さらなる西洋剣術チーム
「しかしさっきからシルバー・コンドル、同じ六人しか出てきていないが。やはりこの六人が主力なのかな?」
「そう見るのが正しいでしょう。つまりこの六人がそれぞれの道場主であり、日本へ西洋剣術を輸入したメンバーである、と」
士郎さんとフジオカさんの見解だ。
だとすれば、組織黎明期の英雄豪傑と言ったところではないのだろうか?
これは出雲・デコ・鏡花と話し合ったことがある。
組織の黎明期、誕生の時代と英雄豪傑といった話題だった。
それまでに無い技術を輸入するとき、組織を誕生させるとき普及させるとき、必要なのは英雄豪傑である、という話になったのだ。
かつて『地上最強のカラテ』が存在した。
その団体は単独流派で世界最大の組織になったそうだ。
そしてその黎明期は、日本全国、あるいは海外へと指導員が飛び、道場破りの日々だったそうだ。
ともすれば弟子たちが、夜の街のならず者たちを殴り倒し、「極真だ!!」と捨て台詞をのこして去って行ったらしい。
おっといけない、実在の団体名を出してしまった
。……話を続けよう。殴られたならず者たちは兄貴分に告げ口する。
しかし兄貴分は敵討ちに出るどころか、「極真かよ……」と苦い顔をして泣き寝入りということになったらしい。
組織が拡大するためには、そういったワイルドな売り込みが必要なのだ。
しかし知名度が上がり、組織が安定期に入るとそんなことばかりしてはいられない。
大会を開催し、弟子の質を上げて全日本選手権に送り込まなければならないだろう。
チンピラを殴って凄んでいる場合ではないのだ。
そうなると英雄豪傑の仕事は無くなってくる。
もう、梁山泊の暴れん坊ではいられないのだ。
そうなると英雄豪傑の居場所はなくなるしかない。
自然と組織を離れざるを得なくなるだろう。
そんな話をあの出雲鏡花としてしまった。
自分の利益を膨らませることにしか興味の無い女だと思っていたが、意外にも出雲鏡花はこの話に食いついてきた。
「仕方ないことですわ、リュウ先生」などと、目頭に熱いものを浮かべるほどであった。
そう、シルバー・コンドルの六人は、まさにゲーム界に現れた道場破り、英雄豪傑といったところのはず。
「士郎さんにフジオカさん、その辺りはどう見るよ?」
「令和の剣だな」
士郎さんはあっさり答えた。
「看板を背負っていない、現代青年の剣とも言える」
フジオカさんもキビシイが、私も同様の意見だ。
流派の名を背負って闘う、負けることは許されず闘う。
それが流派、あるいは看板をかけた闘いというものだ。
彼らにはそういった覚悟というものが感じられない。
いや、そんなものにゴリゴリとこだわっていたら、現代社会からはみ出してしまうのでこれくらいが丁度いい。
しかし、それでも……。
「物珍しさ、見たことのなさを武器に、ずいぶんと勝ち星を上げてるぜ」
アマチュアチームのシルバー・コンドルは、破竹の快進撃といった感じで白星を重ねていた。
序盤で痛めつけ、中盤以降でキルや部位欠損といった決定的なポイントに結びつける。
それがシルバー・コンドルのスタイルと言えた。
「お、勝利者インタビューなんてされてるぜ」
「完封勝利だったのに、いやらしく相手を持ち上げてるね」
「わるいことではないのだが、いやらしい」
そう見えるのは、メンバー全員がスタイリッシュ、かつ知性的なイケメンだったからなのか?
「おう、こいつら弟子をプロリーグに出場させるとか言ってるぜ」
文字通りかの秘蔵っ子ってヤツだろう。
「自信満々なところが、また憎いですなぁ」
となると、プロ試合で弟子が負けてもアマチュアの六人チーム(師匠筋)が負けなければ、西洋剣術の価値にキズはつかないという計算か。
上手いやり方だが、誤算がある。
ウチのプロチームも弟子クラスであり、本命はアマチュア軍団に所属しているのだ。
「お?
さらに何か言ってますな。シルバー・コンドルでは西洋剣術の講習会を開催中ですと。伝統的でありながら型に縛られず、かつ実戦的な西洋剣術を学びたい方は、どうぞ当連合へ加盟してください、ですと」
私はアゴを撫でた。
面白くない、伝統的でありながら型に縛られず?
まるで私たちが型に縛られているみたいではないか。
かつ実戦的だと? それでは私たちが実戦的ではないみたいではないか。
そもそも型とは何か?
彼は論じることができるのだろうか?
可笑しな例えを許していただけるならば、豚骨や鶏ガラと言わせていただこう。
そのエキスをじっくりと時間をかけて、丁寧に丁寧に抽出してゆく。
手抜きは許されない、目を離すこともできない。
手間暇をかけて、ゆっくりと自分のモノにしてゆくのが型というものなのだ。
チョロっと『はい、こちらに牽制の一手を打って、それから剣をこう扱ってこちらから斬れば、相手の死角になります』というようなものではない。
インスタントな技術では到底及ばない技術が、そこには秘められている。
そしてそんな即席の技術が実戦的だと? 笑わせるな。
血道をあげて型を練りに練ってきた者の、鬼の求道がどのようなものか、血の授業料で教えてやるわ。
「敵ですな」
フジオカさんが言った。
「あぁ、イマドキの若者にウケは良いだろうが、やはり敵だな」
士郎さんが断じた。
「同意」
私は一言発するだけだった。
「次の資料動画だな。なになに、チーム名がスネークピット? 蛇の穴ってか?」
士郎さんが再生ボタンを押した。
こちらもレイピアを主武器としたチームだった。
しかし、シルバー・コンドルよりもより防御主体。
まるで太極拳か八卦掌をみているような印象だ。
縦回し横回し、レイピアを華麗に回転させて、敵の攻撃をことごとく受け流す。
シルバー・コンドルも使っていた技術だが、より『無傷であること』に重きを置いているかのようだ。
しかし反撃の突き技は鋭い。
まさしく毒蛇のひと噛みのごとく、ピシャリと急所へ突き込んでゆく。
戦果の面での華やかさではシルバー・コンドルに譲るものの、なかなかどうして。
蛇のひと噛みはあなどれない。
それにチョコチョコと防具へとダメージをくれる、斬り技もうるさそうだ。
「技術の洗練という意味では、スネークピットの方が上でしょうか?」
フジオカさんがもらす。
「いや、シルバー・コンドルはバランスが取れてるとも取れるぜ」
これは士郎さんの意見。
実際、ポイント獲得の速度は、シルバー・コンドルが上だ。
そしてこいつらも勝利者インタビューを受けている。
「おう、士郎さん。ケンカ売られとんぞ?」
私は言った。
「生命を的の戦いに美しさはありませんだと。完璧な防御からの一撃こそが勝負を決するのです、言われてんぞ士郎さん?」
「西洋剣術ってのは、ケンカ好きが多いのかな?」
士郎さんはすっとぼけている。
「だってよ、こっちの動画見てみろ。タイトルが『ライオンズ・デン 気迫をもって技を制す』だぜ。これは無双流にたいするケンカだろ?」
ほう、どれどれ。草薙士郎以上の気迫があるや否や。
拝見しようじゃないか。
……うん、頑張ってるね。ロングソードを使って積極果敢、振り回して振り回して振り回して、どんどんと前に出てくる。
ではそれが、草薙士郎やフジオカさんほどの脅威たるや? となれば。
「リュウさんや、判定はいかがかな?」
「出直して来い。令和の小僧っ子風情が、どれだけはね返ったところで、昭和生まれに鍛えられた私たちには到底及ばんぞ」
「士郎先生、御子息のキョウちゃん♡辺りでもお釣りが来ると考えますが」
フジオカさんが訊く。
「いや、キョウの奴はこういうのを見ると力が入りすぎる。むしろユキの方が適切に対応できるというか、俺に息子はいない」
まだ言ってやがる、そろそろキョウちゃん♡を後継者と見てやれば良いものを。
「いや、リュウさん。あんたの評価は低いがこのライオンズ・デン、攻撃しながら防御もあって振り回しの中に突き技を入れてくる。生半な腕じゃないぞ?」
「それを言うならスネークピットもだ。あの六人を相手にするなら、ウチでもネームドクラスを出さないとならん」