弱者が強者に勝つためには
ここでフィー先生、キョウちゃん♡、御門芙蓉に対するヨーコさん、モヒカン、さくらさんチームが面白い動きを始めた。
一撃離脱戦法の連続である。
例えばモヒカンがフィー先生へと間を詰める。
当然フィー先生はこれを迎撃するだろう、しかしモヒカンはこれを防ぐ。
その間にヨーコさんがフィー先生に攻撃。
モヒカンはすでに離脱、御門芙蓉へと向かう。
ここでも迎撃されるが、フィー先生から離れたヨーコさんが御門芙蓉を襲う。
そしてさくらさんがフィー先生に攻撃を仕掛ける、という形。
とにかく人が入れ代わり立ち代わり、アマチュアチームからすれば常に新手を迎える形に組み込んでしまっている。
もちろん三人対三人。
連環の無限ループとまではいかず、息継ぎのような間が発生はする。
発生はするがしかし、アマチュアチームとしては面白い展開ではない。
ペースを握られ、常に後手に回されているのだ。
個人個人での力量は、それ相応にあるはずなのに。
そのはずなのにペースが掴めない。
これが集団戦法というものだ。
一人ひとりの火力は劣っていても、それを補って余りある活躍ができる。
それが連携というものなのだ。
と、偉そうに語ってしまったが、これは私の発案ではない。
私でもありません、とカエデさんは言う。
「おそらくヤハラ高級参謀でしょう」
そう、こっそりと盗み見れば高級参謀のヤハラくん。
ひた隠しに隠しているつもりであろうが、それでも注がれる眼差しは熱い。
そして参謀長である出雲(仕事しろ)鏡花は、涼しい顔である。
おそらくこの戦法に、関わりが無いのだろう。
「あ、リュウ先生。ライ小隊長チームも、同じ動きを始めました」
打って離れて、離れては打つ。
とにかく動く動く、走る走る。
そうして敵にペースとポイントを与えず、カスダメとはいえ敵からはポイントを奪う戦法なのだ。
試合巧者なさくらさんとヨーコさん、そして社会人である悪羅漢の三人。
このメンバーだからこそできる連携プレイなのだろう。
それが証拠、腕は立っても大会経験に乏しいキョウちゃん♡などは、剣に力みが入っていた。
比良坂瑠璃からキルを奪っていたので、すでにポイントは逆転している。
そのポイントが細かいヒット数で、ジリジリと突き離されてゆく。
しかし黙ってポイントを離される手練どもではない。
フィー先生と御門芙蓉、八相。ユキさんと輝夜さんは脇構え。
プロチームの未熟者どもは、ついに手練たちに必殺の構えを取らせたのだ。
ここで一気に四キルを狙っているのは間違いない。
「敵は必殺の構えだ!! 打ち合わせ通り、せ〜のっ!」
ライの号令だ。
「逃げろ〜〜っ!」
三人対三人の陣形などどこへやら、プロチームは一斉に背中を見せて逃げ出した。
下品な笑い声がした。
誰かと訝しんで見てみれば、笑い声の主は出雲鏡花であった。
名家のお嬢さまでも、こんな場所ではこんな笑い方をするものらしい。
「だが、笑い事ではないようだね」
「あ、ホントですねリュウ先生」
カエデさんも気づいたようだ。
ものの見事にプロチームは、六人で六人を囲んでいたのだ。
同数で包囲陣かよ、などと言うなかれ。私たちはすでにプロチームの連携攻撃、車掛りの陣をみていたではないか。
しかも今度は永久機関、息継ぎの間さえ無くなったのだ。
ただひとつ、問題を上げるとすれば。
「誰が一番槍入れるんだろな?」
トヨムの言う通りである。
数が同じなので、死に番同然の一番槍を誰かが買って出なくてはならない。
そしてトヨムは続けた。
「ま、考えるまでも無いか」
そう、こんなときにこそ、魁(先駆け)隊長は必要なのだ。
「ヨシみんな! やってやろうぜ!!」
プロ隊長のライが声を出す。
そして飛び出した。めざすは難敵のユキさん、実力差は絶対だ。
ユキさんは難敵であり軟敵。
ありとあらゆる状況に対応できて、なおかつその技は草薙士郎仕込み。
「だからどうしたってんだ、コンチキショーーッ!!」
相討ち、共倒れを最上とする草薙神党流。
そこへ命こそ標的としてライが突っ込む。
ユキさんからすれば注文相撲だ。
しかし、勢いが違う。従来の剣術の飛び込みではない。
あ、こりゃダメだ。
率直に感じる。
戦気横溢であるはずのユキさんが、狂気の突撃に呑まれてしまった。
「斬ってみろや、このっ!!」
頭上無防備、ただの青眼でライが突っ込む。切っ先をからめて何かを仕掛けるというものでもなし。
ただ命を投げ出して突っ込んだ。
ピッ……すこしばかり刃が、ユキさんの小手をかすった。
その瞬間にライは横っ飛び。ユキさんの制空権を逃れて、これまた難敵中の難敵である白銀輝夜へと突撃する。
それを契機に、アマチュアチームを囲む円が動き出した。
ユキさんと同じ軟ブツのさくらさんが突き込む、そしてモヒカンの肉弾戦。
「戦さは火力じゃない、勢いだっ!!」
現代青年が聞いたら泡を吹いて倒れそうなことを、ライは言ってのける。
そしてそれを現実のものとしているところが恐ろしい。
あのユキさんが、白銀輝夜が、フィー先生までもが勢いと波状攻撃に押されているのだ。
そして終戦の銅鑼。
まだ試合時間は残っているのだが、カエデさんが終わりの銅鑼を鳴らしたのだ。
その理由を、カエデさんは無情に語る。
「もう、逆転はできませんよね?」
返す言葉など無い。
「でしたらここで、ファイト イズ オーヴァーです」
「だけどカエデ参謀!」
食い下がろうとするユキさんの唇を、カエデさんはそっと指先で抑える。
「貴女の活躍の場は、ここではありません。だから今日の勝ちはプロチームに譲って、明日の勝ちを模索しましょう。約束します、私がみなさんを勝ちへと導きますから」
重責あるカエデさんにそこまで言われて、返す言葉などあるはずもない。
さすがにユキさんも鉾を納めた。
「しかし参謀どの。具体的に我々の勝ち筋はどこにあるものやら」
白銀輝夜の疑念ももっともだ。
カエデさんの言葉は漠然とし過ぎている。
「簡単なことですよ。その答えは、意思疎通です。陸奥屋まほろば連合が百五十人いたなら、百五十人全員が同じ目的と同じ手段を持ち、同じ目標へと進むだけです」
言い方を変えると、人はそれを軍国主義とも呼ぶだろう。