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群衆劇と書いてカオスと読む

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『序盤、鬼将軍と参謀の会話』


 カウントダウン! ……3……2……1……銅鑼ゴング

 鬼将軍の号令下る、「陸奥屋一党、全員突撃ーーっ!」。


そうだ。本来ならばすぐ背後に建つヤグラを守らなければならない私たち。その防御を考慮せず、開幕からいきなりF−1並みの加速で全力攻撃をブッ込んでゆく攻撃精神。それでこそ陸奥屋一党なのだ!

 ……しかし。


「……参謀、どうしたことかね?」

「どういうことなんでしょうね?」


 両陣営とも、先鋒は新兵格の雑兵ども、そのあとに控える私たち『熟練格』というのは、陣地ヤグラ防衛の最前線であるはずなのだが。

 その防御を放り出して攻撃に移るからこその陸奥屋精神。ひときわ目を引くチンパン・プレイだというのに、嗚呼それなのにそれなのに。味方の『熟練格』どもが、一斉に駆け出しているではないか。陣地防衛などまったく省みず。



「もしかすると総裁、これは……」

「なにかね、参謀……」

「我々陸奥屋以上に、周囲のプレイヤーたちがチンパンレベルに堕落しているのではないかと?」


「……まったく、我々の見せ場をなんだと思っているのかね」

「とりあえず東軍の士気は高い、ということで」

「では参謀、どのヤグラから落とすかね?」


 参謀がマップをメンバーに展示した。私たち陸奥屋は、外様も外様。マップの左端に配置されていたことは前述の通り。


「ほぼ正面に敵の陣地、ヤグラが建っています。あそこを襲いましょう」

「聞いての通りだ、士郎先生、リュウ先生。そのようにみなを導いてくれたまえ」






『活動 最前線』


「だそうだ、士郎先生」

「応さ、リュウ先生……と、あのヤグラだな?」


 私たちの眼の前に赤いヤグラが見えてきた。赤い、というのはここは西軍が占領している、という証拠だ。東軍が占領すると青く変わる。そして西軍メンバーからは赤く見えるようになる。

 ということで突撃をしたいところなのだが、眼の前には東軍新兵格の人垣ができている。私たちはこれ以上進めない。東西両軍の新兵たちが、最前線でおしくらまんじゅうをしているところなのだ。


「こういう場合は小隊単位でマップを確認して、状況を把握。小隊単位の作戦を練っておくべきだろうな」

「そうだな、リュウ先生。そんなわけで鬼組総員、マップを送るぞ」


 私もトヨムにマップを展示するよう求める。個人個人で所持しているマップだが、小隊長が展示することでその意思が浸透しやすい。早速トヨムが口を開いた。


「なあ旦那、敵も味方も六人編成ひとかたまりで動いてるみたいだな」


 ふむ、おおむねその程度の人数で行動し、陣地周辺で密集しているようだ。これは六人制試合の影響だろう。あるいはリーダーが走る方角に、考えなしでついて行っているだけなのか?

いずれにせよ、この密集はどうにかしないといけない。勝負や試合にならないのだ。


「ということで、カエデ。早速で悪いんだけど人混みかきわけて前線まで行って、この辺り……」


 トヨムが指したのはおしくらまんじゅうの脇っ腹。


「コイツらを釣り出してくれ。逃げ道は、そうだなぁ……この近辺に味方の豪傑格が固まってる。敵の新兵をこっちにおびき寄せてくれ」

「わかったわ、小隊長」


 つまり陣地防衛へと集結する西軍の圧力を、すこしでも分散させて、東軍の有利に運ぼうという算段だ。


「これでカエデが釣り出しに成功すれば良し。釣り出せなくても、アタイたちでカエデのフォローに回ればいい」

「ということで、士郎先生。ウチの小隊は最前線へ行かせてもらいますよ」

「ちょっと待て、俺たちも行く。カエデさんのフォローから、そのまま陣地制圧をかければ話が早い」


 最前線から本店へ作戦変更の連絡が飛び、本店から了承の返答があった。横に広がっていた陣形が縦二列に変更。新兵たちの人垣をかき分けるようにして前線へ立った。

「よし、『光の戦士』カエデ! 出撃だ!」


「了解、小隊長!」


 光の戦士といいつつ黒い羽織のカエデさんは、単身敵軍の脇腹へと駆けていった。





『奮戦、孤高のヒロイン』


 カエデです! 小隊長トヨムさんから命じられて、いよいよ囮作戦の開始。私の見せ場です!

 現在の状況は敵軍陣地に敵味方入り乱れ、押し合いへし合いしての団子状態。そこへ投入される敵軍の増援、私はその追加人員を引きずり出す役割。ということで、まずは小隊長に指定された敵軍の脇腹へ接近。


 接近しているんだけど、敵兵は誰ひとりとして私に注意を払わない。

 オーケイ、いいわ。そういうことね? 陣地の重要性に比べれば、私なんて見向きもされないカスっペってことよね? 見てなさい……えいっ、ペチッ! 


 ヒョイと出した攻撃がクリティカル。敵兵の小手を破壊した。……へぇ〜〜、まだ私のこと無視するの? 分かったわ、それじゃあちょっとだけ本気出してやろうじゃない。リュウ先生の得意技を見よう見まね、片手剣の旋風つむじかぜ! さらに、必殺雲龍剣!


 バタバタと二人を撤退に追い込んでやったわ。どうよ、カエデちゃんの実力!? って……ギヌロ……その擬音は水島新司先生に叱られるんじゃないかな? 敵兵が一斉に私を睨んでくる。思わず距離を取るけど、私に向けられる視線は一人や二人じゃない。ほんの五人ほどでしかないんだけど、イヤだなぁ、そんなに殺気立たないでよ。




 ってキターーーーッ! 五人の敵兵が私に刃を向けてくる! 格下の新兵格だけど、五人一斉にだなんて、ダメよ。私コワレちゃう! とりあえずここは逃亡だ! 背中を向けて猛ダッシュ、すぐにスクリーンを開いて、背後の状況を確認するんだけど……追ってキターーーー! 私の背後は赤い三角形、つまり私を頂点にして三角陣で追いかけて来る敵兵の群れ!


 えっと、私としては確かに大勢が釣れれば釣れるほど大成功なんだけど……これって十人ニ十人の単位じゃないよね!? まるで目をルビーのように真っ赤にして怒る王蟲の群れだわ! とすると、私は博愛と正義のヒロインであるナ〇シカ!? あぁ、いいわね、博愛のヒロイン。思わず背後の王蟲たちに語りかけてしまうわ!


「さあ、ついてらっしゃい!」


 ……って、それどころじゃないわ! 二足歩行の王蟲たち、本気で怒って追いかけてくる! だけど相手は重たい甲冑装備、私は軽快な革鎧。ときどき立ち止まって距離を詰めさせて、それからまた走り出す!


 目指すは味方陣地、これだけの乱戦なのにまだ戦さに参加しようとしない、豪傑格のみなさんのもと! 東軍総大将から、泡を食ったような号令が飛ぶ!




「敵兵の集団、豪傑格陣地まで侵入! 豪傑格は迎撃にあたれ!」


 飛び出してくる豪傑格のみなさん、私は急激に進路変更。右へ右へと回って、もと来た方角へと走ってゆく。背後では派手なエフェクトの閃光が連発。そりゃそうだよね、新兵格や熟練格の集団が、上位者にあたる豪傑格と正面衝突してんだから。クリティカルやキルをバンバン取られるのが運命ってやつでしょ?

それにしても上手く行ったわね? こんなに簡単に作戦がハマっていいのかしら?




『参謀による状況の解説』


「……参謀」

「なんでしょうか、総裁?」

「なにかね、今のは……」


 囮作戦が功を奏して、陸奥屋一党が目指す陣地から二百人もの敵兵が釣り出され、東軍勢力により殲滅された。それだというのに、鬼将軍は苦虫を噛み潰したような顔をしている。


「総裁、同志カエデの献身による囮作戦が成功したようです」

「それは分かる、それは分かるのだ、参謀! しかし何故、敵兵はこうも容易く釣り出され、無意味な突撃に至ったというのかね!?」


「総裁、これが付和雷同という群集心理です。おそらく敵兵のほとんどは、攻撃目標の変更かと勘違いをして、豪傑格陣地へと突撃したと考えられます」

「敵の誰かがそのような指示を出したのかね?」

「おそらくは、誰も出していないでしょう」


「それなのに格上陣地へ突撃したのかね?」

「待ち構えていたのが、格上とすら分かっていない者がほとんどであったかと……」


 鬼将軍は眉間に深くシワを刻み、指先で揉んでいた。


「……参謀、我が国の民は、いつからそんなバカになったのだ?」

「昔からです、総裁。そしてこれは我が国の民だけではなく、世界各地というか、人類の悪癖と断じることができましょう。誰かが行動を扇動すれば、考え無しの無責任で、それに乗ってしまう。意思ある者も意思を失ってしまうのです」

「それが付和雷同というものなのかね?」

「左様」


 アゴの下にできたウメボシをグッと飲み込んで、鬼将軍。


「では参謀、これは好機と見るべきだろうか?」

「はい、同志カエデが作り出した好機です。いまこそ全軍の突撃をもって、陣地を占領すべきでしょう!」

「陸奥屋一党、総員突撃隊形! よければ……突っ込めーーっ!」





『剣客ふたり』


「いよいよ突撃だぜ、リュウ先生!」

「出遅れんなよ、士郎先生!」

「コキやがる、一番槍の誉は俺のモノだぜ!」


 二列縦隊から突撃隊形への変更が報告された。


「待ってました、一番槍は陸奥屋一党鬼組、士郎がつけてやるわ!」

「続いて二番槍、嗚呼!!花のトヨム小隊、リュウが行くぞ!」


 互いに「行くか!」という言葉すら交わさず、っつーか手下どもを置き去りにしてふたりだけで敵陣へと斬り込んでいった。

 しかし、強い。バカのように強い!


 一番槍の士郎だけでまたたく間に三人斃した。続くリュウは四人。あっという間に敵は一個小隊を失った。そこへ続く若い小隊たち。これもまた、出せば当たる。当たればクリティカルという猛者どもだ。見る見るうちに西軍は数を減らす。


「士郎先生、敵の圧力が少ないと楽なものだな!」

「俺たちはカエデさんに足向けて寝られんぞ!」


 そう、陸奥屋一党の突撃が成功したのは、カエデが敵兵を釣り出してくれたおかげなのだ。


「それじゃあリュウ先生、ウチも囮をひとり出すか!」

「おう! フィー先生だな!? いったれいったれ!」

「よし、フィー先生、出撃!」


 は〜い♪ という可愛らしい声が聞こえた。敵兵を斃す間に間に、フィーの様子をスクリーンでチラ見するふたり。薙刀でペチペチと攻撃を加えて、敵を挑発するフィー。しかし子供に叩かれた程度のカスダメなので、敵も渾身の囮を無視している。業を煮やした囮は、禁断の挑発を始めた。


「ヘーイ! そこのモテない野〇部諸君! こんなゲームにハマってるくらいなら、素振りのひとつもしてなさい! ってゆーか、今このイベントに参加してるってことは今年『も』〇子園に行けなかったってことだよね! あれ〜〜? クラスの女の子たちに『今年こそ甲〇園に連れてってやるからな』とか見栄を張ってなかったっけ〜〜?」




 酷い……かなり悪質な挑発だ。はっきり言って野〇競技というのは、かなりレベルが高い。夏の全国大会などは、『わざわざこの競技だけ』テレビ中継を入れて少年たちのスター気取りに拍車をかけて、人格を歪ませても構わないというほどハイレベルな戦い、狭き門だというのに。


 そこに出られなかった負け犬を、普段大威張りでデカイ口をきいている程度の罪しか無いのに、そこまで鞭打つとは。

 だが負け犬にも『根拠の無いプライド』だけは人一倍あったりする。その得物は、小柄なフィーに向けられた。逃亡するフィー。追いかける「必要以上に顔だけ日焼けした」集団。そして彼らは、個人をいたぶるときにはそのチームワークを発揮する。


 そう、学級カースト最下層の民を、集団で笑い者にするかのように。そしてフィーは、カエデほど足は速くなかった。


「リュウさん、マップの青いマークが消えたぞ……」

「士郎さん、フィー先生が殺られたな」

「おのれ、ベースボー〇プレイヤーめ、弱者を狩ることだけは一人前だな」


 これら一連の表記は、あくまでもオタク側からひねくれた視線で見て、感じ取った一方的な主観であって、実在する野球少年や高校球児たちとは一切関係がありません。


「だがな、士郎さんや」

「おう、なんでぇリュウさん」

「このミニタイトルが剣客ふたりになってるのに、私たちは剣客らしい仕事をひとつもしとらんぞ?」

「なんの、かなりの数を斃してはいるんだけどな」




 フィー先生の撤退により、混沌指数が跳ね上がるとしか、リュウには思えなかった。


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