プロ選手練習試合
さてそれでは、ウチの連合軍が西洋剣術に慣れるということで、プロ選手たちの稽古相手も増えるということになる。
ということで。
「アキラくん、相手をしてくれるかな?」
迷走戦隊マヨウンジャーのボクサー。
男の子みたいだけど女の子、赤ブルマーに体操服の女の子。
アキラくんに協力願う。
「あの、ボクさぁボクサーなんだけどいいんですか?」
ガッツ石松が『うわさのチャンネル』で使っていた駄洒落だ。
片手剣を手にしてはいるが、彼女の専門は拳闘である。
だが、そこが良い。
「構わないさ、むしろ好都合。ボクシングも初期の頃は、フェンシング道場やレイピア道場でフェイントやインサイドワークを稽古していたんだよ。アキラくんならジャブの要領で片手剣も使えるだろう」
ということで、右前の真半身。
左手は腰に添えたアキラくん。
「サウスポーの構えは慣れてないんだよな」
まずは二丁トマホークのモヒカンを相手。
プスプスプスプス♪
どこが慣れとらんのじゃ、とツッコミを入れたくなるほど簡単に、モヒカンを蜂の巣。
「アキラくん、さらに足を軽快に。ブルース・リーの死亡遊戯だよ」
「はい、リュウ先生!」
死亡遊戯、その残されたフィルムの中でブルース・リーは、細い竹竿を使ったフェンシングテクニックを披露している。
その軽快な竿さばきたるや、彼が並の身体能力ではないことを物語っている。
「モヒカンも体格と筋肉のことは忘れろ! アキラくんのリズムに乗って、軽く軽くだ!」
そう、鈍重なモヒカンをアキラくんに向かわせたのは、リズムを身に着けさせるため。
そうしなければ、西洋剣術の餌食になってしまうからだ。
「モンゴリアン、君も見ておけ。どうやってリズムに乗るか、どうすればリズムに乗れるかだ」
「押忍」
そしてモヒカンは、不器用ながらも小さな垂直跳びを連続。
そのうち右足メイン、左足メインと切り替えを入れて、アキラくんを中心にサークリングを始めた。
「そうだ、いいぞチャンプ! 今日のお前はシュガー・レイ・ロビンソンだ! チビッコを華麗に料理してやんな!」
キン、プスプス。
キン、プス。
ほう、アキラくんの突き技を二つまで反らしたか。
上出来上出来。とはいえ突くとなれば、アキラくんに積み重ねがある。
やはり勝利とはいかない。
結果は滅多刺し、圧倒的にアキラくんの優勢勝ち。
「まだ始めたばかりなんだ、これでも上々さ。ステップワークにサークリング、この二つを忘れない。そしてどんなとき、どんな場所でアキラくんに突かれたか。それを思い出すんだ」
次、モンゴリアン。
これは手槍を使っている。
アマチュアイベントでの我が軍の得物は洋風に決定したが、プロ試合ではそんなことは言っていない。全員が慣れた武器だ。
「へへ、悪いなアキラくん。同じ突き合いなら得物が長い方に分があるぜ」
モンゴリアンは不敵に笑うが、目は笑っていない。
それでは手合わせ開始。
……プス……プスプス……プス。
長いリーチを持て余している。
モンゴリアンもまた、一方的に突かれまくった。
「足足足、足にリズムが無いぞ、モンゴリアン!」
「兄者、動け動け! 動かんと餌食にしかならんぞ!」
普段無口なモヒカンも声に出す。
フン、と鼻を鳴らしモンゴリアンが仕切り直す。
まずは攻撃を忘れること、そして足にリズムを作ること。
それだけで被弾の数が劇的に減った。
そこからリズムの中の突き技を繰り出す。
アキラくんは一瞬だけ、入りにくそうな顔をした。
が、ギアを上げたようだ。
モンゴリアンの突き技に合わせてステップイン、プスッと蜂のひと刺し。
安全地帯へ退避して、またステップイン。
とにかく出入りが素早い。
その結果、やはりアキラくんの判定勝利。
「へへっ、モハメド・アリが同じジャバー(ジャブの使い手)でよりリーチの長い、アーニー・テレル相手に勝利したことがあったんですが、ステップインとステップアウトの速度が勝因だったんですよ」
それだ、まさに。
ジャブ合戦の肝は足さばきの素早さ、それを活かしたポジショニング。
その次にようやくハンドスピード、今回の場合はブレードスピードということになる。
ここでアキラくんは出番終了。
新たな刺客をプロ選手たちに送ろう。
「ヘイッ! 我らが小隊長!! トヨム、カマンっっ!」
「よしきたガッテン!! アタイの相手はどこの唐変木だい!!」
「悪いけどトヨム、アンタの姉ちゃんだよ」
「ゲッ、ね、姉ちゃん!?」
トヨムの顔から血の気が引く。
しかし褐色顔なので本当に血の気が引いているかどうかは、分からない。
褐色肌に痩身低躯。
鋭い目つきに濃いめの眉。
姉のライはボサボサ髪をポニーテールに結い上げ、トヨムはベリーショートに刈り込んでいた。
そして得物は、姉のライが斬馬刀。
トヨムが両手持ちのロングソードを選んでいた。
さあ、どうするトヨム? ライは角帯に斬馬刀を落とし込み、トヨムはすでに抜いていて、第剣を右肩にかついでいる。
居合VS蛮刀という具合に見えるだろうか?
いやいやどうして、精巧な居合の術理の中にもライは野蛮な血を求めているし、トヨムはトヨムで緻密な作戦を用意しているようだ。
剣身一体、まずはトヨムが歩を刻む。
重たい剣は斬って良し突いて良し。
さらには平べったい面を活かして、叩くのも良しときた。
両者、相手の出方をうかがうかのように、一定の距離を保ってサークリング。
ライの斬馬刀はまだ鞘の内にあるが、腰に差しているだけあって動きにくそうだ。
その点トヨムは剣の棟をピタリ、身体の正面にへばりつかせているので、剣身一体が完成。
アウトボクサーのようにスイスイと軽快な足取り。
好ポジションをうかがうのがトヨム。
そこへカウンターを合わせようとするのがライ。
しかしライもいつまでもトヨムの足には合わせていられない。
歩幅を狭くしてツツツ、と足を変えた。
途端にトヨムのリズムが悪くなる。
ライの方も好ポジションを狙い始めたのだ。
ライを中心にサークリングしたいトヨム、それを許さないライ。
こうなってくると……。
正中線を守るように立てていたロングソード、トヨムはこれを不意に突き出した。
狙うはライの右小手、斬馬刀の柄にかかっている手だ。
ライはこれを嫌う。
やはりペースの奪い合い、一進一退の攻防が続く。
ここでライも気づいたようだ。斬馬刀を抜き放つ。
「やっぱ西洋剣に居合は難しいや。私もトヨムのマネっ子してみよう!!」
もちろん西洋剣術に居合が不利、ということではない。
ライの技術ではトヨムの西洋剣に勝てないという意味だ。
そしてライもまた、正中線を守るようにして、斬馬刀を立てた。
「ほ、こりゃ良いねぇ。動きやすいや♪」
ライもまた水面を走るアメンボのように、稽古場の上を走った。
同じ武器、同じような性格、技量も同等となれば、どちらが上ということにはならない。
ただ、ライにとってトヨムは良い稽古相手になったようだ。
ジャブのような軽い差し合い。
斬馬刀を軽く軽く扱って、スイスイとトヨムの攻撃をあしらってゆく。
あしらいはするものの、やはりトヨムもチクチクと軽いジャブ突きを出してくるので、うかつには踏み込めない。
お互いに浅手を交換したところでタイムアップ。
互角のやり取りで練習試合を終えた。
「へぇ、あの暴れん坊がねぇ。一端の剣士みたいなことしてやがったな」
士郎さんからの評価も高い。
これまででもっとも良い成果を上げた選手だと、私もライを評価する。
「う〜〜ん、私にもあれができるかなぁ……」
唸っているのは、薙刀使いのヨーコさんである。
「ヨーコさんは試合や大会の経験があるよね?」
私が訊くと、ヨーコさんはハイと答えた。
「ならばそんな感じさ。コチラが必死ならアチラも必死。キレイな大技なんて簡単には決まらない、だから小技を積み重ねてゆく」
「決勝戦、強豪校が相手っていう想定になりますね」
そしてトヨムの前に立つ。