するものではないのだから。


マヨウンジャーはもう一試合こなして交代。

二番手は燃える男、ジョージ・ワンレッツ率いるチーム『ジャスティス』だ。

こちらはアキラ君という必殺兵器がいない。


だが突っ走りなジョージをフォローするために、他のメンバーが奔走する形だ。

それを「ジョージの奴が邪魔だな」などと言ってはいけない。

逆に言うとジョージ小隊長が、他の五人を導いているとも取れる。


それが証拠に五人の仲間たちは表情が違う。

「そんなに突っ走らないで、隊長!。」「ジョージ、突っ込み過ぎよ!」、などと文句をたれながらも、六人はチーム戦の形になっているのだ。

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