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ルール改変への兆し

「こりゃ見事なアウトボクサーだね」



敵軍の槍師を見て、私は評価した。

さくらさんヒカルさん、ヨーコさんモンゴリアンという二組でかかって、それぞれが担当する槍師からポイントを奪えないでいる。

いや、むしろチョコチョコとポイントを奪われているのだ。



「どーずれば良いんでしょーかねー?」



マミさんは他人事のような口調だが、表情にはそれなりの緊迫感が漂っている。



「その辺りはカエデさんに訊いた方がいいんじゃないかな?」



ということで、カエデ参謀。

お願いします。



「ポイントを稼げない場所では無理をしない」

「あ、な〜るへそ♪」

「それもそうだな」



シャルローネさんとトヨムは即座に理解した。

セキトリとマミさんの反応は薄い。

つまり、いつまでも手槍相手に手こずってないで、ヒカルさんなりモンゴリアンなりがレイピアの四人に攻撃を仕掛ければ良いということだ。


幸い、左右から手槍二人を押し込んでいるのでレイピア四人の背後に迫れている。

そのように思っていると、ヤハラ高級参謀から指示が飛んだ。

正しく私の思い描いていた通り、レイピア四人に近いヒカルさん。

そしてモンゴリアンが背後から襲いかかったのだ。


どちらも胴への一撃、大きなポイントを奪えたが逆転には至らない。

そこでライが前に出た。レイピアの下をくぐり抜けて、敵の背後へ。

振り返り様の横殴り。


レイピアマンの胴が砕け散った。

ビッグポイントだ、しかしもう一丁。

刀を返す途中で頭上をガード、レイピアを受け流してからもうひと太刀。


これでようやくキル、これでようやくポイント先行。

敵は五人、こちらは六人。数の上でも有利に立った。

しかしスネークピットの六人は、それぞれが担当している敵を振りほどき、一箇所に集合したではないか。



「勝ちにこだわってますねぇ……」



カエデさんが呟く。



「なるほど、そういうことかい」

「どういうことじゃい、小隊長?」

「見てれば分かるさ」



私にも分かった。

スネークピットの五人は背中合わせで円形陣。

五人掛かりで完全なカメを作ったのだ。


二人一組の戦法をもってしても、五人掛かりのカメは、なかなか突破できない。

むしろ手傷を負って、みすみすポイント差を埋めてあげる始末。



「こうやって死に帰りが戻って来るのを待ってるのさ」



不機嫌そうに言うトヨムの頭を撫でてやる。



「それならそれで、手はあるものさ」



慰めるように言うが、トヨムのご機嫌斜めはまだ治らない。

死に帰りが死人部屋から出てきた。

ヤハラ高級参謀の指示が飛ぶ。


ゴー・ウェストの三人娘が、防御円陣カメから離れた。

死に帰りへと向かって駆け出す。

三人掛かりで、死に帰りのレイピアマンを攻撃するつもりだ。



「ヤハラくんも奮発したな」

「リュウ先生、それくらい張り込まないとカメは泥から出て来ません」

「カエデの言うとおりだ」



カエデさんの言う通り、防御円陣カメが泥から出て来た。

五人の敵は円陣を崩したのである。

こちらは五人、敵は悪羅漢の三人。そんな算盤を弾いたのだろう。


しかしこの計算は間違いを含んでいた。

悪羅漢の三人も、西洋剣術戦法をたっぷりと稽古してきているのだ。

それはどういうことか?



「へへっ、ヤルじゃん。姉ちゃんたちも」



悪羅漢の三人は背中合わせ、意趣返しの防御円陣だった。

しかしそんな餌で釣れるものだろうか? 敵の三人が防御円陣を組んだなら、スネークピットの五人は悪羅漢の三人を無視して、復活兵を救った方が良いだろう。

しかしここで彼らは悪手を選んだ。


電光版を確認したか、隊内無線を使ったのだろう。

復活兵を一旦無視。

目の前の悪羅漢三人から、ワンキルだけでも奪うという判断をしたのだ。


なるほどスネークピットの復活兵は、小手と言わず胴と言わず斬撃を受けていて、今にも防御を破壊されそうだった。

ならば五人掛かりで三人の悪羅漢を責め立てて、ポイントの挽回とキルをせめてひとつ、あわよくばふたつ奪ってやるという作戦なのだろう。

以上の説明を、カエデさんの口からメンバーたちにしてもらう。



「でででで、で? カエデちゃんはその判断をどのように評価しておいでで?」



シャルローネさんがいたずらっ子のような顔で訊く。



「最悪の手を選んだわね。そう簡単に悪羅漢からポイントやキルを奪えると思ってるのかしら? 思ってるのよねぇ……」

「そうでなければ、囮ひとりを見殺しにはしないだろうからね」

「火力の差を思い知っていないのよね。過去ログ調べたら、悪羅漢のW&Aの火力なんて、すぐに分かるはずなのに……」

「自分たちの力で、火力を封じ込めたとか思ってんじゃないのか?」

「有り得そうですねー」



そう、序盤が思い通りの展開になると、人は都合の良い夢物語を思い描きがちになる。

敵の思惑通りとも気づかず、ホイホイホイと戦線を伸ばしてしまったりしてしまう。

鼻の下を伸ばし切った顔で、自分たちはイケると勘違いしてしまうのだ。


その結果。

先ず復活兵が散々にポイントを奪われてから、死人部屋へと送られた。

そして悪羅漢の三人からはまともなポイントを奪えていない。

つまり逆転後の展開は、W&Aの思うつぼというところ。



「お、ようやく五人組が状況を把握したみたいだ」



トヨムの言うとおり、スネークピット五人衆がW&Aに背中を向けて、復活兵へと走り出す。



「させない」



まずはモヒカンによる脚攻撃、パワーあふれる一撃は防具の無い敵の右脚を不能にした。

そこから体当たりで、巻き添え込みの二人が転倒。

ライの斬馬刀が無傷な転倒兵の脚を奪う、そして駆け出した三人目の脚にも一撃。


モンゴリアンなどは得物が手槍だ、モヒカンやライよりも簡単に敵二人分の太ももを貫いている。

レイピアマンと手槍兵は、手をついて立ち上がろうとするがそれを許すライではない。

斬馬刀を薙ぎ払いながら、防具を破壊して小手を奪う。


そして、スネークピット五人衆からキルを奪わずに、生きたまま戦闘不能にしてしまったのだ。

逆転の芽は摘まれた。

後にこの飼い殺し戦法というか、生き殺し戦法は問題視され、『王国の刃』全体でルール改変の元となる。

のだが、今はW&Aの勝利ということで幕を下ろした。

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