逆転、また逆転
「先生たちに叱られるようなこと?」
ソナタさんは嫌そうな顔をする。
しかし私としては、どんな発想をするものかと期待をしてしまった。
だからカエデさんに、親指を立ててみせる。
「許可が出ました。リュウ先生から許可されましたので、ヤッちまって下さいカモメさん!!」
「よし!! まずは自分の敵に向き合えっ!」
他の五人はカモメさんの言葉に従う。
霞に構え、と号令は続く。
「やってやろうぜ!! 突っ込めーーっ!」
構えかすめてのまま、カモメさんが先頭で駆け出してゆく。
遠慮はいらねぇ、勝負を賭けろ! そう言わんばかりの突撃だった。
少し遅れたが、五人が続く。
レイピアの細かい攻撃を浴びるが、カモメさんはお構いなし。
どんどん突っ込んで相手の切っ先を押し退け、体当たりのような突き技を腹にお見舞いする。
そのまま敵を押し倒して、馬乗りになって二度三度。さらに腹を突きまくる。
初撃の突き技で、敵の革鎧には大きなダメージが入っていた。
そこへ追撃の馬乗り攻撃だ、たまらず敵の革鎧は砕け散る。
ビッグ・ポイントだ。
しかし膾のように切り刻まれたカモメさんも、深刻なダメージと言える。
が、そこは六人対六人。
カモメさんを攻撃する五人の敵は、オーバー・アイドルたちの捨て身突きを食らって吹き飛んだ。
ビッグ・ポイント✕5だ。
逆転である。
それだけではない、ある者は馬乗り突き。ある者は鍔で柄頭で顔面を殴りつけている。
隊長さんなどは刀で敵の喉を押さえつけ、頭突き頭突き頭突きでキルを奪った。
これこそビッグ・ポイントだ。
っておい、自分の相手がいなくなったからって、カモメさんの相手に手を出すのかよ!?
カエデさんが「あちゃ〜」という顔で天を仰ぐ。
隊長さんはカモメさんの相手に、刀で首を鋸引きし始めたからだ。
お姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃん、お前らの一体どこをどう取ればアイドルなのよ?
思わず吹き出した。観客席では緑柳師範や災害先生たち、そして鬼将軍も大笑いしている。
カモメさんの相手、撤退。
つまり今は、六対四の人数差だ。
「おう、隊長!! いままでやられた分、お返ししてやろうや」
「利子をたっぷり、つけちゃらんとね」
ということで、惨劇は飛び火した。
馬乗りになったオーバー・アイドルが顔面を叩く。
その間に隊長さんとカモメさんが、敵の小手を攻撃してポイントを稼ぐ。
良い頃合いで、敵に首を討つ。
その頃には敵も復活していた。
それを迎え撃つのは隊長さんとカモメさんの片ヒザ構えだ。
悪いことに、誤字脱字軍は失策をおかしている。
残る試合時間はまだ一二〇秒はあるというのに、復活兵が単独で現場へ戻ってきたのだ。
自分が撤退→現場の状況は未確認→復帰後の単身突撃という、悪循環を踏んでしまっている。
だから復帰してきても、一人目が足止めを喰らい、二人目も救助の手が届かずを繰り返すのみ。
「ようやく『復活兵はまとまって行動する』の原則に気づいたようですね」
「五人目と六人目の足並みが揃っているね」
「ですが敵の足並みが揃っているということは……」
ハツリさんとソナタさんが二人一組、初めてバディを組むというのに見事な連携で同じ敵を打ちのめす。
「ニンジャ、そっちに一人抜けたよ!」
「おまかせでござる!!」
ここはフィジカル・クイーンのニンジャさん、二人の敵をむこうに回し、避ける避ける避ける!
片ヒザ立ちなればこその芸当だ、どうせ敵は頭部しか狙えない。
そしてこのフィジカル・ニンジャ、さらに一段高い技を見せる。
「ニンジャさん、敵に頭を差し出してませんか?」
「オイシイ場所に敵の急所があったら、誰だって斬ったり突いたりしたくなるさ、カエデさん」
ひとつ太刀を躱したら、もう一人にとってオイシイ場所へ移動。
敵に攻撃を誘ってから防御する。
目の良さとフィジカル値の高さを、華麗なまでに披露してくれた。
「カエデさん、防波堤になる準備をしてくれないか?」
「何故ですか、リュウ先生?」
「このままだと世界アイドルのニンジャさんに、鬼将軍が変な称号を与えてしまいそうだ」
「私はすでにその『遺憾極まる称号』を与えられているんですが?」
しまった、失言だった。
しかしデキる女メイさんが、ここで上手い動きを見せる。
担当する敵の足を払って転倒させたのだ。
その目的はひとつ、一瞬の隙を作ってニンジャさんを救助に向かうためである。
ヤッとひと突き、ニンジャさんを攻める敵の一人に胴突きひとつ。
ここでも大きくポイントした。
もっとも、メイさんの攻撃はここまで。
担当する敵が起き上がり、メイさんを追いかけてきたからだ。
それを見ていたカエデさんが指示を出す。
「ソナタさん、敵を転ばせて! ハツリさんは倒れた敵の首を斬る!」
とはいえみんな女の子、戦士ではなくアイドルなのだ。
どのように転ばせば良いかとなれば。
「エーーイッ!!」
体当たりしかない。
しかしよろけた敵の足元を、ハツリさんが足払いですくう。
誤字脱字兵、転倒。
そこへソナタさんが転がり込むように胴突き。
ハツリさんも敵の喉に刃を押し当て、ゴリゴリと押し引きする。
この誤字脱字兵さんだけで、二度目の撤退。
願わくば彼女のファンのみなさん、彼女を責めないでいただきたい。
彼女も必死で稽古して、勝つためにこの場へ臨んでいるのだ。
その努力はどうか、汲んでいただきたい。
「どうするソナタ!?」
「ボクが担当します!!」
どういう会話か? 復活兵をどちらが受け持ち、どちらが味方の応援に向かうか? の相談だ。
復活兵を迎え撃つソナタさんが、中段に構えてたちあがる。
ハツリさんも立ち上がるが、こちらは八相だ。
残る試合時間は三〇秒、ハツリさんは誤字脱字兵の背後から体当たり。
よろめいた敵の胴を隊長さんが突いた。
ハツリさんは背後から喉を掻く。
「この敵が復活したら隊長が相手するから、センパイは他へ移って!」
「よーし、ハツリちゃんジャイアント・キルしちゃうよーーっ♪」
勇んで駆け込むカモメさんの相手の背後。
しかし大声で近づいたため、切っ先で額を斬られる。
「おうっ♡」と叫ぶが、私からすれば「あんた何やってんのさ」というところ。
しかしその好きにカモメさんが背後から大きく斬りおろして、そこで終戦のゴング。