そして対策も考慮
そして重要なことだが、スネークピットもライオンズ・デンもプロチームをデビューさせており、シルバー・コンドル同様講習会を開催してその勢力を拡大中ということが、勝利者インタビューで語られていた。
「ニッポンのサムライに西洋の騎士。どちらも何かと人気の戦士だからな」
フジオカさんがもらすと、士郎さんが続ける。
「それにしても、日本人で西洋剣術に手を染めるってのは理解できんな」
私は答える。
「それこそ好みの問題ではないかな?
例え日本で剣を学んだとしても、西洋剣術がしっくり来るとか。剣道剣術で抱いた疑問が、西洋剣術で解消されたなんてことはざらにありそうな話さ」
そこは士郎さんも納得してくれたようだ。
「確かにな、振りかぶって手の内学んで斬る技術を練るよりも、刃物を手首でクルクル回す方が上達も早い気がする」
そう、中国武術などもそうなのだが日本古武道もしかり。
先に述べたような理由で、簡単にモノを教えたりしないような『秘密主義』な面がある。
熱心に稽古を積んで一途に上達を願いして、すべてを門派に捧げるような勢いでなければ、簡単に技を授けたりはしないのだ。
しかも、ただただ一直線であれば良い訳ではない。
技を正しく学び術を正しく使える段階に至らなければ、次への一歩は許されないというのだから、令和少年にはたまったものではなかろう。
読者諸兄も聞いたことはないだろうか。
立てぬ赤子に歩みは教えぬ。歩めぬ赤子は走らせぬ。
ひとつの段階をキッチリと習得しなければ、次の技へは繋がらないのである。
「まるで我々が間違っているかのような評価ですなぁ」
フジオカさんはこぼす。
「いやぁ、そりゃあ我々が正しいなんぞと言ったら、神鳴りが落ちてきて俺たちは真っ黒コゲさ」
士郎さんは豪快に笑う。
「士郎さんの言うとおりですよ。我々の技術はトロフィーにも賞状にも縁がない、どこにも使い道が無く行き場も無い。だがそれでも自信を持って言える。我々は存在していなければならないのだ、と」
そう、古流剣術など、もはやどこにも居場所はない。
今一度、刀剣の時代へ差し替わるということもあり得ない。
競技に姿を変えて生き残りを計った時点で、古流ではなく競技となってしまう。
その時点で流派は息絶えるのだ。
だが見てみろ、我々を。
今このゲームという世界でその存在が光り輝いているではないか。
ゲームという世界ではあるが、その恐ろしさを遺憾なく発揮できている。
そして距離という制約を飛び越えて、日本中世界中どこに住んでいる者に対しても、その教えを繋げることができている。
「だから、令和の時代であっても我々の存在する理由はあるのさ」
メダルにもトロフィーにも縁がない鬼神館柔道。
ただ一途に、柔道母国日本の名誉のためにだけ技を磨き続ける集団。
というか私塾。
報酬も名誉も出世すら省みない、サムライ柔道であり鬼の柔道。
そんなフジオカさんだからこそ、道場の若者たちの行く末を案じたのだろう。
「まあ、いずれにせよ、だ」
士郎さんが仕切り直す。
「俺たちの仕事は古流の行く末を案じることじゃない」
「左様、三団体出てきた西洋剣術。この特徴と対策を講じることにある」
フジオカさんも憂いを拭い去った。
「では両先生方の見解や、如何に?」
私はフジオカさんに目を向けた。剛の者は答える。
「特徴に関しては先に述べたとおり、剛のライオンズ・デンに柔のスネークピット。間を取ったシルバー・コンドルというところ」
「この中でも与しやすきは、ライオンズ・デンだろうな。剛の太刀同士で相性が良さそうだ」
士郎さんの判断に、私も納得。
そして返答する。
「逆にもっとも相性の悪そうなのが、スネークピットだろうね。日本武術には無い動きが、あまりにも多すぎる」
「それとてやりようはありましょう?」
フジオカさんの言葉に返すのは、士郎さんだ。
「しかも簡単至極。『押さば押せ、引かば押せ』、技もへったくれも出来ないうちに叩け、叩け! 叩け!! さ」
賢い者には理解できないだろうが、これがまた『戦サ心得ヘ』の肝とも言える要なのだ。
士郎さん風に言わせてもらうならば、「戦さなんてもんは策略でも戦術でもねぇ、気合いだ!!」というところである。
なにしろ気合いなどというものは、ロハで注入できるもの。
ならばこの時点で負けてなどいられない。
気合い、根性、精神力。
ここで敵を凌駕できるものならば、大いに凌駕しておくべきだろう。
技は力の中にありが正義ならば、戦術策略は気合いの土台あってこそ、も正義なのだ。
そしてその気合いと根性と精神力は、陸奥屋まほろば連合に余りあれど不足無しである。
だから参謀たちの策略戦術に、すぐさま搭乗できるのである。
「そしてここが面白きところ」
フジオカさんはピシャリと決めた。
「敵に二人一組は無し。気迫と戦術で、現在のところ我々が圧倒的リード」
そこにも異論は無い。
陸奥屋まほろば連合の勇猛果敢な攻撃、そして二人一組の戦術。
さらには戦さ前に立てられる参謀たちのグランドビジョンがあれば、ほぼほぼ勝ちは確定だろう。
しかし、しかしだ。
「だがねぇ、ゴリ押しで圧勝確定ではあるのだけどしかし。この一戦もまた世界中の注目を集めるはずだ。あまりの圧勝もどうだろうか?」
「そうなると」
士郎さんはボヤく。
「俺たち『災害先生』は、鬼将軍親衛隊にでもなるのかい?」
「おそらくは」
士郎さんは不満そうな顔をしたが、私から言わせてもらえば『いつまで最前線に出るつもりだ』、といったところだ。
いつまでも私たちが敵を蹴散らしていては、対戦相手も面白くなかろう。
現にトヨム小隊も鬼組も、今では六人制試合からすっかり遠ざかっている。
年に二回のイベントも、『陸奥屋がいるチームが勝ち決定じゃん』などと言われぬよう、対戦相手を決めてガッチンコの正面衝突をするのみである。
そろそろ若い世代を主力としたチーム編成でも良いのではと、今の私は思っている。
べ、別に白樺女子校に負けたからじゃ、ないんだからねっ!!
「ということで、納得いただけるかな?」
「そうさなぁ、スリルとサスペンスはリュウさんとの一騎討ちで満足しとくか」
ようやく納得してくれたようだ。
しかし、フジオカさんがフッフッフッと不敵に笑う。
「そんな面白いイベント、二人だけでお楽しみとは感心しませんね。今年からは、私も混ぜていただこうか」
おぉ、巴戦ですか。悪くない。
「いいね、そう来なくっちゃウソだぜ」
「こりゃ稽古にも熱が入りますな」
で、来たる夏イベントでは、陸奥屋まほろば連合は如何に立ち回るべきか。
「問題は陸奥屋が西洋剣術と相対する機会が、一度ではないことだね」
「「一度ではない?」」
私が言うと、士郎さんとフジオカさんの二人は訝しんだ。
「そう、まず初対決はプロ試合。W&Aが下剋上をねらうシルバー・コンドルを迎え討つ試合。もしかしたらスネークピットやライオンズ・デンも、ここに間に合わせて昇格してくるかもしれない」
「二度目は?」
フジオカさんが訊いてくる。
「私たちが世話をしている株式会社オーバー所属のアイドルさんたちさ。ここも油断はできない、年末の大興業でオーバー・アイドルたちは、他団体から挑まれる可能性が否めない」
「というか、話題作りを考えたら当たり前にそうするだろうな」
箝口令が敷かれているので不明瞭な説明だったが、士郎さんも理解が早い。
「他団体が私たち、日本武術集団に教えを請うとは考え難い。そうなると身につけてくるのは……」
「西洋剣術だな」
「そうとは限らないぜ」
フジオカさんの断定に、士郎さんが異を唱える。
「日本には薙刀もあれば槍道なんてものもある。銃剣道だってあるしな」
「いやいや士郎さん、映えを考えれば華やかな西洋剣術だろ。対決構図も明確になる」
ふむ、道理から行けばフジオカさんの意見に一票かな?