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目的地

徹底したアウトボクシング・スタイル。

防御至上主義からのテイク・ポイント。

スネークピットというチームは、闘魂集団W&Aにとっては大変に相性の悪いチームと言えただろう。


その難敵に見事圧勝したというのに、カエデさんは面白くなさそうな顔をしていた。

擬音で例えるならば、『ムニョス……』というのが適当だろう。

晴れないような、浮かないような顔をしている。



「どうしたんだい、カエデさん?」

「だってリュウ先生、あれは私がやりたかった戦法なんですよ」



どういうことか。



「お互いが連絡を密にして、お互いがお互いをフォローし合う。それも、ごく短いやり取りで。なのになのにヤハラ高級参謀ってば、先にやっちゃうんだもん!」

「だけどカエデ、ヤハラの手はまだ完成形じゃないだろ?」



すかさずトヨムがフォローする。



「確かにまだ未完成だろうけど、それでも小隊長。私としては面白くありません!!」



目をやれば、ヤハラくんがこちらを見ていた。

そして極上の微笑みを浮かべている。

そして、カエデさんはすっかりふくれっ面になってしまっていた。



「やややカエデちゃん、プロ選手たちはカエデちゃんの担当じゃないんだし」

「だから面白くないのよ、参謀っていうのはそんなに心が広くないのよシャルローネ!」



ほれ、出番だぞトヨム。

参謀がふくれてるのをなだめるのは、大将の仕事だ。

『え、アタイ!?』とトヨムが驚いていたが、カエデさんをなだめる仕事をお前以外の誰に任せられる。



「あ〜あ、アタイもあんな戦い方したいなー」



トヨムはわざとらしく、足を投げ出して言った。



「もっともっとチームがお互いをフォローしてさー、もっと上手な連携取れるような、そんな作戦取ってくれる、優秀で可愛らしい女の子の参謀が、どっかにいないかなー」



チラッ、カエデさんに目を向ける。

ふくれっ面のカエデさんも、プッと吹き出してしまった。



「わかりました、わかりましたよ小隊長。もうふくれたりしません!」

「本当か!?」

「本当ですとも、だから次の夏至イベントは猛然と稽古しましょうね♪」



これは私も忙しくなりそうだ。

カエデさんの機嫌も直ったところで、W&Aの下剋上マッチ三戦目。

いよいよ事の発端『シールバー・コンドル』の登場だ。


まずは装備を拝見しよう。

防具類は軽量な足軽スタイル、つまり鉄兜に貫頭衣。その下は鎖の着込み。

小手とスネ当てで末端を防御という、視界と足回りを重視した服装。


そして得物は片手剣レイピア二人に両手剣ロングソード二人、そして手槍が二人というバランス重視の揃え方。

こちらはいつもの通りに最短間合いのトマホークがひとり、次に短い間合いの打刀がひとり。

長得物というほどではない斬馬刀がひとり、手槍ふたりの薙刀ひとりというバラエティーに富んだ布陣。


シルバー・コンドルは長得物の手槍二人を中心に、両サイドを両手剣と片手剣で固めている。

W&Aはその正反対、両サイドの片手剣を相手にするのは手槍のさくらさんとモンゴリアン。

手槍の相手をするのはモンゴリアンひとりで、その両脇を固めるのは斬馬刀のライと打刀のヒカルさん。


ヨーコさんはモンゴリアンの背後で薙刀を撫していた。

そこで見合って見合って、開戦のゴングだ。

両軍ともに突撃体勢、そして間合いとなれば得物を操り猛然と打ち合う。


シルバー・コンドルで先制攻撃を仕掛けてきたのは、手槍のふたり。

これがモヒカンひとりに突き技を連続。

しかしモヒカンも慣れたもの、敵の攻撃をかすらせもせずきっちりとカメを守り切った。


その打ち終わりを狙って、モヒカンの背後からヨーコさんがお釣りの攻撃。

これがひとつ軽く小手をかすめて、ワンポイント。

ならばとロングソード兵二人が、乱暴に両手剣を振り回してくるがこちらはヒカルさんとライがカット。


逆にこれまた、打ち終わりを狙った攻撃でポイントを稼ぐ。

両端の片手剣ふたりもヒカルさんとライからポイントを奪おうとするが、手槍のさくらさんとモンゴリアンに阻まれてしまった。

良い展開だ。


本来ならばこの展開は、シルバー・コンドルが取りたかった戦法である。

突っかかってきた敵からカウンター、あるいは打ち終わりを狙ってのカウンターでポイントを奪う。

それを許さないどころか、お株を奪ったようなカウンター攻撃だ。


下手な例えをするならば、チャンピオンが四回戦ボーイを相手にボクシングのレッスンをつけているようなものだ。

『ヘイ新人グリーンボーイ、カウンターってのはこうやって取るもんなんだぜ』

そんなセリフが聞こえてきそうな立ち上がりだった。


この事実に、シルバー・コンドルの六人は一度攻撃を中断する。

立て直しを計っているのだろう。

賢明な判断だ。


そもそもがシルバー・コンドル、ポイントを奪いやすそうなモヒカンに目がくらんで、思わず先に仕掛けてしまっている。

これが失敗の原因なのだ。

シルバーコンドル側、セコンドを含めた陣営が浮足立っている。


無理もない、自分たちの戦法を鮮やかにお見舞いされたのだ。

誰だって慌てふためくだろう。

しかしこれにプレイヤーたちは配置変換で応える。


冷静だ、とカエデさんが呟いた。

まあそうでもしなきゃねと、トヨムも冷静だ。

シルバーコンドルは、彼らの戦法をもっとも具現化している片手剣レイピアをセンターに配置した。

手槍兵は両サイド、さくらさんとモンゴリアンにあてがう。



「ありゃりゃ、手槍勝負でさくらさんに敵うと思ってんでぃすかねぃ?」



シャルローネさんの言うとおりだ。

これを私は悪手と見た。

そしてW&Aも配置を変更。


ヨーコさんは両手剣の相手に退く。

そしてモヒカンのとなりには、ヒカルさんが立った。

しかもヒカルさん、刀を鞘に納めて腰を落とす。



「さあ、かかってこい!!」



ウチのプロ選手って格好いいですねーと、マミさんはのんきに述べる。

プロ人気ナンバーワンだからねと、私は答えた。

手数と軽快さが売りの片手剣。


これに対して一撃必殺の代名詞である、居合を用いるのである。

それを察した観客からは、ものすごい声援が送られた。

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