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余裕の展開……か?

それまで片手剣レイピア兵は軽快な足取りだった。

まるでボクサーのようにステップを踏んで、踊っているようにさえ見えていた。

しかしヒカルさんが刀を鞘に納めると、表情が一変。

斬り刻んでやると言わんばかり、怒りが顔に表れていたのだ。



「へっ、ヒカルにばっかいい格好させてらんねぇよな」



ライまで斬馬刀を鞘に納めてしまった。

これにはロングソード兵も顔色を変える。

舐めているというのなら、舐めている。

侮辱というのならば、侮辱だろう。


閃光のような攻撃を旨とする西洋剣術相手に、刀を鞘に納めてしまったのだ。

やれるもんならやってみろ。

そう言って、面にツバを吐きかけられたようなものだ。


まずはロングソード兵、グイッと大剣を引きつけて溜めを作った。

ザ・フルスイングの構えだ。

それでもライは平気な顔、散歩のような足取りで前に出る。



「クッ……バカにしやがっt……」



言い終わらぬうちに、ロングソードを走らせる。

ライはこれを簡単に躱した。

朝食の味噌汁を、箸でかき混ぜるような気楽さだ。


その上で、深々とひと足。

柄頭を敵の胴に突き込んだ。

その柄頭をスタート地点に、今度は大きく一歩後退で間合いを外す。


刀はそのまま、身だけ間合いの外へ。

つまり抜き付けを開始したのだ。

そしてデコピンの要領で、切っ先が走る。


ワンポイント獲得、敵の上腕三頭筋にひと太刀浴びせることに成功したではないか。

そこは防具で隠していない場所だったのだ。

そして血振り、懐紙で刀身の血脂を拭う所作も含めて斬馬刀を鞘へ納める。


そしてレイピアマンとヒカルさん。

レイピアマンは切っ先で悟られぬよう、片手下段の構え。

神経質な動きで切っ先をピクピクと動かし、懸命にヒカルさんを誘っていた。


誘われているヒカルさんは、塩対応。

まるでレイピアマンなどそこにいないかのように、ダラリと両腕を垂らしている。

「ケッ、地蔵かよ」

そのようにレイピアマンが言ったか言わぬか。


毒蛇が鎌首を持ち上げて襲いかかるかのような速度で。

しかしそれを、鞘の内の柄でヒカルさんは止めた。

そのまま鞘ぐるみ、柄を持ち上げてしたたかレイピアマンの右拳を打ち据えた。


小手の防具にダメージ大、おそらく次の一撃で防具は破壊されるというほどに、深刻なダメージが入っていた。

さてここで、ひとつ解説を入れなければなるまい。

軽快にして快速な西洋剣術。なおかつ剥き身を相手に、鞘に内から抜き付けて間に合うものなのかどうなのか?


今この段階にあって、『刀が鞘の内で加速するんだ』などという幻想ファンタジーを語る方は、読者諸兄の中には、もう居るまい。

なにしろヒカルさんもライも、まともに刀は抜いていないのだ。

せいぜいがところ、ライが後の先に抜き付けて敵の上腕三頭筋に斬り付けた程度。


むしろ神秘は、どのようにして敵の素早い攻撃を躱したのか? そこに尽きるであろう。

程度はスピードがある(物理的スピードだ)。

それを躱すにはどうすれば良いのか?


実は以前にも語っていると思うのだが、敵がいつ攻撃をしかけてくるか? という時間的見切り。

そしてどこを斬ってくるか? という技術的見切り。

どれだけ距離を空ければ躱すことができるか? という空間的見切り。

その三っつの見切りができていれば、速度の差など児戯に等しいものなのだ。


「まだ斬って来ないでしょ?」と言って間合いを詰める。

「ここを斬って来るんでしょ?」と言って防御を固める。

「これだけさがれば当たらないよね?」と言って間合いを外す。


完璧。


ではそんな魔法のような見切りを、どのようにして身につけるのか?

経験だ。

攻撃をもらったり、打ちのめされたり。

経験の蓄積によって、人は見切りを身につけるものなのだ。


ただし、攻撃をもらうときに打ちのめされるときに、目をつぶってはいけない。

せっかく目から入ってくる情報を、遮断してしまうからだ。

攻撃をもらうその瞬間まで、いや例えもらったとしても決して目を閉じないで最後の最後まで見切る。


そうした経験によって、見切りのための情報は蓄積されてゆく。

そしてさらに言うならば、最後まで最後まで敵の技を見切るためには、蛍光灯ボクシングが有効なのである。

コケにされたような居合戦法、そして実質的なダメージを負わされて、どのように出て来るかシルバー・コンドル。


まずは負傷者であるロングソード兵を後方へ、手傷の回復を図る。

そして小手にダメージを受けたレイピアマンは、二線へとさげられた。

それに対してW&Aは、トマホークのモヒカンを前面に押し出して踏み込んでゆく。



「さあ、短い間合いだぞ。……かかって来い」



モヒカンが静かに言った。

それでもシルバー・コンドルは後退、まずは戦力の回復に務めていた。



「敵は冷静だね、カエデさん」

「そうですね、ライさんたち……おかしなこと考えなければ良いけれど……」

「おかしなこと?」



私の問いにはトヨムが答えてくれる。



「やるに決まってんじゃん、ウチの姉ちゃんだぞ。絶対に見せ場作ってピンチを招くさ!」



言い終わるや否や、まずはモンゴリアンが突撃。

怒濤の攻めを見せるがポイントを奪えず。

ヨーコさんも突っかかった、しかし小手を破壊されてポイントを献上。


そして、敵は二人一組を形成する。

手傷を回復させたロングソード兵と、小手が崩壊寸前の片手レイピア剣士。

これがモヒカンに殺到。


そして手槍兵とロングソード兵が組んで、ヒカルさんに襲いかかる。

手槍兵ともう一人のロングソード兵は、ライを狙った。

良いタイミングだった、イチニのサンで一瞬のうちに全員が呼吸を合わせて。


モヒカンはこのピンチを上手く凌いだ。

しかしヒカルさんは小手の防具を破壊され、額を負傷。

鮮血が一筋流れ落ちた。


ライも胴の防具を破壊されている。

形勢は一気に逆転した。



「ほらな、やってくれただろ?」



おまけにシルバー・コンドルは、一撃離脱戦法。

全員一斉に間合いを外すという技まで披露してくれた。

リズム、流れは完全にシルバー・コンドル側へと傾く。


その爪先にもリズムがよみがえり、羽根が生えたような軽やかさだ。

そして二人一組のまま、右へポジションを移し左へ入れ代わり、中央へ戻ってくるなどと。

誰を狙っているのか分からなくする、撹乱戦法まで見せてくれた。

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