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決戦開幕

今回は少し短い更新ですが、明日からは血の雨が降ります。

 決戦当日、午後六時。私たちチーム『嗚呼!!花のトヨム小隊』は誰ひとり欠けることなく拠点に集まった。陸奥屋本店集合、一時間前である。ここで私は各々《おのおの》の得物をメンテナンスに出させた。システム的にはゲーム内通貨を支払うだけで、メンテは完了だ。

 それが済むと、トヨムが前に出た。



「いよいよ決戦だ。アタイたちはクランの結成以来今日この日のためによく励み、よく鍛えてきた。だけど戦さって奴は絶対に思い通りになんかならない。これは危機か? と思うときがあるだろう。負けるかもしれない、と感じるときもあるだろう。だけど心配するな、きっと旦那……リュウ先生が頑張ってくれる。そしてアタイがいる。諦めるな、食らいついて食らいついて食らいついて、敵を泥沼に引きずり込んでやれ。泥沼の中じゃ、稽古してきたやつが絶対に勝つ。ヘコキに囲まれても、絶対に諦めるな! 以上!」



 午後六時三〇分、陸奥屋本店へ移動。ここまでの情報では、イベント参加者は東西合わせて二万三千人を超えていると聞いていた。一軍一万千五〇〇名の軍勢。それに挑む烈士陸奥屋一党はわずかに三十六名である。これでまともな戦さ働きができるのであろうか?


 常識的には無理である。しかし陸奥屋一党総裁鬼将軍は、そのようなことなど露ほども思っていなかった。



「精鋭陸奥屋一党諸君、いよいよ決戦のときが来た! 今日この日に備えある者は鍛え、ある者は磨き、大いに励んできたことと思う! これから三日間、その成果を存分に発揮して欲しい! ひとりは陸奥屋のために、陸奥屋はひとりのために! 以上!」



 一人ひとりに幟が支給された。マルに三つ引きの鬼将軍の家紋が入って、陸奥屋一党と染められている。その下に私の幟には『嗚呼!!花のトヨム小隊』と入っていた。士郎先生のは『鬼組』とある。もみくちゃの戦場で撤退しても、このの幟目指して駆けてくれば、仲間に合えるということだ。


 さらに一党全員に羽織が支給される。黒染めの羽織だ。これもまた、洋風の甲冑武者の中では目立つことであろう。羽織を着込んで、みなタスキをかけた。



「それでは各々方、出陣する!」



 マルに三つ引きの大旗を掲げるのは、タキシードに羽織という老執事氏。その後に鬼将軍と本店一行。二番手は鬼将軍の懐刀ともいえる鬼組。私たちトヨム小隊は最後尾であった。目指すはコロシアム。ここに広大な戦場が用意されているのだ。イベントに参加する者たちであろう。揃いの甲冑で行列を作ってコロシアムを目指す連中があちこちで見受けられた。赤揃いと黒拵えが圧倒的に多かった。しかし和装の集団というのは、私たち陸奥屋一党だけである。


 コロシアム前には、すでに人だかりができている。しかしその人だかりも、一瞬で姿を消してしまった。どうやら戦場へ運ばれたらしい。私たちもコロシアム前の広場に入る。アナウンスがあった。これからイベント会場へと転送されるらしい。そしてカウントダウンから、一瞬の暗転。


 次に眼の前に広がったのは広大な草原と、組み上げられたヤグラ。さらにはるか彼方の本丸陣地。このヤグラを守りながら、敵のヤグラを攻め落とすのだ。ルール解説のアナウンスが流れている。試合時間は本日金曜日から日曜日までの、午後七時から午後九時まで。勝敗の決定は本丸を落とすか、ヤグラの陣地をいかに数多く落とし、長時間占領を維持するか。


 拠点、陣地の占領は、ヤグラあるいは本丸の半径五〇メートル以内、光を放つエリアにより多い人数を押し込んだ側の占領とする。本丸が落とされた場合は状況をリセット。もう一度最初から試合が始まる。そして二日目、三日目のスタートは、前日最終状況からのスタートとなる

 おおむね、事前に仕入れていた情報と同じだ。そして眼の前の上空には、巨大な懐中時計が浮かんでいる。試合開始、十五分前。



「陸奥屋一党、突撃陣形」



 鬼将軍が低く命じた。トヨムを見る。小さくうなずいてくれた。突撃陣形の先頭は私と士郎先生だ。そしてそれぞれの斜め後ろに、小隊が顔を並べる。すぐ後ろには力士組、そして吶喊組。さらに配合には抜刀組と槍組だ。



「参謀、私たちの配置はどこになっているかな?」




 参謀くんがスクリーンを広げる。

「はい総裁、我々陸奥屋一党はフィールドの左端。最前線のヤグラを守る場所に配置されています」

「これは運営の采配かね?」

「おそらくそうでしょう。そうでなければ我々を外様に配置する理由がみつかりません」

「案外上位プレイヤー……無双格にふんぞり返っている連中が、私たちを知らないだけではないのかね?」


「その可能性はあります」

「ならば奥でふんぞり返って美味しいところだけ持っていこうとするゲスどもに、本物の男の戦いというものを見せてやろうではないか」

「それは無理でしょう、総裁」

「なに?」


「連中は勝てば自分の手柄、負ければ味方が不甲斐ないと考えるゲスですから」

「そこまで腐っているのかね? この世界は……」

「王国の刃だけではありません。ネットゲーム全体がそんな風潮です」

「嘆かわしいな、参謀……」


「嘆く鬼将軍なのですか? だらしないですね」

「なにをコクか、大矢参謀! この突撃陣形をみて、なおそのような寝言をほざくかっ!」

「言葉が過ぎました、お許しください総裁」



 しかたないな、と言って鬼将軍は鉾を収めた。



「では参謀、初手はどう行くかね?」

「それを私に訊きますか、総裁?」

「もちろん攻めて攻めて攻め抜くのだろうな?」


「ただ、一度占拠したヤグラは防衛維持することはお許しください」

「そうだな、血を流して得たヤグラを手放して浮気をするのはよろしくない」



「だそうだ、士郎先生」

「まあ、俺たちに楽は無い。というか、俺たちの働きで、東軍を勝ちに導くかどうかが決まると言っていいだろう」

「ずいぶんと大きく出ましたな」


「イベントはいつもヤグラをひとつ取れるかどうかできまっている。ならばキサマ俺でヤグラをひとつ守り抜けば、おのずと勝利が転がってくるってものよ」

「撤退する気、さらさら無しかい?」


「ほ? リュウ先生は撤退するキサマかよ?」

「まさか、むしろキサマとのポイント争いを所望する所存よ」

「その意気や、ヨシ! しかしリュウ先生、邪念は捨てろよ?」

「誰にモノ言ってやがる」





 間もなく、合戦始めの号令がかかる。


あ、まだ開幕してない……。

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