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成長

片手剣での戦闘。

もちろん私が用いているのは日本刀なので、西洋剣とは趣きが違う。

しかし刀剣を片手で扱い戦闘するというのは、ちょっとどうかと私は思う。


身体は敵に対して真半身。

つまり側面の敵からすればまったくの無防備。

背中も胸もガードがら空きなのである。


しかも足幅も日本剣術に比べると広めだ。

これでは複数の敵に囲まれると、対処のしようがなくなってしまう。

そこでポン太も考えた。


私なりに考えてみた。

構えの歩幅を狭くして、踏み込みの歩幅も小さく細かく継いで継いで。

決して大きくは踏み込まない。


人間誰しも攻めや攻撃の一手は、鋭く大胆に行きたいところだろうが、そこを欲張らない。

丁寧に丁寧に敵の攻撃を受けていなして、敵の防御を払って崩して。

そしてようやく敵の本丸に一撃を突き込むのである。


なるほど、ある意味日本武道の一撃必殺主義を笑いたくなるような手間と仕込みだ。

こんな面倒なことの積み重ねで、ようやくちょこんとダメージを与えるのだから、その辛抱強さには頭がさがる。

だが考えてみよう。


ボクシングの世界タイトルマッチなどは、三分十二ラウンド制。

三十六分間プラス一分間のインターバルが十一回も挟まれているのだ。

その間に連打連打の展開もあるだろうけど、序盤などはラウンドを二つも三つも丸々使って、敵を削ったり崩したり。


丁寧なジャブを差し合って、誘ったり騙したりの連続ではないか。

REAL.

ボクシングをそのように呼称する者もいる。

夢物語のような一撃必殺を追いかけるのではなくて、徹底的な現実主義と捕らえているのだ。


ならば西洋剣術、こちらもそうした形でのリアルと呼べるかもしれない。

だが覚えておくが良い、西洋剣術諸君。

ジャブの差し合いといった技術戦がリアルなら、いきなりの一発で試合が終わるのもまたリアルなのだ


ということで、お遊びはお終いだ。刀を両手で構える。

胴田貫をサッサッサッと三回横なぎ。

首を斬られたアイドルさんたちが悲鳴をあげて消えてゆく。


木刀ならば、それなりに打ち込まなければならなかっただろう。

しかし私の差料は真剣であった。

そのせいかずいぶんと楽にキルが奪えた。



「参謀長、参謀長!! リュウ先生が大人げなく、キルを取りに来たわよ! 増援はまだっ!?」

「復帰兵はトヨム小隊長と交戦中! 距離を取って耐え忍んで!!」

「全員リュウ先生からアーーッ!!」



参謀長からの指示など、全体に行き渡らせてなるものか。

というところで銅鑼が打ち鳴らされた。

良い成果の出た稽古だったと思う。


みな良く連絡し合って、参謀長の指示に従っていた。

勝ちなど最初から見込めない戦い、というか勝ちを目的とした稽古ですらなかったのだから。

しかしその評価は、カエデさんの仕事である。



「う〜〜ん、作戦に練るべきところはあったけど。それでも連絡や報告は迅速で適切でしたね」



鬼のカエデさんからの評価は、悪くないようだ。



「ですがこれから先、どんな敵が現れるかわかりません。夢々怠りのないように」



まずは良し、というところである。

そしてその翌日、株式会社オーバー代表取締役から、VTuberの他団体『誤字脱字』との六人制試合が正式に発表された。







「おう、リュウさん。いよいよ発表されたな」



陸奥屋まほろば道場に赴くと、プロ選手たちの稽古を見ている士郎さんに言われた。



「あぁ、まだ本格的なリーグ戦という訳ではないが、とうとう動き出したよ」

「俺からすればようやくって感じだが、旬は過ぎてないだろうな?」

「これでも早い方さ。先行した株式会社オーバー、後を追う他団体。どれだけ追いつけるのか、あるいはオーバーアイドルに勝利するにはどうすれば良いか? 手習いするならどこの誰から、何を学ぶか? そしてルールの決定だ」

「ま、楽ではないか……」


士郎さんも納得してくれたようだ。



「それよりもプロ選手の方だけど、仕上がりはどうだい?」

「それこそ軽さが身についてきたよ。上々の仕上がりだ」



実戦練習スパーリングの相手六人は、キョウちゃん♡、ユキさん、白銀輝夜。フィー先生に御門芙蓉と比良坂瑠璃。実力者揃いのメンバーである。

もちろんこの六人、それぞれが刀に薙刀と得意の得物を手にしている。



「だが、剛腕使いばかりだな」

「そうでもないぜ、アマチュアメンバーも西洋剣術のことは随分と意識している」

「ということは?」

「まあ、連中の仕上がりも見てやってくれや」



ということで銅鑼ゴング

両陣営合わせて十二人が軽快な足取りで接近する。



「頭をゆらさないナンバではあるけど、随分と軽快だね」



リズムが西洋剣術のようだ、という意味で言った



「だがやはり古流なのさ」

「わかる」



キョウちゃん♡も白銀輝夜も、決して器用なタイプではない。

しかし軽快な動きというものを、自分なりに噛み砕き飲み下し、そして血肉としたのだろう。

悪くない立ち上がりだった。


対するプロチーム『W&A』も足取りは軽く、殺しは狙っていないかのようだ。

まずはプロチーム、モヒカンを前に立てての陣形。

二丁トマホークという近間の彼を囮にする戦法のようだ。


当然のように、御門芙蓉と比良坂瑠璃。

薙刀コンビがこれに襲いかかる。

が、手槍のさくらさんと薙刀のヨーコさんがそれを許さない。


サッと妨害に入って先制点を阻んだ。

一旦は身を引いた御門芙蓉と比良坂瑠璃。

そこにつけこむのが斬馬刀のライと士郎さんの愛弟子であるヒカルさん。


得意の居合で深々と斬り込んだ。

そこへ真っ向から受けて立つのが、ユキさんとキョウちゃん♡だ。

とりあえず、アマチュアチームの先制攻撃は失敗という形である。



「ふむ、どちらも上手くなったね」



両軍の初手を評価した。

ヒット&ラン、パッと攻撃してサッと退く。

いままでの猪武者といった無鉄砲さが、影を潜めている。



「走るよ走るよ、上手いことやろう!」



ライが声をかければ。



「お互い声をかけ合ってね。連携とっていこう」



フィー先生もメンバーをコントロールしている。

私も心の中で声を出す。

まだ始まったばかりだ、丁寧に行こう、と。

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