手心? 知らねぇなぁ……。
さらに翌日。
「さて、どうだろうカエデさん?」
「どう、とは何のことでしょうか、リュウ先生?」
「彼女たちが持つ得物さ。カエデさんの中では一般メンバーもしくはネームドプレイヤー以上には、刃引きの剣を持たせるつもりなんだよね?」
「はい、本身の剣では斬れてしまうので、刃引きの剣を使ってワンショットワンキルを狙ってます」
「では、アイドルさんたちは?」
「それは実戦で試してみないと、ですね。彼女たちが刃に向いてるのか、刃引きの殴り合いに向いてるのか。テストしてみないと、です」
なるほど、準備の段階で最高値を弾き出しておく。
カエデさんらしい慎重さだ。
「私としても大まかな方針は持っている、おそらくテストの結果は当たらずとも遠からず、になると思うけどね」
「その方針とは?」
「体格に優れた者は刃引きの剣で殴らせる。膂力に恵まれぬ者には本身を持たせて斬らせる」
カエデさんはクスリと笑う。
「分かりやすいですね、リュウ先生」
「可笑しかったかな?」
「いえ、発想が可笑しかったのではなく、方針がほぼ私と同じだったからです」
が、リュウ先生。とカエデさんは続ける。
「ソナタさんなどはどう考えますか? 体格に恵まれてはいませんが、腕力はピカイチです」
「彼女は本身だね、優れているのは上半身の筋力のみ。刃引きの剣はむしろ下半身の力が必要だ」
またまたカエデさんはクスリと笑う。
「そうした助言をいただきたかったんです、リュウ先生には」
そう言って、彼女はアイドルさんたちの元へ。
「はいは〜い! それじゃあ模擬戦に移りますから、六人ずつの小隊を作ってくださいね〜♪」
おい、その言葉はコミュニケーション能力に難のある彼女たちには……。
と思ったが、案外すんなりとまとまった。
うん、ほぼほぼ同期で集まれば、問題は無かったようだ。
足りない人員は、先輩たちがチームをバラして補充に入っている。
これにはカエデさんの「ただのテスト試合ですから、適当で構いませーん」という言葉が効果を発揮したようだ。
で、アイドルチーム同士で模擬戦かと思っていたが、豈図らんや一般プレイヤーたちを呼び出した。
「配信者のみなさんが戦う相手は、このくらいの練度を持っていると想定しています。みなさんには本身の剣、または刃引きの剣で殴ったり斬ったりしてもらって、どちらが性に合っているか確認してもらいます。この確認は今月一杯まで行いますので、じっくり吟味して下さい!」
なるほど、それは良い。
稽古次第でコンディションは変わるものだ。
初心な現状なら、本身と刃引きの好みは揺れ動くに違いない。
そしてアイドルさんたちとしては初めて、一般プレイヤーたちとの戦闘。
初めての六人制試合の開幕だ。
我ら陸奥屋まほろば連合の一般プレイヤーたち、有名人とかアイドルさん相手に浮足立つかと思いきや、そこはやはり陸奥屋組。野郎の香り、戦さの香りを振りまいての入場だ。
アイドルさんたち、一般プレイヤー、ともに得物は刃引きの西洋剣。
アイドルさんたちには体格の大小によって、両手剣か片手剣かを選択させている。
いよいよ模擬戦、練習試合の始まりというときに、天宮緋影と鬼将軍が。そして株式会社オーバー代表取締役社長山郷氏が、上座にあがった。
試合場にはレフェリーとばかりに士郎さんが立ち、残る三人の『災害先生』はジャッジメンよろしく砂かぶり席だ。
私たちに確認を取り、確認を取り、確認を取り。
士郎さんはゴングを要請。
オーバーズ・アイドルの六人制試合初陣、ここに開幕である。
アイドルさんたちは二人一組の陣形、もちろん陸奥屋一般プレイヤーたちも同じ態勢。
そうなるとどちらが優勢となるか? 先制打を決めた方である。
先制打はやはりこれまで鍛えに鍛えてきた、男性一般プレイヤーたちである。
横入りの一撃を相棒が受け止め、主幹選手が一発を決めていた。
ただし、アイドルさんたちもヤルものだ。簡単に一発は入れさせない。
二合三合と打ち合って、それでようやくポイントを奪われるというところまで粘ってくれた。
ただ、反撃の手はいただけない。
興奮してしまっているのか、攻撃の型が崩れてしまっている。
これでは軽快な打ち込みを活かすことができない。
片手剣でそうなのだから、両手剣も溜めを拵え過ぎ。
一発を狙いすぎている。トヨムを呼んだ。
「セコンドのカエデさんに、軽く軽く基本通りと指示させるんだ」
こっそりと耳打ちした。
伝令のトヨムが走る、
私の言った通りに、カエデさんは指示を飛ばす。
アイドルさんたちは「基本崩れてるってさ! もっと軽くいくよ!!」と声を掛け合う。
今度はアイドルさんたちが優勢を取り返した。
たったひとつのアドバイスで、そんなに変わるものかよと、読者諸兄は訝しむだろう。
だが私は考える。
これはアドバイスが適確であったというだけでなく、アイドルさんたちに下地あるいは功夫が備わっていたから変わることができたのだと。
考えてもみよう、元々彼女たちは西洋剣の稽古は積んでいるのだ。出来て当たり前ではないか。
ピシピシと反撃、先制されたポイントをアイドルさんたちは巻き返してゆく。
だが、やはり届かない。
もう一歩のところで追いつけるところだったが、結局は一般プレイヤーたちに手が届かなかった。
これは彼女たちがヘボだったということではない。
陸奥屋一般プレイヤーたちに、一日の長があったというだけの話である。
ここでアイドルさんチームの交代、一般プレイヤーたちもチーム交代。
その隙にトヨムを呼びつけ、カエデさんとアイドルチームに伝言。
内容は、「初手から基本に厳しくいけ」というものだ。
その伝言が功を奏したか、アイドルさんチームは序盤から手首を回転させる太刀で、一般プレイヤーたちからポイントを奪う。
が、しかし。
一人ひとりの練度が違う。
序盤こそ優勢であったものの、アイドルさんたちの攻撃は受けられ、流されて反撃を許してしまう。
剣とボクシングは、実力差がはっきりと出る。
やはりアイドルさんチームは押し返されてしまった。
少しは接待ファイトがあっても良かろうが、それを許さないのが陸奥屋なのだ。