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世界トンチキ宣言

株式会社オーバー所属アイドルたちが、観客席に手を振っていた。

アイドルらしい満面の笑みである。

そして誤字脱字所属の女の子たちの手を掲げ、その勇敢さを讃えていた。


観客は大喜び、惜しみない歓声を両軍に送っている。

しかし良いのか、男子諸君。

君たちが褒め称える女の子たちは、馬乗りになって兇器を使い顔面殴打する連中なんだぞ。


日本刀を振り回して人を斬り、平気な顔で白刃の下へと飛び込むんだ。

いくらゲーム世界とはいえ、ちょっとやりすぎではないかとオジサン心配しちゃうなぁ。



「やりましたよリュウ先生!! 圧勝です!」



瞳をキラキラさせた『逆転劇の張本人』、またの名を『狂気への案内人』であるカモメさんが、真っ直ぐな目で私を見た。

だから私は言う。



「やり過ぎだ、アホたれめが」

「どぇぇえぇ、怒られたぁ!?」

「まあ、勝ったには勝ったのだから説教はしないが、あんな真似しないでもカエデさんが指示を仰げば……」

「いえ、リュウ先生。私にももう、あれしか手が無かったので……」

「……………………」



ほら、やっぱりカモメは正しいんじゃん? そんな目で私を見てくる。

しかしそこはソナタさんが頭を下げに来た。



「すみませんリュウ先生、野蛮な技を使っちゃいました……」



ほれ見ろ、こういう意見もあるぞ? という目で見返してやる。

カモメさんはグヌヌと歯ぎしりした。



「最後攻撃最後はあのような形になりましたが、取り敢えず勝つには勝てました、リュウ先生……って、どういう展開ですか、コレ?」



中途半端な報告は、デキる女のメイさんだった。



「いや、メイ姉ぇ。勝ち方の問題でカモメセンパイがリュウ先生と、いささかこう……」

「結果オーライは明日につながらない、というのは分かりますがリュウ先生。やはり対人戦闘というのは難しいものです。今日の白星が明日の黒星とならぬよう、今後も精進いたしますので」

「む、むう。そう言うのであれば……」



上手く丸め込まれてしまった。

そしてそのように精進を継続するというのであれば、私としても言うことは無い。

それにしても……。



「ニンジャさんは良い動きを見せてくれたね。あれはお手本になる」

「うへっ!? うへへへ、そうでもありません」

「隊長さんなんかももう少し技術を上げれば、あれをできると思うから。さらに稽古してみるといいよ」

「ふぉっ!? 隊長がですか!? いや、そんな……」



なんだろう、この自己評価の低さは。



「まあ、みなさん今回はお疲れさまでした、ということで」



カエデさんが締めに入る。



「今回の働きで、ウチの総裁からお褒めがあると良いですね♪」



しまった、まだ『ミス・ミチノック』の称号を引きずってた。



「みなさんも、一生外せない黒マントを貰えたら良いですね♡」



本気だ。

カエデさんは本気でこの黒マントを嫌がっている。

そして呪いと不幸の根源を、オーバー・アイドルたちにまでバラ撒こうとしているのだ。



「あー、それ格好いいよねー」



ハツリさんの言葉に、カエデさんはこめかみをヒクつかせる。



「カモメもさー、次の新衣装で運営さんにおねだりしようと思ってんだー」



そろそろこの場を離れたいな。

そうでないとカエデさんの怒りが、とばっちりとか流れ弾で飛んで来かねないぞ。



「実はボクもあの黒マントを狙ってたんですよね」

「それじゃあ今度みんなで黒マントデーを作って、配信者全員で着用しましょう♪」

「ゲストは当然、世界一黒マントの似合う配信者、カエデ参謀だよな!」



よし脱出だ! 緊急離脱、マッハ3! 駆け抜けろ私、風よりも速く!!

しかしそんなときにこそ現れてくれる、それが奴だ。



「ハッハッハッ、残念ながらこの黒マントはミス・ミチノック。あるいはミチノック・レディの証なのでね、そうそうお渡しすることはできないのだよ」

「総裁!?」



そう、奴だ。鬼将軍の登場だ。



「いや何、我々ミチノック・コーポレーションとしても彼女のような優秀な人材はいち早く確保したいものだからね。あの黒マントはその証でもあるのさ」



いわゆる青田買いというやつか。

よかったねカエデさん。世界企業への就職は決まったようなものだ。

君の前途に幸あれと祈らせてもらうよ。



「ひとり占めはよくありませんね、閣下。カエデ参謀はすでに私たち、株式会社オーバー傘下の配信で名を馳せているのですから。交渉権筆頭は、私たちと主張させていただきますよ」



お、オーバーの山郷社長も名乗りを上げたぞ。



「そうだよ閣下、カエデ参謀はもうカモメたちの配信にもレギュラー出演してるんだしさ!」

「なんだったらデビュー曲はボクが作曲しますよ!」

「じゃあハツリとユニットでデビューしよ! 配信のコツから振り付けまで、手取り足取り教えてあげるから♪」



モテモテだね、カエデさん。

もっとも、本人は話が進めば進むほど顔がから生気が失せているのだが。

その場を取りなすのが、長老緑柳師範である。



「ヒョッヒョッヒョッ、みな気が早いのう。お嬢ちゃんはまだ高校すら卒業しとらんじゃろ。いま何年生じゃったかの?」

「はい、一年生です」


「おや、これだけ春を迎えておってもか?」

「はい、希望あふれる十五歳です。留年もせずに」

「大将、こりゃお嬢ちゃんを迎えるのにしばらくかかるぞ!」



翁も大笑いだ。

読者諸兄も、どうかそのようにお笑いいただきたい。

だから私も、永遠の四十歳なのだ。年は取らない。


絶妙にオチもついたところで、少しは真面目な話をしようか。



「しかし門人たちが見事に連勝してくれたので、いよいよ我々本家も負けることはできなくなりましたな」



フジオカさんだ。

その通り、プロ選手たちが勝利してアイドルさんたちも勝ちを得た。

そうなると私たち、陸奥屋まほろば連合が負けることなど許されない。

そしてこんな時こそ、奴はろくでもないことを世界に宣言するのだ。



「ということで、西洋剣術に対する戦闘は現在のところ日本武術の二連勝!! そこでもう一戦、来る夏至イベントで我々は西洋剣術勢力に挑戦したい!!」



始まったぞ、世界のトンチキ宣言。



「しかし、このまま闘ったのでは明らかに我々が有利だ! そこでハンディキャップとして、陸奥屋まほろば連合は全員、片手間か両手剣……すなわち西洋武器で臨もうと考えている!! なんだったら君たちは、大変によく斬れる日本刀、和槍などを使っても構わないぞ!!」

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