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技巧派、スネーク・ピット

日本武術対西洋武術、その初戦は日本武術のW&Aの圧勝に終わった。



「という一戦目だったけど、敵はどう考えてるだろうね?」

「……『予想外に器用な動きをしていたな』とか?」



カエデさん。答えてくれた。



「いやいやリュウ先生、『奴らは四天王の中でも最弱……』でぃすよぉ、きっと♪」



シャルローネさんの見解は、ツルッと的外れだった。

何故なら西洋剣術プロチームは、四チームではなく三チームしかいないからだ。



「驚いてくれとったらえぇんじゃがのう」



セキトリは豪快と思っていたが、意外にも慎重派だった。



「うんにゃ、動揺なんてしてないさ。見ろよ、次の相手『スネーク・ピット』をさ」



トヨムが冷めた眼差しを向けている。

次戦の相手スネーク・ピットは、防御からの反撃が巧みなチームであった。



「アイツらの顔から察するに、『中途半端にウチの真似してきたな』、『あぁ、丁度食べ頃ってやつだぜ』ってなとこかもよ?」

「それに関してはトヨム、お前の姉上を見てみると面白いぞ」



トヨム小隊メンバーの目が、トヨムの実姉であるライ小隊長の向けられた。



「小隊長そっくりな、冷めた顔をしてますねぇ〜〜……」

「う〜〜ん……勝利に気を良くして、ノリノリのニコニコなら、やりやすいのになぁ〜〜……」



マミさんはよく見ていた。そしてカエデさんの目は参謀の目である。



「あの目で見られたら、カエデさんはどんな手を打つかな?」

「私なら、小隊長に『へるぷみ〜』の目を向けます。きっと小隊長なら私たちを鼓舞して、それでいて浮かれさせないでしょうから」

「うへぇ、アタイアドリブ芸をみせるのか?」

「それができちゃうから、小隊長は根っからの『大将芸人』なんですよ♪」



それは言える。

大胆さは勝利に必要不可欠だが、慎重さも必要である。

それを塩梅よく采配できるのは、私よりもトヨムだろう。


なぜならトヨムは小隊のために腹を切れる。

私はダメだ。年齢的にも地位の面でも守りに入っている。

ポジションで言えば私はもう、自分の過ちを認めさせてもらえないのだ。


とまあ、中年の嘆きなどどうでもよろしい。

それよりも前戦を観ていながら、平然としているスネーク・ピットだ。



「試合前の打ち合わせも、ロクにしてないな……」



野獣のような視力を誇るトヨムが言う。



「W&A対策は、もうできとるっちゅうことかい」



セキトリは面白くなさそうだ。

しかし試合場コートへと両軍がコールされる。

リング中央で両軍向かい合わせ、ルール確認を受ける。

敵は片手剣レイピア四、手槍が二。


さてこのメンバーで、どのような出方をしてくるか……。

両軍自陣に戻り、運営が様々な機能をチェック、チェック、チェック。

そして、ゴング!!


両軍接近、そしてリング中央で間合い。

しかし、すでに敵のレイピアも手槍も足を止めて下段を取ってしまった。

ギリッ……ライの歯ぎしりが聞こえてきそうだ。


遅れてW&Aも下段、しかしすでにスネーク・ピットは下段でにじり寄ってきている。

初手から後手、それも後の先ではなく後手をふまされている。

守りの形、それがそのまま攻めの形となっている。


それがどうしたと感じる読者もおられようが、簡単に説明しよう。

W&Aがやりたいことを、いちいち先んじられているのだ。

我らがプロチームとしては、やりにくいことこの上ないだろう。


W&Aも下段、モヒカンにいたっては、股間を守るような形でトマホークをクロスしている。

そしてスネーク・ピットの下段は、プレッシャーをかけるように前へ前へにじり寄ってきた。

ここは我慢だ、仕掛けるな。今こそ後の先を狙うとき。



「ここは……俺が……」



現状を打破するためか、モヒカンが前に出てしまった。

サッと振られる片手剣、一人はモヒカンのトマホークを押さえ一人はモヒカンのスネに脚に攻めの刃をいれる。

しかし攻めの二人は瞬時に後退。


その二人に攻撃を入れようとしたヨーコさんとさくらは、思わず突んのめる。

そこへパッと閃くような片手剣レイピアの刃。

先制点に続き、またポイントを奪われた。



「おやおや、これはまた先程とは正反対な展開だね」

「はい、自分たちのやりたい事を先にやられてしまってます」

「こんなときトヨムならどう指示する?」


「無理に攻め込まない、足を使わせる」

「それで良いかな、カエデさん?」

「良策かと。とりあえず今ごり押ししても、手傷を増やすだけだと思います」



自軍なので、ヤハラ高級参謀の指示が部隊無線で聞こえてくる。



「今は攻め急がずに、まずはリズムを作りましょう。走って走って、踊って踊って♪」

「分かったよ、高級参謀どの」



そう言ってライは斬馬刀を下段へ。

まずはそのまま、敵の間合いを出たり入ったり。



「じゃあ……俺も……」



モヒカンもトマホークを下でクロスして、巨体に似合わぬ軽やかなフットワークを見せた。

時折、輝く細線がライやモヒカンをかすめそうになる。

が、ポイントは与えていない。


時にダンスのような足さばきで、時にボクサーのボディーワークのように頭を振って、二人は白刃を逃れていた。

残りの四人は? 左右に散開した。

包囲戦というのではないが、左右の手槍二人をご存知の二人一組ツーマンセル作戦で潰すつもりだ。


自然とライにモヒカン、この二人で片手剣レイピア四人の相手をすることになった。

しかしスネーク・ピット、W&Aほどツーマンセルには慣れていないのだろう。

かっきり二人二人に分かれて、モタついてしまっている。



「トヨム、どう思う?」

「愚策だね、アタイなら三人と一人に分かれて、即座に一人死人部屋へ送る」

「いや、ワシはスネーク・ピットが二人一組戦法を使っとることに驚いとるんじゃが」

「まあ、研究くらいはされてますよね」



でも、練度が浅いとカエデさんは切り捨てる。



「二人一組の戦法は真似できても、小隊長の言うような三人と一人に分かれるとか、そうした稽古にまでは手が届かなかったんでしょう。今回は運が良かったです」


結局のところ四人の主力、レイピア使いはライとモヒカンに引きずり回されている。

つまり、左右を固めていた手槍の二人は四人を相手に闘わなければならなくなった。

ところがどっこい、この手槍の二人がなかなかポイントを許してくれない。


ちょこちょこ後退しては間合いを外し、上手く主導権を握っているのだ。

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