表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

560/724

弱者が強者に勝つためには

ここでフィー先生、キョウちゃん♡、御門芙蓉に対するヨーコさん、モヒカン、さくらさんチームが面白い動きを始めた。

一撃離脱戦法の連続である。

例えばモヒカンがフィー先生へと間を詰める。


当然フィー先生はこれを迎撃するだろう、しかしモヒカンはこれを防ぐ。

その間にヨーコさんがフィー先生に攻撃。

モヒカンはすでに離脱、御門芙蓉へと向かう。


ここでも迎撃されるが、フィー先生から離れたヨーコさんが御門芙蓉を襲う。

そしてさくらさんがフィー先生に攻撃を仕掛ける、という形。

とにかく人が入れ代わり立ち代わり、アマチュアチームからすれば常に新手を迎える形に組み込んでしまっている。


もちろん三人対三人。

連環の無限ループとまではいかず、息継ぎのような間が発生はする。

発生はするがしかし、アマチュアチームとしては面白い展開ではない。


ペースを握られ、常に後手に回されているのだ。

個人個人での力量は、それ相応にあるはずなのに。

そのはずなのにペースが掴めない。


これが集団戦法というものだ。

一人ひとりの火力は劣っていても、それを補って余りある活躍ができる。

それが連携というものなのだ。


と、偉そうに語ってしまったが、これは私の発案ではない。

私でもありません、とカエデさんは言う。



「おそらくヤハラ高級参謀でしょう」



そう、こっそりと盗み見れば高級参謀のヤハラくん。

ひた隠しに隠しているつもりであろうが、それでも注がれる眼差しは熱い。

そして参謀長である出雲(仕事しろ)鏡花は、涼しい顔である。

おそらくこの戦法に、関わりが無いのだろう。



「あ、リュウ先生。ライ小隊長チームも、同じ動きを始めました」



打って離れて、離れては打つ。

とにかく動く動く、走る走る。

そうして敵にペースとポイントを与えず、カスダメとはいえ敵からはポイントを奪う戦法なのだ。



試合巧者なさくらさんとヨーコさん、そして社会人である悪羅漢の三人。

このメンバーだからこそできる連携プレイなのだろう。

それが証拠、腕は立っても大会経験に乏しいキョウちゃん♡などは、剣に力みが入っていた。


比良坂瑠璃からキルを奪っていたので、すでにポイントは逆転している。

そのポイントが細かいヒット数で、ジリジリと突き離されてゆく。

しかし黙ってポイントを離される手練どもではない。


フィー先生と御門芙蓉、八相。ユキさんと輝夜さんは脇構え。

プロチームの未熟者どもは、ついに手練たちに必殺の構えを取らせたのだ。

ここで一気に四キルを狙っているのは間違いない。



「敵は必殺の構えだ!! 打ち合わせ通り、せ〜のっ!」



ライの号令だ。



「逃げろ〜〜っ!」



三人対三人の陣形などどこへやら、プロチームは一斉に背中を見せて逃げ出した。

下品な笑い声がした。

誰かと訝しんで見てみれば、笑い声の主は出雲鏡花であった。

名家のお嬢さまでも、こんな場所ではこんな笑い方をするものらしい。



「だが、笑い事ではないようだね」

「あ、ホントですねリュウ先生」



カエデさんも気づいたようだ。

ものの見事にプロチームは、六人で六人を囲んでいたのだ。

同数で包囲陣かよ、などと言うなかれ。私たちはすでにプロチームの連携攻撃、車掛りの陣をみていたではないか。


しかも今度は永久機関、息継ぎの間さえ無くなったのだ。

ただひとつ、問題を上げるとすれば。



「誰が一番槍入れるんだろな?」



トヨムの言う通りである。

数が同じなので、死に番同然の一番槍を誰かが買って出なくてはならない。

そしてトヨムは続けた。



「ま、考えるまでも無いか」



そう、こんなときにこそ、魁(先駆け)隊長は必要なのだ。



「ヨシみんな! やってやろうぜ!!」



プロ隊長のライが声を出す。

そして飛び出した。めざすは難敵のユキさん、実力差は絶対だ。

ユキさんは難敵であり軟敵。

ありとあらゆる状況に対応できて、なおかつその技は草薙士郎仕込み。



「だからどうしたってんだ、コンチキショーーッ!!」



相討ち、共倒れを最上とする草薙神党流。

そこへ命こそ標的としてライが突っ込む。

ユキさんからすれば注文相撲だ。


しかし、勢いが違う。従来の剣術の飛び込みではない。

あ、こりゃダメだ。

率直に感じる。

戦気横溢であるはずのユキさんが、狂気の突撃に呑まれてしまった。



「斬ってみろや、このっ!!」



頭上無防備、ただの青眼でライが突っ込む。切っ先をからめて何かを仕掛けるというものでもなし。

ただ命を投げ出して突っ込んだ。

ピッ……すこしばかり刃が、ユキさんの小手をかすった。

その瞬間にライは横っ飛び。ユキさんの制空権を逃れて、これまた難敵中の難敵である白銀輝夜へと突撃する。


それを契機に、アマチュアチームを囲む円が動き出した。

ユキさんと同じ軟ブツのさくらさんが突き込む、そしてモヒカンの肉弾戦。



「戦さは火力じゃない、勢いだっ!!」



現代青年が聞いたら泡を吹いて倒れそうなことを、ライは言ってのける。

そしてそれを現実のものとしているところが恐ろしい。

あのユキさんが、白銀輝夜が、フィー先生までもが勢いと波状攻撃に押されているのだ。


そして終戦の銅鑼。

まだ試合時間は残っているのだが、カエデさんが終わりの銅鑼ゴングを鳴らしたのだ。

その理由を、カエデさんは無情に語る。



「もう、逆転はできませんよね?」



返す言葉など無い。



「でしたらここで、ファイト イズ オーヴァーです」

「だけどカエデ参謀!」



食い下がろうとするユキさんの唇を、カエデさんはそっと指先で抑える。



「貴女の活躍の場は、ここではありません。だから今日の勝ちはプロチームに譲って、明日の勝ちを模索しましょう。約束します、私がみなさんを勝ちへと導きますから」



重責あるカエデさんにそこまで言われて、返す言葉などあるはずもない。

さすがにユキさんも鉾を納めた。



「しかし参謀どの。具体的に我々の勝ち筋はどこにあるものやら」



白銀輝夜の疑念ももっともだ。

カエデさんの言葉は漠然とし過ぎている。



「簡単なことですよ。その答えは、意思疎通です。陸奥屋まほろば連合が百五十人いたなら、百五十人全員が同じ目的と同じ手段を持ち、同じ目標へと進むだけです」



言い方を変えると、人はそれを軍国主義ファシズムとも呼ぶだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ